妖怪も人間も、年頃の女の子は皆同じ。ほんの些細なきっかけで暴走する、そうしたら最後、彼女たちを止められるものは誰もいない。
女の子
文に連れてこられた場所は、大きな滝の裏にある洞窟の中。入り口から見た時、クマか何かが住んでいそうに見えたが、奥に行くと、使い道の分からない雑多な道具があちらこちらに置かれていた。
そして、そこに居た文を除く三人の妖怪を見て、彼は思った。
……なに、これ。
「げげ、人間!? ど、どうしよう、どうしよう!?」
見ているこっちが慌ててしまいそうなぐらいに慌てふためいている少女。転がっていた壺を頭に被っては捨てて、文の後ろに隠れたと思ったら、文の盟友じゃなかったの、という発言に慌てて飛び出したと思ったら、手足をバタつかせて。傍目には何をしたいのかさっぱり分からない。何をそこまで少女を慌てさせているのかは彼には分からないが、とりあえず安心させるつもりで手を振ってみる。途端、少女の動きがピタリと止まり、今度はモジモジと両手の指を絡めて、俯いてしまった。どうしろというのだろうか。
その少女の名は、河城にとり。緑色の帽子に、背丈からは考えられない大きな袋を担いだ姿に作業服……みたいな衣服を身に付けた、水色の髪が目に優しい、どこにでもいそうでいない女の子だ。彼にはそう見えなかったが、文曰くれっきとした妖怪で、河童であるらしい。
垂れ目が可愛いその可愛さに騙されるべからず。かなりの力持ちらしく、鬼には劣るが、その力は強大で、人間一人を物理的に引きちぎるのは簡単にできるらしい。思わず身構えてしまった彼は、決して悪くは無い。
次に、彼は物騒な大剣とお手製であろう小楯を背中に背負った白髪の少女を見た。名を、犬走椛。見慣れた麻服には、不可思議な模様が描かれており、それは白狼天狗という種族を現す文字らしく、文とはまた違う天狗とのこと。よく見れば、髪に隠れるように犬耳が生えており、本来耳が生えているであろう場所には何もなかった。千里先まで見通す能力を有しており、文字通りどこに隠れていても、すぐに見つけてしまうらしい。
彼の視線を感じた椛は、ふむ、と一度頷いてから、彼の傍へ寄った。文とほぼ同じ長身である彼女は、当然彼よりもかなり背が低い。自然と見上げる形になった椛は、ほう、と溜息を漏らした。
「ほほお……貴方が文様が連れてきた人間ですか……ふむ、いい体つきをしていますね」
「褒めていただいて光栄だ」
「しかし、少し背丈が高すぎると思います。これでは首が疲れてしまいそうです」
「それは俺のせいじゃないだろう」
その彼の返答が気に入らなかったのだろう。唇を尖らせた椛はググッと踵を上げて、背伸びをした。それでも天辺が彼の唇にも届かない。それがさらに気に食わないのだろう。別に、女の子だからいいんじゃないのかな、と彼は思ったが、少女はさらに足を尖らせて背筋を伸ばした。
プルプルと足指が震えるのを堪えつつ、顔を真っ赤にして背伸びしている様は、どう見ても妖怪には見えない。ちょっとでも背を伸ばそうと顎を上げているせいで、ハラリと椛の前髪が横に流れる。露わになったおでこはツルンと白く、皺一つない。
そっとそのおでこに手を当てると、椛ははふう、と息をついて踵を下ろした。と、思ったら、両手を上げて指先を伸ばす。その先端は、彼の頭よりも高いうちにある。
むふう、と、してやったりという表情になっている椛を見て、彼は何を張り合っているんだろうな、この子は、と思った。口には出さなかった。
そして最後の一人。部屋の隅に置かれた壺の後ろから顔を出した少女を見つめた。少女はというと、彼と目が合った瞬間壺の後ろに隠れてしまった為、その顔立ちは良く分からないが、文をどことなく引っ込み思案的な顔立ちにしたというのが近いのかもしれない。壺の両端から二本の髪の束が見えている辺り、おっちょこちょいの一面もあると、彼は睨む。
「へ、へん、人間がこんなところに何の用よ!」
姫海棠はたてが、壺の後ろから威勢の良い声を彼に放つ。どれだけ威厳を出そうとしても壺の後ろの隠れているせいで妙に迫力が無い。声も甲高いうえに、姿が完全に隠れていないので、なおさらだ。
「何の用も何も、そこにいる烏天狗に連れてこられただけだ。文句なら、そこで笑っている女に言え」
