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  東方典型録 作者:葛城
今回、ちょっとレイアウト変更しています。見にくかったら、また戻します。
次の目的地は
 さすがに疲労困憊になった彼は、翌日、翌々日は休むことにした。といっても、屋敷での仕事は相も変わらず多く、疲れたので今日は何もしませんというわけにはいかない。
 しかし、彼の疲労を察した輝夜と妹紅によって、彼はしばらくぶりの骨休みを経験した。力仕事関係は二人がかりとはいえ、女の中でも華奢な二人ではどうにもならないので、それだけは彼が担当したが、それ以外は目を見張るものがあった。
 食事関係も人知れず練習を続けていた二人によって、舌鼓を打ち続けることになったり、翁夫妻の入浴手伝いも二人が率先して行った。夜、翁夫妻が寝静まってから、彼の部屋に押し掛けてきた二人によって晩酌も行い、この時も決して彼に酌をさせなかった。
 そして三日後。完全に回復した彼は、無理をするなと小言を繰り返す二人を尻目に、都へ向かった。決して調査を止めろとは言わないあたり、二人の性格が見て取れる。
 そして都に入ってから幾ばくか。これまた前と変わらず、件の化物が現れる気配も無く、有益な情報が手に入るわけでもなく、彼は漂ってくる悪臭を気合いで我慢しつつ、都中を歩き回った。
 しかし、分かったのは怪物が確かに存在することと、その怪物は見る人によって姿を変えるということの、二つだけ。外と中を隔てる外壁に背中を預けて腰を下ろしつつ、昼食用に持ってきた特性水飴団子を頬張る。この辺りはほとんど人通りが無い為、物珍しさから近寄ってくる盗賊や乞食が居ないおかげで、こうして落ちついて食べられる。
「……うん、美味い。自分で作っておいて何だが」
 口内に広がる甘みに笑みを浮かべながらも、彼は情報を整理することにした。
見る人によって姿を変えるあたり、神のように信仰が全てと言える存在ではない。おいそれと姿を変えれば、信仰が分断してしまう可能性があるし、最悪の場合、行き場を失った信仰の力が形となって、新たな神を生み出しかねない。
 人間の可能性も考えたが、すぐに捨てた。怪我をした人が何人もいたらしいが、それらは全て、怪物の姿に驚いて転んだり、頭をぶつけた程度で、死人が一人も出ていない。特定の誰かを狙った線は薄い。
 仮に、私怨か何かで陰陽師辺りが行っていたとする。しかし、それならば同じ陰陽師に分からないはずがないし、何より全て悪戯レベル。仕事を増やす為に行ったとしても、それも一時的だ。
 やることがいちいち大げさで、しかもバレれば間違いなく都から追放される。そうなったらいくら陰陽師であろうと、野たれ死ぬのが関の山。高すぎるリスクの割に、あまりに見返りが少ない。
 ならば、残る手段は妖怪だろう。何の目的があって行動しているのかは分からないが、探すとなれば妖怪が活発になる夜の方が見つけやすく……ん?
