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  東方典型録 作者:葛城
今回はちょっとエロいよ。久しぶりに15禁だよ。ただし、短いよ。
決戦! 風見幽香!
 岩と岩がぶつかったかのような、鈍い音が周囲に響いた。
「あら?」
 幽香の表情に困惑の色が浮かぶ。腕の伸ばした先をみると、そこには彼女が想像していた光景は無い。あるのは、彼女の腕を掴んで止めた彼の姿だった。
 瞬間。瞬きよりも早く幽香の身体が飛んで左足が跳ね上がり、音も無くふわりと彼の頭上で停止する。と、同時にその足が彼の脳天を砕かんと風を切り裂き、爆音と共に地面に大穴をあける。大量の土砂が周囲を飛び散り、その威力を物語る。
「あら?」
 真っ赤なお花が咲いた光景。それを思い浮かべていた彼女は、またしても手ごたえのない踵の感触に、ぱちぱちと瞬きした。
「……いきなり何しやがる」
 幽香は声のした方向へ視線を向ける。そこには、冷や汗を掻いた彼がいた。彼は衝撃で痺れる左手をぷらぷらと振っていた。しばらく、左手は使いものにならないと、彼は痛みを幽香に見せない隠しながら、理解した。
 なんという衝撃。彼は思った。今の一瞬の邂逅で、彼は改めて目の前の美女、幽香の強さを思い知った。勝てる、勝てないの問題ではない。あまりにも差がありすぎて、もはや勝負にすらならない。
 しかも、片手を使用不能にまでされている。衝撃波を放つ程度には大丈夫だが、少なくとももう幽香の剛拳を受け止める自信はない。それこそ、掴み切れずに直撃してしまうだろう。
 そんな彼の焦燥を他所に、幽香は楽しくて仕方ないと言わんばかりに頬を緩め、彼に掴まれた腕をさすった。
「ふふふ、あなた……強いわね」
「話を聞け。それに、俺よりもはるかに強いあんたに言われると、嫌味にしか聞こえないぞ」
「あら、本当よ。私の初撃を耐えたり避けたりしたやつはいたけど、追撃を避けたやつは初めてなのよ。そう考えたら、あなたは十分凄いわ。人間としては……ね?」
 油断なく身構えている彼の動きを注意しながら、幽香は彼を心から褒め称える。
 前述した通り、幽香の力は凄まじい。並みの妖怪など一撃でけし飛び、跡形すら残らない。試したことはないが、天狗や鬼などの妖怪の中でも破格の実力をもつものでも、ただではすまないだろう。しかも、今回は人間だ。場合によっては雑魚の雑魚よりも脆弱な肉体を持つ人間が、自身の放った渾身の一撃を受け止めた。あまつさえ、今まで避けた者は一人もいない追撃すら、眼の前の男は避けた。
 それだけでも、彼女の生涯においては始めてのことで、それは彼女にとって十分に称賛してもいいことであった。
 それに……。
 幽香は掴まれた腕をチラリと見据えると、彼へと一歩踏み出した。
「ふん!」
 パチンと乾いた音と共に放たれる斬撃。彼の放った衝撃波は音速に達すると同時にエネルギーの一部が音に変換し、ヒュンと鳴った。
 普通なら直撃のタイミング。だが、幽香にはそのタイミングですら遅すぎて、腕の位置、指の角度、その他もろもろの動きを瞬時に観察し、研ぎ澄まされた直感によって不可視の一撃を、首を傾けることで交わす。見えない閃光が幽香の頬を掠めて、深紅の模様が瑞々しい頬にパッと花を咲かせた。
「……あら? 避けたと思ったのに、当たっちゃったわ。以外と範囲が大きいのね。切れ味もいいし、驚いたわ」
 余裕綽々。悠々自適。人間一人を切り裂く威力を、切れ味がいいで済ませる度胸。決して浅くはない頬の傷からは、絶えず血の滴を垂らし続けているのに、幽香の表情から全く焦りの色は見えない。
 それどころか、ますます頬を紅潮させる。流れる血を指で拭うと、その血と同じくらいに赤い唇に這わせた。まるで紅を塗るように小指を立ててくるりと塗り終わると、ペロリと指に付いた血を舐め取った。
「ねえ、あなた……けっこうやるじゃない。人間だと思っていたけど、本当は人間じゃないとか?」
「……自分でも時々疑問に思うが、いちおうは人間だよ。少なくとも、お前さんのようには化物じみていない程度にはな」