声が止んだ。
「……ふ、ふん、どうやったか知らないけど文を誑すことが出来ても、私は騙されないわよ!」
「はたて、私は別に騙されていないわ。私が面白そうだから連れてきただけよ」
文の援護攻撃。再度、声が止む。今度の沈黙は先ほどよりも長い。いつの間にか彼の手を握ってニマニマ笑っているにとりの頭を撫でつつ、彼はジッと展開を見つめた。
「………………え、えっと……」
「もしかして、あんた怖いの?」
「怖くない!」
なんて単純な子なのだろう。侮られていると思ったのか、それとも彼に腹を立てたのかは分からないが、はたては思いの他あっさり壺の前に躍り出た。鋭く横に伸びた目が、どことなくセクシーな少女は、ずん、ずん、ずん、と荒々しく地面を蹴って彼の目の前へ近寄って……椛の後ろに隠れた。
……どうしようもない何かと共に沈黙が、辺りを包む。さすがにその沈黙には耐えられなかったのだろう、はたては椛の肩口から、ひょいっと顔を出した。
「…………………」
「いや、俺なんで睨まれているの?」
別に怖くは無いが。睨んでいるというより、赤くなった頬から見るに、ふくれているというのが正しいのかもしれない。顔立ちそのものは、キリッと鋭く、少し目に力を入れれば、迫力が出るだろう。しかし、はたてから放たれている雰囲気が、その迫力を中和していた。
「……はあ、仕方が無い。ほら、ちょっと両手上げて」
文の指示と共に、右手からにとりの手が外れる。言われるがまま両手を高く上げて万歳をすると、にとりと椛から、驚嘆混じりの歓声が漏れた。彼女達の背丈から相まって、まるで女子中学生に囲まれた大学生みたいだ。
はたても二人と同じく、デカイ、と零す。その背後に迫った文には気付く様子はなく、文が素早くはたてを羽交い絞めにして、彼へと突き飛ばした。
きゃん、と可愛らしい悲鳴。さすがの天狗も対応出来ないようで、たたらをふんで彼の胸元へ飛び込んだ。彼も予想していなかった状況に驚き、慌ててはたてを抱きかかえて体勢を整える。それはもちろん、はたても同様で、彼女も倒れないよう彼の背中に細くも小さな両手を回し、踏ん張った。
小さい。最初に彼が思ったのは、それだった。この場で一番背丈が低いにとりより、少しは高いが、何分比較対象が低すぎる。背伸びしても彼の顎にすら届かない。背中に当てた掌に感じるはたての背骨の細さに、は改めて実感した少女の小ささに、目を見開く。顎を落とせば旋毛が見え、何か香を使っているのか、花の香りがそこから漂い、彼の鼻孔をくすぐった。
驚いたのは、はたても同様だった。ひ弱だと教えられていた人間の胸板の厚さに、触れた指が自然と強張った。
固い……岩のように固いけど、ちょっと柔らかくて、変な感触。最初に思ったのはそれで、次に感じたのは温かさだった。父親の裸は何度か見た事はあるし、抱きかかえられたことも幾度もあるが、ここまで固くはなかった。麻服の上からでも分かる、盛り上がった筋肉の弾力。ひ弱であると聞いていた人間が持つ、意外な強靭性に、はたては先ほどまでも気恥ずかしさは鳴りを潜め、好奇心が鎌首を持ちあげ始めた。
ぽんぽんと、胸を叩く。はたての語彙では言い表せられない不思議な弾力が掌に広がる。グッと押してもビクともしない。目を輝かせ始めたはたてを見て、嫌な予感を覚えた彼が離れようとするが、少し遅かった。
グイッと、彼の裾が大きく捲くり上げられ、田の字が積み重なった彼の腹筋が視線に晒された。途端、湧きあがるどよめき。言わずもがな、彼女達である。アリのように群がって来たら最後、玩具にされるのは時間の問題だった。
「うわ、変な形! はたて、触っても大丈夫なの?」
「うん、大丈夫みたい」
先ほどまでのビクつきようはどこへやら。彼の肌に顔を赤くした文が、恐る恐る腹へ指を伸ばしているのを尻目に、はたてはベタベタと指紋を付けるように遠慮なく撫でまわし、きゃっきゃとはしゃいでいる。
椛は紅潮した顔を手で隠しつつも、大きく広げられた指の間からジッと見つめ続け、呆けた様子でいたにとりも、盛り上がった腹筋を摘まもうとしているが、摘まめず、そのたびに、うわ、うわ、と小さく歓声を上げる。
……こいつは、いったいどういう状態なんだ?