 ふと視線を感じた彼は、顔をあげた。
「……………………」
 視界いっぱいに広がった少女の顔が、そこにあった。反射的に攻撃しなかったのは、彼にとっても少女にとっても幸いだっただろう。パチパチと将来を予感させる大きな瞳を瞬かせると、ゆっくりと顔を引いた。同時に見えてくる、少女の貧相な姿。
 くりんと傾けた顔に掛った赤色の髪を見て、彼は眼前の少女が、先日水飴を食べさせた少女であることに気付いた。ボロボロの麻服から飛び出ている四肢を見て、ああ、やっぱり細いな、と場違いなことを思った。
「……よう」
「………………」
 返事が返ってこない。見れば、少女の視線は団子に固定されている。試しに団子を揺らすと、それに合わせて少女の眼球が動く。試しに串に刺さった団子を食べようと口元に運ぶと、少女はその手をしっかりと握りしめた。それはもう、力いっぱい。
 何のつもりか、と一瞬考えたが、すぐに理由は分かった。目は口ほどに物を言うという言葉があるが、なるほど、確かに、この目には口で語るよりもはるかに思いを語っていると、彼は思った。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
 無言の間が続く。これが輝夜ならば、彼はいくらでも耐えられたが、今回は駄目。キラキラと、それはもう、目から光線を発射せんばかりに催促の眼差しを向ける少女が相手では、あまりに分が悪い。
 しかも、ぐぎゅるぎゅる、と、少女の腹からも派手に催促される。チラリと少女の腕を見ると、細い。枯れ枝、という程のものでもないが、記憶の中に他の女性と比べると、目に見えて細い。筋肉で覆われた彼の腕と比べれば、丸太とタンポポの茎ぐらいに差がある。
 唇の端から涎すら出始めている少女を見て、彼はそっと、少女が着ている服の裾を、持ち上げた。なんとなく、こんなに細い腕が繋がっている胴体は、どういう状態なのか興味を抱いたから。
 裾を摘まんだ指を、グイッと上げる。抵抗されるだろうな、と、冗談交じりに考えていたが、少女は特に羞恥心を覚えた様子はなく、至って平然とした様子で、彼を見つめていた。そこには驚いた様子もなければ、彼を非難する色も無い。ただ、何をしているのかな、程度の、小さな疑問しか、そこにはなかった。
「……………………」
「……………………」
 思っていた以上に細い太股の上、間につるりと走る亀裂。どことなく鋭利な印象を覚えるその亀裂はピタリと固く閉じられている。その上に視線を向けると、僅かに張り出した腹と、浮き出た助骨と、赤褐色の陥没気味の乳首があった。少しだけだが、胸には脂肪が付いており、乳房と思える外観を形成していた。
 こんなに手足がやせ細っているのに、本来真っ先に消費される部分である乳房が最後まで残っている。この子は将来、無事に成長することが出来れば、男が放っておかないスタイルになるだろうな、と彼は思った。
 軽く、腹を押す。指が肌に触れた瞬間、ピクリと少女の肩が震えたが、嫌がる様子は無く、ただ、ジッと彼の目を見つめていた。
 ……何度か押すが、指先に感じるのは、脂肪の感触というより、内臓の弾力。栄養失調になった際の、典型的な体形……ということだろう。絶対的に栄養が足りてないのは、明白だ。
 そして、駄目押しにもう一度、派手に腹が鳴った。今度は指が触れている分、ダイレクトに彼の手にそれが伝わった。そっと裾を下ろすと、先ほどよりもさらに力がこもった瞳が彼へと向けられていた。
「……………………」
「……はあ、わかった、やるよ」
「…………うん」
 袋から落とさないように気を付けつつ、団子を少女へ渡す。そのままどこかへ行くだろうな、と彼は思ったが、少女はトテトテと彼の隣に腰を下ろして、団子を食べ始めた。
 小さく細い指が団子を摘まむ。少女は小さな口を大きく開けて、パクリと団子を頬張った。目に見えて喜ぶ少女の笑顔を見て、彼はふう、と一息ついて……息を噴いた。
 頬を内側からパンパンに膨らませた少女。その少女は、踵を地面に付けたまま、大きく股を開いて座っていたのである。つまり、うんこ座り、というのか、正面から見れば、少女の乙女が丸見えの体勢だったのである。
