命蓮寺
なんでも、命蓮寺というのはその寺の僧が話している俗称であるらしく、外観そのものはちょっと豪華な掘立小屋らしい。おそらく謙遜の部分も大いにあるのだろうが、少なくとも都で威張っている僧どもが住んでいる寺よりはみずぼらしいのは確かなのだろう。
といっても、都の住居と外の住居を比べるのが間違いなのだろう。というより、アッチが異常な程に豪華絢爛なだけで、むしろ装飾過多なのかもしれない。
萃香曰く、僧は女性。年齢も適齢期をとうに過ぎているようで、いわゆる嫁き遅れらしく、また子供はいないとのことだ。伴侶も居ないみたい。しかし、胸はたいそう大きいらしく、屈んだとき、それはそれは暗い谷間が形成されるとのことだ。
そして、その僧の周りには、不特定多数の協力者……つまるところ、仲間がいるらしい。詳細は把握できていない。いまのところ分かっているのが、なかなか力のある妖怪が僧の下に就いているとのことだ。
とくに胸が大きいらしく、歩くたびに服の上からたゆんたゆんと揺れるとのこと。お尻も大きく、安産型だという。とくに胸が注意。お尻にも注意。あと、胸にも注意。
お前、何回胸を連呼するんだと萃香に言ってはいけない。彼も言わない。それはもう、苦々しく胸を連呼する萃香の表情は、まさしく鬼であり、迂闊なことを口走れば、彼とてどうにかされていたであろうことは想像に容易だ。勇儀ですらそっぽを向いて関わらないようにしているあたり、萃香から放たれる持たざる者の気迫は凄まじいものがあったということなのである。
その怨念にも似た気迫は一晩経っても変わらず、どことなく頬がこけた彼が出発してからも、しばらくそのままだった。
椛、はたて、にとり、文はその気迫に耐えられず、一瞬で失神。さすがに止めねばならないと思ったのか、妙に艶やかな頬に苦笑いを作りつつ、勇儀は萃香を宥めた。
もちろん、そんなことで萃香の機嫌が良くなるはずもなく、それどころか勇儀の充実した腰回りと、妙に気だるそうな姿に、さらに怒りを燃やしたことは言うまでも無い。
その怒りも、結局は勇儀の、彼が眠るまで恥ずかしがっていたのが悪いという言葉に、鎮静化したのは、それからすこし経ってからであった。
件の寺は、都から離れ、山からも離れた、森林の奥にあった。むせ返るような緑の匂いが常に付いて回るその場所は、絶えず生物の鳴き声が聞こえ、人里よりもよっぽど五月蠅く思える。想像していたよりもはるかに辺鄙なところにあると彼は思った。そこから少し離れた場所にある村で彼は命蓮寺に関しての情報収集を行ったが、いくつかの事項がすぐに分かった。
命蓮寺。表向きは、その寺の主である僧が一人で切り盛りし、近隣の村を襲う妖怪を安い報酬で退治し、また時に村を訪れては説法を説いている。僧特有のどこか上から見た目線も無く、あくまで対等に接する彼女は、近隣の住人からの信頼が厚い。それは見た目山賊と見分けがつかない厳つい男ですら、命蓮寺の話をするあたり、その信頼の強さがうかがいしれた。
聞く限りでは、お手本を体現したかのような僧だ。弱きものを守り、時に助言し、時に道を正す。報酬も他の僧に頼むよりもはるかに安く、中には無報酬で行ったこともあるみたいで、中には僧を神聖視している者もいた。
聞いた話ではたいそうな美人らしく、近隣の男連中全員から惚れられているみたいだ。といってもある種の、神聖的な何かに対する気持ちが大部分らしく、アプローチを掛けるつもりはないらしい。
そして、ここからが村人には知らされていない、知ることが出来ない情報。命蓮寺の僧が、人間のみならず、妖怪も助けているという話。見返りに妖力を手に入れて、いったい何をしようと考えているのだろうか。
……考えたところで、彼には答えが出せるはずもない。妖力等、そういった知識は多少諏訪子のところで勉強はしたものの、元々そういった才能を持ち合わせてはいないのは、永い年月で悟っているので、彼はさっさと考えるのを止めて行動することにした。
そして、情報を頼りに村を出てから歩くこと一時間。もしかして迷ったかと不安に感じ始めたとき、眼の前に目的地が見えてきた。
……あれが萃香の話していた命蓮寺か。掘立小屋と言っていたが、けっこう大きなお寺じゃないか。まあ、多分判断基準が都の屋敷なのだろう。
彼は寺の関係者に気付かれないよう注意しつつ、草陰に隠れるようにしゃがむ。そっと木陰から様子をうかがった。