彼の疑問は、当然ながら答えは返ってこない。おまけに唯一冷静な対応をしていた文ですらはたてに倣って弾けてしまった為、事態を収拾出来るのは彼しかいない。
「……なあ、俺も用事があるし、そろそろお暇させて」
「せー、の」
「よいしょ」
「おい!?」
暴走した女子は誰にも止められない。息の合った天狗二人が一息に麻製ズボンを下ろすと、露わになるのはパンパンに張りつめた太股と、男の武器を収めた白褌。きゃあきゃあと更に燃えあがるボルテージに椛とにとりも釣られて暴走していく。
太股に生えた産毛を引っ張ったり、太股を叩いたり、抓ったり、摘まんだり、撫でたり。固い、太い、でこぼこしてる、とどこまでも上昇していく彼女達のテンションに、彼はもう、彼女達が満足するまで大人しくすることにした。
しかし、大人しくしたところで事態が良くなるはずも無く、大概は悪くなるだけであることを。彼は改めて思い知ることになる。
「うわあ、大きいな。ねえねえ、にとり、私と全然違いますね」
顔を赤くした椛が、膝まであった麻服の裾を捲くりあげる。健康的に日焼けした二本の細足が、彼の眼前に晒される。顎の辺りまで捲くり上げているせいで、なだらかなお腹とちょんと膨れた双山が見え、バサッと捲くられたことで、椛の匂いが周囲に広がる。乙女の亀裂を守るように僅かに生えた白毛は、花開く前の蕾を連想させた。
「違うね。私とも全然違うし、お父さんよりもずっと大きいよ。ほら、私とも違う」
ぺちぺちと椛の太股を触っていたにとりも、椛に見せる為に麻製ズボンを脱ぎ捨てて、裾を捲くった。ぽこっと飛び出したお腹と、成長の兆しが感じられない二つの実がぽつんと量胸の中央に鎮座していた。固く閉じられた亀裂は幼さしか感じられず、見た目相応の造形で、ぽつんと皮被った塊が亀裂の頂上で大人しくしていた。
「ねえねえ、見てみて。お尻の形も私たちと違うみたいよ」
「ええ、本当~?」
「本当だってば。それじゃあ、確認してみてよ」
いうやいなや、はたては自身の裾をぺろんと捲ると、前かがみになって、クイッとお尻を突き出した。ちょうど彼の方へ向いたそれは、ぷるんと水分と脂がたっぷり詰まっていた。肩幅程度に足を開いているせいで、乙女亀裂が僅かに開き、乙女穴がくぱぁっと広がる。他の部分よりも僅かに黒ずんだ窄まりが、左右に開かれた尻たぶによってその姿を彼に見せた。突然思わず咽そうになった彼は、決して悪くない。
「おお、確かに、全然違う……それに、はたてのは柔らかいけど、こいつのはなんか筋があるみたい」
「こら、叩くな、ひゃん、冷たい」
「あ、ごめん。私の手、冷たかった?」
文の手が、彼の尻とはたての尻を交互に叩く。ぺちん、ぺちん、と音がするたび、はたての柔らかな尻肉がぷるんと震え、文の掌を優しく受け止めた。同時に、きゅ、きゅ、と締りを見せる窄まりが動く。お尻から伸びた両足はあまりに白く、ひざ裏の筋が、妙に色濃く見えた。
「文のはどうなの? 私よりも背丈あるし、近いんじゃないの?」
「う~ん、分かんない。ちょっと見てみて」