 ニヤリと幽香の唇が歪んだ。血と唾液で滑る舌が、塗られた血液を舐め取るようにゆっくりと滑る。紅潮した頬と切れ長の顔立ちに、その行為は似合っていた。
「うふふ、そうね、あなたと比べたら、私は十分化物ね」
 再び、放たれる斬撃。今度は連続して煌めく閃光が幽香を襲う。
 だが、彼女は変わらぬ涼しい顔で、ゆらり、ゆらりと彼の一撃を避ける。まるで日向をゆっくり散歩するかのように、一歩、一歩、彼へと近づいていく。
 さらに、さらに、さらに、さらに、放つ、放つ、放つ、放つ。
 大地が、空が、湖が、斬られていく。しかし、そのどれもが幽香を狙ったもので、本命にはかすりもしない。
 らちが明かない。そう悟った彼は、腰だめに溜めた衝撃波を、一気に凝縮する。異音と共に辺りの大気を動かし、彼を中心とした突風が吹き荒れる。
 そして、解き放つ!
「でやあ!」
 強大な衝撃波が渦を巻いて、幽香を薙ぎ倒さんと殺到する。大地を削り、大気を飲みこみ、空間を飲みこんでいく。それはもはや光すら飲みこみ、黒い風となって、幽香の身体を食い破ろうと牙を向き、遂には幽香の身体を貫いた。
 腹の底まで響く重い轟音。それが舐めるように地面を滑っていく。大量の土煙りと埃を舞い散らせ、彼の眼前は完全に塞がった。音は次第に遠くなっていき、そして……爆風と共に、辺りを吹っ飛ばした。
 ……やったか?
 倒せたとは思っていない。しかし、せめて逃げ切れる程度にはダメージがあってほしい。その希望に縋る思いで、周囲を覆う土煙りを払おうと、衝撃エネルギーを充填し。
「はあい」
「――っ!?」
 始めた瞬間、突然眼前に広がった姿……幽香の顔に、彼は目を見開いた。と同時に、彼は目の奥に光が走った、と感じた瞬間、地面を転がっていた。力の入らない四肢、腰に感じる柔らかくもズシリと感じる重圧。ぼやけた輪郭が目の前の光景を二分し、焦れったくなるような速度で焦点が合う。
 胸に置かれた細い手、前かがみになったことで重力に垂れ下がった双山、その頂点に色づく桃色の実。あ、裸だ、と頭の中で思った瞬間、風にゆらめく緑の髪を見て、彼はようやく自分が押し倒されたことを悟った。
 押し返そうと身体に全身に力を入れるが、幽香の身体はびくともしない。それどころか、圧し掛かるようにその豊満な肉体を倒すと、ギュッと彼の首に腕を回した。熱くすら感じる体温から香る、芳醇な女の汗。乱れた衣服の合間を縫うように、膨らみが滑りこんでくる。挟まれた太股に感じるざりざりとした感触と、その中にある滑りと、信じられない程の柔らかさ。
 ギュッと、と言っても、一般的な女子の力ではない。鍛えた彼の腕力を一時的に奪う程のパワーで、だ。そんな力で抱きしめられたら、どうなるか。彼ですら、万力に締められたように、息を止めざるをえなかった。
「――っ、お、お前!」
「驚いたかしら?」
 舐めるような囁き声。視線だけで幽香を追うと、そこには触れんばかりに唇を近付けた、女の顔があった。幽香は硬直する彼の耳に、ちゅっと接吻すると、唾液で滴る舌を耳の穴へ押し込んだ。
「おお!? おい!? な、なな、なにを!?」
 狼狽する彼を尻目に、幽香は垢をほじくるように舌をぐるりと回し始めた。ぼっ、ぼっ、と舌が耳を塞ぐたびに、寒気が走る不快音が脳を襲う。顔を背けて嫌がる彼をさらに追い詰めるように、耳に溜まった唾液を音を立てて啜ると、幽香は顔を上げた。
「うふふ、しょっぱくて、とっても苦いわぁ」
 戦闘による高揚とは違う。それよりももっと甘く、もっと熱く、もっと粘っこい何かをその両目に宿らせながら、彼女は彼の頬をちゅっと吸った。
 何が起こったのか分からない。今まで命を掛けた殺し合いをしていた相手が、いきなり久しぶりに再会した恋人にするような情熱的すぎる愛撫に、彼は首を振って怒鳴った。
「いきなり何しやがる! 何が目的だ!?」
「う~ん、目的は無いわね」
 あっけらかんとした答えに、逆に質問した彼が口をつぐんだ。横一文字になった彼の唇を幽香は、ゆっくりなぞりながら、問い返した。
「あなた、私に何かした?」
 ……?