その寺は思っていたよりも大きく、かといって、それほど大きいとも思えない、そんな微妙なサイズの寺だった。ぐるりと周囲を木材で囲いしており、見れば至る所に札が貼られている。実際に体感してみなければ効果の程は分からないが、おそらく妖怪除けの結界だろう。開かれた正面入り口にも、分かりにくいように札が貼られているあたり、何も考えずに正面から入ったら、そこで終わるだろう。
目もそれなりに行き届いているようで、目立って汚れた個所は見当たらない。探せば見つかりそうだが、探したところで仕方が無い。
チチチチ、とどこかから鳥の声が聞こえる。声のした辺りを見ると、青色の羽が美しい、小さな鳥が、小枝に数羽止まっていた。
こういうとき、動物の声が逆に隠れ蓑になる。多少の物音を立てたところで、相手に気付かれにくい。大抵の動物は人間等に見つかれば逃げ出すので、それに倣って逃げれば相手がかってに動物と勘違いしてくれるのである。
そうして大人しく様子をうかがい続けるが、寺には人の気配は感じられず、動物の立てる物音しか、聞こえてこない。
困った。彼は思った。萃香からの情報では、本丸である僧以外にも多数の仲間がいる。その仲間ですら全く姿を現さないので、情報を集める手段が無い。村人の話では、今日は僧が下りてくる日ではないので、すれ違いになったことも考えにくい。よしんばすれ違いになったところで、いつも僧が一人で説法を説きに行くので、寺には仲間が留守を預かっているはずだ。
このまま待ち続けるのも良いが、ここは人里離れた森の中。動物ならば対処は出来るが、妖怪がやってくれば、戦闘は避けられない。
そうなれば、寺の関係者に気付かれることは必至。萃香から頼まれた仕事は、寺を調べてくれということだけで、倒してくれというわけではない。目的は一つ。寺の僧が何故妖怪を助け、妖力を集めているのかということ。
監視し続けるのも駄目、乗り込むのも駄目、となれば、出来ることはただ一つ。
「潜入するしかないわね」
その言葉に、彼は一つ、頷いて……ハッと我にかえり、振り向いた。
途端、視界が闇に閉ざされる。同時に、むにょん、と顔面がとてつもなく柔らかい何かが覆い、次にむせ返るようなあまやかな匂いが鼻孔をくすぐり、最後にまどろんでしまいそうな温かい弾力を知覚した。
……え?
「あら、大胆ねぇ」
声……女性の声が、頭上から彼の耳に届く。少女……よりも少し低い、成熟した女性を思わせる艶やかな音。彼は全身から冷や汗を一気に噴き出すと、傍目にも慌てているのが分かる動きで、背後へ飛びのいた。
視界に光が戻る。大きく茂った大樹達。葉の影から見え隠れする鳥の羽先。うっすらと湿った土の感触。そして、彼に声を掛けた女性の全貌が、露わになった。
あ……。
そして、呆けた。眼前に優雅に佇む女性の美しさに、彼は見惚れた。金色の髪。久しく見ることが無かったその色の美しさは長く、尾てい骨あたりまである。彫の深い顔立ちには決して西洋特有の極端さは無く、下品にならない程度に、それでいて上品に整った造形。瑞々しい唇には真っ赤な紅が塗られており、それが女性の魅力に妖しさを足していた。
なにより彼の視線を釘づけたのが、ドレス……というのだろうか、彼には分からなかったが、着物とは違う、ゆったりとした衣服を押し上げる、二つの大きな膨らみ。大きく開かれた胸元からは、はち切れんばかりに白い柔肌が盛り上がり、男の情欲を誘った。腰紐は女性の細さを強調し、スカートの内に隠された水桃の張りを彼に想像させる。
今まで何度か、永琳が知れば激怒して心中してしまいそうな話だが、女性と関係を持ったことはある。彼の心には今も変わらず永琳が居て、それは彼の心の奥の奥に静かに根を生やし、幾月の月日が流れたとて変わることのない想いである。
それなのに、彼は見惚れてしまった。目の前の女性……名前は知らないうえに、女性から感じる気配はまぎれも無く妖怪の証。本来ならば、彼は瞬時に体勢を立て直し、攻撃に移れるようにしていただろう。
油断。いうなれば、それは油断でしかなかった。永い時を生きてきた彼は、思わず、本当に思わず、口をついで出てしまった。
「綺麗だ……」
「うふふ、そう、綺麗…………え?」
上品に、それでいて静かに、口元に手を当てた女性……その手は絹の手袋で覆われていたが、しなやかな細い指が、ピタリと動きを止めた瞬間。
白かった女性の頬が、目に見えて赤く色づいた。音も無く、スーッと、静かに、鮮やかに。