 この時代、下着を履く習慣はほとんどない。ご多分にもれず、少女も下着を見つけてはいないようで、一本の筋と、プクッと飛び出した肉芽が、彼の位置からもはっきり見えた。
(そういえば、永琳も最初の内は履いていなかったな。いつの間にか履くようになっていたけど、何が切っ掛けだったんだろうな)
 まあ、俺は履いている方が好きかな、と考えつつも、彼は少女の両脇に腕を入れて、音も無く持ち上げた。
 クルリと水飴で白く汚れた少女の顔が、彼へ向けられる。食い意地が張っていることに注目するべきか、それとも無頓着である部分に注目すべきか彼には分からなかったが、何か反応をされる前に、苦しくない程度にそっと膝の間に少女を下ろす。ちょうど横向きに三角座りになった状態で、アイテム使用から手拭いを取り出して、太股にかぶせた。
「……なにしているの?」
 さすがに気になったのか、少女が彼に尋ねた。
「気にするな。ただ、お前が寒そうだったからこうしただけだ。後、ちょっとは慎みを持て……って、言っても分からんか」
「……つつしみ?」
「ああ、気にするな。ただの独り言だ。いいから、お前は団子でも食べていろよ」
「うん」
 そして再び団子を頬張り始める少女。もきゅ、もきゅ、と団子が少女の口内に放り込まれる直前、細い喉がゴクンと鳴る。時折彼が持っていた竹を加工して作った水筒を手渡しつつ、黙って少女を見つめる。どこからどう見ても、やせ細った少女にしか見えないし、思えない。仮に都の中にいても平気な程度の弱小妖怪であったとしても、少女から感じる気配は明らかに人だ。
(……なにか、なにかあるな、この子)
 しかし、彼にはどうしても、それ以外に何かあると、完全にこの子の位置付けを結論付けることが出来なかった。今のように団子を食べたり、無邪気に近寄ってきたりする辺り、性根は人に害をもたらす類のものではないのだろうと、彼は思う。
 あまりに、気配が人間そのものだ。人が時には鬼にも菩薩にもなれるように、その時々においてその気配は変わる。妖怪よりも邪な考えを持つ人間が居ることを、彼は長い時の中で知っている。
 しかし、眼の前の少女。この子は、あまりに揺れが無い。あまりに自然体、あまりに変化が無く、あまりに静かだ。いや、静かというより、むしろ周りの気配とほぼ同じ。まるで、周囲の景色から溶けだしたかのような、不可思議。
 はてさて、どうしたものか。
 何が切っ掛けか彼には分からないが、懐かれている……というより、集られている、に近いのかもしれないが、マイナスよりは高いだろうことは分かる。彼自身、短い時間とはいえ、こうも無邪気にされては、無下にするには随分と心に辛い。彼にとって、少なくとも団子を譲る程度には少女を気に掛けているあたり、なかなかに複雑だ。
 しばし、静かな一時が流れる。彼は、少女が団子を食べ終わるのを見届けてから、話を切り出した。
「なあ、先日、お前に教えてもらった怪物の話だが、覚えているか? 湖近くの丘にいる妖怪のことだ」
 水飴が付いた指を舐めていた少女は、顔をあげた。
「うん、覚えている」
 ちゃんと水飴が全て舐め取られたのを確認してから、彼は少女の口元と手を手拭いで拭いた。されるがままな少女のおかげで、スムーズに拭き終わった。
「妖怪は、居たには居たんだが、別の妖怪だったよ。結局、その妖怪は怪物とは全く関係なか、って、なんだ、その顔は?」
「……別に。それで?」
「……で、だ。団子も食べたことだし、あれ以外にお前が知っている情報があったら、教えてもらおうかと思ってね……何か、心当たりはあるか?」
「……ある。けど、ちょっと思い出せないから、少し待って」
 彼の言葉に、少女は首を傾げる。そのまま、ゆっくりと俯くと、右に左に首を振った。
「そんなに急いでいないから、ゆっくり思」
「思い出した」
「早いな、おい」
「この前、大きな屋敷に貴族が集まってことがあって、覗き見していたら、東の山に宝があるって貴族達が話していた。そのときぐらいだと思う。怪物が都に現れ始めたのは」
「……覗き見や宝云々は置いといて、その東の山ってのは、あそこの山か?」