「……なんのこと、う!?」
 腰に感じる違和感に、彼は奇声をあげた。しょりしょりと滑った髪の毛が太股を擦っていく感触と、突き立ての餅がぷにぷにと胸を転がる感触。彼が首だけをなんとか持ち上げてみると、しゃくるようにして動く、張りのある肌色桃が見えた。
「あんたのこと見ていると、なんだかおかしくなってきちゃうの」
「……う、何、うう、は、離せ、や、ヤバい、これ以上はヤバい」
 命の危険にさらされていたからだろう。彼の敏感な部分は、経験からは信じられないスピードでエネルギーを充填し始めた。
いくら相手が凶悪な存在だとはいえ、見た目は一度はお目に掛りたい美女だ。しかも豊満な体形には無駄なぜい肉はほとんどなく、それでいてどこもかしこも程良く柔らかいという、反則みたいな肉体だ。そんな身体がいやらしい部分を、自身のいやらしい部分に擦りつけるように振っていたら、例え枯れていたとしても、復活してしまうだろう。
 彼は、次第に本気を出し始めた分身をなだめつつ、原因である妖怪を見つめた。
「俺は、なにもしていない、ぞ」
「ふう、ん……ん、そ、そう、でも、なぜか、私は貴方に対して凄い興味を抱いているわ」
「な、なに?」
「最初はどうでもよかったけど、なんていうのかしら……んん、あ、あん、えっと、そうね、ふと気付いたら、あなたのことを友人だと感じていたわ」
「……は、はあ?」
「うふふ、意味が、あ、あん、そ、そんなに動かないで……響くからぁ……とにかく、気付いたときには貴方のことが敵に思えなくて……なんていうか、長年連れ添った友人みたいに思えてきちゃったのよ……あ、はぁ」
 粘膜がこすれ合う、卑猥な音が彼の耳に届く。
「本当に、つい今さっき出会ったばかりなのに、あなた、の、うん、あなたのこと、好きになっていて、それがあまりに突然過ぎて、不思議、い、ああん、だ、だけど、不思議と、それが、不思議に、思え、なくて……貴方に頬を切られたことすら、あん、う、嬉しくて、全然悔しくないのよ」
 悶える幽香の言葉に、彼は困惑した。もちろん、彼には何が起こっているのかさっぱり分かっていなかった。ただ、眼の前の女から、もう敵意というのが無くなっているということは分かった。
「ね? だから、ね? そういうことだから……よくわかんないけど、とってもいい気持だから……ちゃんと静めて、ちょうだい」
 大きく広がった幽香の瞳。そこはとろんと潤んでいて、それが視界いっぱいに広がったと同時に唇に感じる柔らかい粘膜。頬に当たる幽香の鼻息に、彼は思わず息を呑む。
 静かに閉じられていく幽香の瞼を見て、彼は困惑しながらも、とりあえず拘束された手足を動かした。
さて、ここにきて、ようやく主人公の能力の伏線らしきものが見え隠れします。
前回、おっぱい書けなかった分、今回は少し出すぎたかもしれません。
ですが、後悔はしていません。


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