遂には文までお尻を出した。この中で一番背丈がある文の尻は、この中で一番成熟しており、椛よりも花が開いていた。乙女亀裂の周りには申し訳程度に生えた黒毛は椛と同じだが、亀裂を押し上げるように飛び出した乙女唇が違う。椛よりも下付きなのか、同じ態勢でも彼女の場合は乙女核が僅かに見える。
ぺち、と片手で自分の尻を叩いた文は、首を傾げつつ、はたてを見やった。もちろん、その体勢は膝を伸ばした前かがみ。肩幅程度に足を開いているおかげで、彼の目からはピクピクと震える乙女穴と、色の沈着がほとんどない窄まりが良く見えた。
「ちょっと待って、今確認するから」
ぱちん、とはたての掌が彼と文の尻を往復する。大した力は込められていないように思えたが、はたてと比べて肌が敏感なのだろう。文のお尻は3回目の平手で、赤くなっていた。そして、最後に自身のお尻を揉むと、文のお尻を労わるように撫でた。
「どう?」
「う~ん……私よりは弾力もあるし、固い方だと思うけど、やっぱりこいつの方がずっと固いし、筋があるわね。文のは平気だけど、こいつの尻は、叩いていると私の手が痛くなってきちゃうもの」
「ん~、そっか。まあ、そいつは男だし、ちょっと違うのかもね」
裾を戻した文とはたてが、互いに首を傾げる。あれや、これやと言い合っていたにとりと椛もとりあえずの満足はしたのか、すこし落ち着きを見せ始めているようだった。
………………………………あ、終わりですか、そうですか。
泥人形に徹していた彼は、怒涛の波状攻撃が終わり始めたのを確認して、ようやく意識を取り戻した。何度も触られ、抓られ、時には齧られた太股は指紋と唾液でベトベトだ。お尻も手加減しているとはいえ、妖怪の腕力。物の見事に赤くはれ上がっており、お風呂に入った時の地獄を予感させる。
……はあ、えらい目にあった。
不幸中の幸いにも、褌には手を付けなかったようで、そこだけ着衣の乱れはなく、きっちりと収納されていた。さすがにそこになにがあるのか少女達も分かっているらしく、ちらりちらりと視線を投げかけては、恥ずかしそうに眼を逸らしたりしていた。
とにかく、酷い有様だ。彼は手拭いで汚れを拭くと、溜息をもらしつつズボンのすそを上げようとした。
その瞬間。
「おいっす。お前ら、人間を攫ってきたって聞いたけど、どんなやつ……なの……か、い……」
ふらりと顔を出した一人の女。額に伸びた一本角が、その女性を人外であることを知らしめ、薄く赤らんだ頬が色気に溢れる、手櫛で髪を梳いている様は、とても艶やかだ。
「にゃはは、あんまり激しく遊ぶなよ。死んだら色々と面倒……だか……ら」
その美女の後ろから顔を覗かせたのは、一人の少女。頭に対角に生えた二本角、にとりよりも一回り小さいその姿は、例え妖怪であったとしても、脅威には見えない。しかし、身体よりも一回り大きい獣を担いでいるあたり、にとりと同じく強大な力を持っているのだろう。
「……ああ~……その、うん……また会ったな」
彼の諦めに満ちた言葉と共に、二人の妖怪が彼の名を呼んだ。
「ああ、久しぶりだな、勇儀、萃香」
かつての鬼友達が、彼に飛びかかったのはその後すぐだった。
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