 他の山よりも一回り高い山を指差すと、少女は小さくうなずいた。
「……なんでも、火鼠裘とかいうものを手に入れる為に、山へ向かったみたい。たしか、怪物が現れ始めたのは、一度、山の天辺から竜巻が見えた後だったと思う」
「……竜巻、ねえ。妖怪の仕業か、はたまた神の御怒りか。何の目的があって、その火鼠裘とかいう良く分からんものを探していたのかは知らないが、その貴族の行いで怪物が誕生したかと考えたら、ハタ迷惑な話だ」
「……私は良く知らないけれど、どうも、なよ竹の輝夜姫っていう、たいそう綺麗なお人から出された難題に答える為……らしい」
 あいつのせいか。怒鳴りそうになった自分を褒め称えたいと、彼は心底思った。
 ふと、ジッとこちらを見つめる少女の視線に、彼は首を傾げた。なんというか、先ほどとは違う、何かがそこにあるように彼には見えた。
「どうした?」
 気のせいだと無視しようとも考えたが、あまりの目力に根負けする。もしかして、俺って女に強く出れない性質なのだろうかと、彼は内心、冷や汗を流した。
「………………」
「黙っていても分からん。俺には心を読む力はないからな」
「…………その」
「うん?」
「…………そのなよ竹の輝夜姫のこと、あなたは知っているの?」
「……ん~、まあ、知っているといえば、知っている、のかな」
 キュッと、少女の目じりが上がったのを、彼は見逃さなかった。グイッと身を乗り上げてくる。そのせいではだけた胸元から、小さな粒が二つ見えた。鼻と鼻がくっつきそうなぐらいに顔を近づけると、少女は彼の眼球を見つめた。
「美人?」
「ん?」
「その人、美人?」
 ……なんか、最近こんな風に女性から問い詰められることが多いような気がする。一度、厄払いした方がいいのかもしれんな。
「それじゃあ、厄払いする為にも家に帰るべきだと私は思うよ」
「いや、帰るにしてもここからどれくらいあると……って」
 背後から返された質問に、彼は素早く振り返った。何をしているのかと首を傾げる少女を横目に、彼は背後の壁をジッと見つめた。怪しい気配は、ない。居た形跡ももちろん、無い。少女に目をやると、ただただ不思議そうに彼を見つめていた。
 ……この子ではない。ならば、今のは……気のせいか?
 背筋に走る悪寒を我慢しつつ、彼は引きつる頬をそのままに少女に答えた。
「凄い美人だよ。それはもう、貴族たちが通い詰める程度にはな」
 少女の肩を掴んで離れようとするが、その細い両腕のどこにそんな力があったのか、多少距離が出来るだけで、少女の身体が離れることは無かった。
 始めて見せる抵抗に彼は驚きつつ、下手に頑張られると貧血を起こされそうなので、離れることは諦めた。
「ただ、性格は悪いぞ。顔が良い分、性質が悪い……いや、良い分、まだマシなのかな?」
 彼の答えに、少女はしばらく俯いた。時間にして15秒後、小さく彼の名前を尋ねた。なんでこのタイミングで、と彼は思いつつも、名を告げると、少女は先ほどよりも少し大きな声で彼の名を呼んだ」
「…………ううん、なんでもない」
 ……何を言おうとしたのだろうか。彼には分からなかったが、とりあえず東の山に何かがあるということは分かった。彼はそっと少女を下ろす……意外なことに大人しく離れた少女の頭をぽんと撫でると、彼は大きく伸びをした。
 ここから行けば、すぐに着くだろう。彼は最後にもう一度少女の頭を撫でると、目的の場所へ走り出した。



 さてさて、彼が東の山に突入してから既に一刻。山といってもその範囲は大きく、また見通しが悪い。木々が生い茂る山中は、日の光をしっかり遮って、昼間なのにどこか薄暗い。針葉樹の落ち葉が、時折靴を貫通して足に刺さり、そのたびに立ち止まって葉っぱを抜く。頬に感じる風には緑の臭いが
 遭遇するのはここら一帯を縄張りにしているという妖怪ばかりで、それらしい妖怪は見つからない。
 幸いにも迷うことは無かったが、いつまでも発展が見えない作業程、疲れることはない。彼はふう、と溜息を吐いて、自身の右手を握っている妖怪を見つめた。
「……なあ」
「はい、何でしょうか?」