その紅潮は頬だけに留まらず、耳を赤くかえ、首筋に色を付けて、胸元まで肌色に色づく。しまいにはうっすらと汗を掻き始めた女性は、両手で真っ赤になった顔を覆い隠すと、その場にゆっくりとしゃがんだ。膝頭に手の甲を当てている様は、まるで思春期の少女を想像させた。
その女性の姿を見て、ようやく自分が口走った言葉に気付いたのだろう。彼は普段の姿からは想像もつかない程に狼狽し、慌てて弁解を始めた。もちろん、彼の頬は女性に負けず劣らず色づいていたりする。
「い、いや、あの、すまん、いきなり背後に現れたもんだから、驚いてしまって、き、気に障ったのなら謝る、すまない」
「……………………」
返事は返ってこない。だが、僅かに身じろぎをしたので、声は届いているのだろうことは、彼にも分かった。
「本当、うん、すまん。初対面でいきなり綺麗とか言われても警戒したり、恥ずかしく思ったりしてしまうのかもしれんが、別に悪い意味で言ったわけじゃないんだ。ただ、本当に綺麗だと思っただけで……か、髪も黄金のように輝いていて綺麗だし、顔立ちも整ってて、思わず見惚れてしまったし、体つきも……あ、い、いや、別にそんな、悪い意味じゃな、ああ、い、いや、そういった目線で見たわけではなくて、純粋に美しい女性だと思っただけで、なんというか、こんな綺麗な女性がいるんだな、と思っただけで、で、でも、そういう、性欲とかそんな目線じゃないぞ、ただ見惚れてしまっただけで、綺麗な人に綺麗と言っただけで、魅力がある人に魅力があると言っただけだから、決して悪い意味じゃない。さっきあんたに触れたときも良い匂いがして、こう、胸が高鳴ったというか、なんというか、あ、いや、これも、そういう意味じゃないからな。ただ、お前が凄く魅力的だっただけで、だからといって、俺がそういう意味で言ったわけじゃないからな……そ、それに」
「ねぇ」
小さな声。女性の口から出たとは思えない、可憐で儚いそれは、彼の墓穴を掘りまくった言い訳をピタリと止めた。
言い表せられない不可思議な罪悪感に彼は胃をキリリと痛ませつつも、次の言葉を待った。
女性は、変わらず両手で顔を覆って膝に押し付けている。そのまま、女性は消え入るような声を出した。
「……ねぇ」
「な、なんだ」
「……私って、本当に綺麗?」
「少なくとも、俺にとっては見惚れる程度には綺麗だと思う」
きゅう、と良く分からない鳴き声が女性の方から聞こえた。
「で、でも、さっき貴方も見た通り、私ってこんな顔よ。彫だって深いし、化物みたいな顔なのよ。身体だって変にやせ細っているし、腰回りだって全然肥えていないのよ。胸もお尻も極端に大きいし……」
何を口走っているんだ、この女性は。と彼は内心思ったが、元々は自分の発言でこの事態を招いてしまったので、耐えるしかない。
「……他のやつはどうかは知らないが、俺は好きだぞ、そういうの。彫が深いって言うが、俺はあんたみたいな人の方が好きだ」
ただ、妖怪でなければ。
「……本当?」
「本当だ」
「本当の本当に?」
「本当の本当だ」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当だ」
「……私って、綺麗?」
「……何度も言っているが、あんたは綺麗だと思うぞ」
きゅう、とまた変な声が女性の方からした。どことなく、さっきよりも身体を縮めているようにも見える。そんなことしたせいで、腕の間から乳肉が盛り上がり、ただでさえ見えそうだった頂きが完全に露わになっており、これまた以外にも桃色の先端が二つ、彼の視線に捉えられた。プリッと少し大き目で、しゃぶりがいのあるそれを見て、彼は顔を赤らめて首を逸らした。
「………………」
女性はそのことに気づいていないのか、無言のままジッとしている。彼もどう言葉を掛けたらいいのか分からず黙って女性を見守る。
気まずい空気がお互いの間を流れる。このままでは埒が明かないと思った彼が口を開こうと思った瞬間、その声が静かに響いた。
「……嬉しい」
ポツリと呟かれたその言葉。ほんのわずかに顔を上げた女性の、両手の間からこれまたわずかに見える、弧を描いた唇。
彼は思わず息を呑んで顔を赤らめると、気恥ずかしそうにそっぽを向いた。
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