 グイグイと手を引っ張っていく妖怪。うなじが軽く隠れる程度に揃えられた黒髪と、その背中に生えた大きな黒翼が、はずみでさらり、ばさばさと揺れた。勝気そうな顔立ちから描かれる笑顔と程良く育った肢体からは、彼女が妖怪であるとはとても思えない。背中の翼と彼女の身体から放たれている妖気以外、ほとんど人間の女性と変わらなかった。
 健康的な美少女、というのがしっくりくる。けれども、なんとなくその笑顔に胡散臭い何かを感じるのは、果たして彼の気のせいか、それとも目の前の妖怪の気性からなのだろうか。
妖怪の正体は烏天狗。名を、射命丸文しゃめいまるあや。最初、空から凄まじい爆音と共に着地した彼女に反射的に攻撃しようとした彼だったが、警戒心ゼロの笑顔で。
「山に入った命知らずな人間は貴方ですか?」
 と人懐っこく来られれば、毒気も抜けるというもの。しかも、自分に向けられた手を掴んだと思ったら、いやあ久しぶりに人間を見ました。本当に昔と変わらずひ弱なんですね、と失礼にも程がある第二声。攻撃の起点となる両手を掴んで笑う辺り、どんな状態でも対処できる自信があるからなのか。
 とにかく、彼女がそう名乗ってきた為、彼も名乗り返した。本当は射命丸の前に、長ったらしい前口上があったが、それが役職命なのか実名なのかは分からない。しかし、わざわざ偽名を名乗る必要もないだろうし、とりあえず彼は妖怪の名前を射命丸文と覚えた。
 そうしてお互いに自己紹介をしてから早一時間。烏天狗と聞くと、妖怪の中でもかなり高位に当たる妖怪である。その翼から放たれる暴風は家を吹き飛ばすとも聞き、千里を一晩で掛けるとも聞く。
 そんな高位妖怪である文が、わざわざ人間と連れ添って歩く。彼女にその理由を尋ねたとき、命知らずにも山に一人で入ってきた男に興味を抱いたとの返事だったが、本当の思惑はどうなのやら。けれども、敵対心というものは文からは感じず、伝わってくるのは子供のような好奇心のみ。
 彼にはそこら辺りの考えは全く理解出来なかったが、気付くと、文に手を引かれて山の中をあっちこっち歩きまわっている状態になっていた。おそらく、人間である彼のことなど何時でも対処できると思っているのだろう。文の話だと、普段人里に下りることはほとんど無いらしく、彼女からしたら、彼は恰好の暇つぶしなのだろう。おそらく、それは辺りではないかと彼は思っている。
 事実、ステータスの数値は、耐久力と力を除き、軒並み文の方が高かった。とくに素早さの値は桁が違うので、例え彼が不意打ちしたとしても、避けられる可能性が高いだろう。
 人間にしては強いから、あんたは大丈夫だと文の一方的な言葉と共に、行動することになった次第だが、なぜ、わざわざ文と一緒に行動しているのだろうか。文に手を引かれて歩く彼は、首を傾げた。
「俺はどうしてお前と」
「文と」
「……文と一緒に行動しているんだ? 妖怪だろ、お前」
「はい、妖怪ですけど……妖怪以外に見えますか?」
「いや、見えない」
「それは安心しました」
「…………いや、そういうことじゃなくて……俺が、怖くないのか?」
「え、怖い?」
「……その顔止めろ。なんか、むかつくから。怖い、というより、俺を警戒しないのか? 仮にも名前しか知らない人間が傍にいるんだぞ。俺が何時、お前を倒そうと札を取り出すか、分かったものじゃないだろう?」
「……? あ、ああ、いくら私が可愛くって魅力的だとはいえ、襲おうなどと考えるだけで無駄ですよ。私に指が触れるよりも早く、あなたの身体が百個以上の肉片になるだけですから」
「……お前……何から突っ込めばいいのか分からんが、サラッと恐ろしいことを言うなよ……」
「いやん、突っ込むだなんて、そんな……」
「頬を赤らめるな」
 ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた文は、赤くなった頬に手を当てて、身体をクネクネと蛇のようにしならせる。見ていて気持ちの良いものではないうえに、見た目美少女である文がするのだから、その異様さはウナギ登りだ。
 永琳や幽香程ではないが、服を押し上げる十分な膨らみは、さぞ揉みごたえがあるだろう。ふりふりと振られるお尻を眺めつつ、こういうところが警戒心を抱けない理由かと、彼は悟った。
「いやんいやん、にとりからは何度か人間の話は聞いていたけど、けっこう可愛いじゃないですか。前に会った臭い髭男とは雲泥の差ですよ。うんうん、きっと連れて行ったら喜ぶだろうな、うん、絶対喜ぶ。あいつ、人間は盟友だとか事あるごとに話していたし……ああ、そういえば、椛も人間に興味があるとか話していましたね。ついでですし、椛も呼びましょうか。あいつも髭男を見て人間はこんなのしかいないのかとか話していましたし、ちょっと人間の個体差というものを勉強させましょうか。あ、でも、そうしたら、はたてのやつも呼ばなくちゃならなくなるし、いったいどうしましょうかね。う~ん、悩みま」
 とりあえず、俺の目的を説明するのが先か……。
 時間が掛りそうだと思いつつも、彼はしっかり握られて片手を眺めて、もう一度深いため息を吐いた。

お…………ま…………け


                 , ..._     _    , ..._
                 Yi::::::: 'l- '' ´    ` ''イi:::::::ヘ
                弋:::;;ソ ` '''  ―  ''' ´弋:::;ソ
                  l              l
                _ ..」                l.. _
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.        , :: ''´       l                    l      ` '':: 、
        イヽ、         .!、                    !         イl
        ヽ ` ' - ,_      ≧ーx         xー≦ ´      _, イ ソ
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              ` <       l/_  _ヘi          ./
                 ` <    |i::: ̄:::::i|    > ´
                /:::::::::::: ̄:::::::::::::::::::'' ̄::::::::::::\


「……なあ、諏訪子。お前、ここ最近何しているんだい?」
「…………………………………」
「い、いや、あの、別に、無理に話す必要はないよ。ただ、ちょっと気になっただけで」
「見ている」
「え?」
「私、あいつを見ているの」
「……え、あ、あの、神具も何も使っていないように見えるけど……」
「愛があれば、心の力で千里を見通せる。今、私は愛を持って、神を越えようとしている」
「……そ、そ、そうか、あ、あは、あははあは、で、でも、なんでそんな怖い顔しているんだい?」
「……娘子は一人でいい」
「……え?」
「小さな女は私一人で十分だ! ただでさえあの糞鬼が気に入らないのに、これ以上増えてたまるかああああ!!!」
「小さなって……ちょ、おま、それ祟っていないか!? 誰だ!? 誰を祟ろうとしているんだい!? 止め、ちょ、止めろーーー!!!!」
「離せ! あの子に父親の顔を見せるんだ。第二子を産むんだぁああああああ!!!!」
「ちょ、子供産んでからまだそんなに経っていないのに、この力!? 第二子って、お前何人産むつもりだよ!?」
「諏訪王国を私とあいつの血縁で埋めてやる!!!」
「ヤメテ! 事実を知ったら、あいつ自殺するから! ちょ、ま、まて、駄目、駄目だって……止めろぉぉぉおおおおおおおおーーーーーー!!!!!」

軍神の悲鳴が毎日のように響く諏訪王国は、今日も平和です。


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