さすがにおっぱい分は追加できない。無理やり追加すると15禁だし、この話は健全だから。
たどり着いた場所は
都に着いた彼は、早速……というわけにもいかず、途方に暮れていた。なにせ、情報が無い。それはもう、有益な情報が全くないのである。
時折、通りを進む牛車を止めて従者に尋ねるも、大概は鬱陶しく追っ払われる。かといって、屋敷の門番に情報を聞いても、顔をこわばらせるばかりで、何も答えない。
ならば、一軒ずつ訪ね歩いても、誰ひとりとして話を聞いてくれないし、話さない。中には話そうとする素振りを見せる人もいたが、すぐに口をつぐんでしまった。せめて理由だけでもと問い詰めると、皆一様にこう言った。
あの妖怪は、話してはいけない。話せば、命を取られる。誰もがその姿を知っているが、誰もがその正体を知らない。私達が言えるのは、それだけだ、と。
むう、と彼は持ってきた竹筒から、水を飲む。少し温くなっている。
困った、と彼は思った。情報が無いのもそうだが、なによりも、都の様子がおかしい。いつもなら人気が無いなりに、さり気無いところで転がっている死体に目を瞑れば、静けさの中の命が見え隠れしているのが分かる。だが、不思議な事に、今は全く感じない。
どんよりとしているというか、こう、空気が淀んでいるというか。悪臭云々は元々あるが、それとは別の、こう、恐怖の霧が蔓延し、都銃を覆っているような。目に見えぬ魑魅魍魎が知らないうちに蔓延っているというか、なんというか……焦燥感にも似た何かが背筋をぞぞぞっと走っている。
ステータスを確認すると、思っていた通り、常に獣の本能が働いている。つまり、彼にとって悪影響を及ぼしかねない何かの存在を、常に感じているということだ。
誰しもが知っていて、誰しもが知らない怪物。
輝夜の話していた通りだ。しかし、このまま収穫も無く帰っても、それを種にネチネチと輝夜に言われても堪らない。
どうすれば……と、彼は唸った……そのとき、くいっと袖を引かれる感触に、彼は顔をあげて、そちらへ見やった。
「なにか探し物かい?」
そこには少女が居た。一瞬、少年かと思ったが、部分部分を見ると、はっきりと少女だと分かる顔立ちだ。声色は高く、どう聞いても少女の音だが、小生意気そうな雰囲気が、そう思わせなかった。おそらく先天性の異常なのか、赤色の髪をスリスリと弄っている。身につけている衣服もところどころ破れた麻の服で、そこから飛び出した四肢は、驚くほど細い。袂から覗ける浮き上がった鎖骨は、医学の知識がない彼から見ても、栄養状態が良くないということがうかがいしれた。
「……君は?」
彼は少女の目線に合わせて腰を下ろした。一瞬、妖怪かと思ったが、彼はすぐにその考えを捨てた。
ここ都では、周囲4方を基点とした結界が張られている。その結界の力は凄まじく、並みの妖怪では、足を踏み入れるだけで消滅しかねない程だ。さすがに鬼や天狗を抑えることは出来ないが、その力を削ぐことは出来る。
その為、都には結界の力すら作用しない弱小の妖怪か、せいぜい驚かせる程度の小物ぐらいしか現れない。鬼や天狗が現れたら一大事で、往来を白昼堂々と姿を見せていれば、大騒ぎになることは必至。下手をしなくても、陰陽師が押し掛けてくる。
それこそ、今のように少女が彼と話す間もなく来るぐらいだ。それら騒動の跡が少女から見られないのと、辺りが静かなのを考慮して、彼は少女を無害と判断した。
ちなみに、最初に疑った最大の理由が、少女の身体から異臭が出ていないという、少女が聞いたら憤慨しそうなことだったとは、知る由もないだろう。
「えっと……君は?」
返事がないので、もう一度訪ねる。
「……私、知っているよ」
「……え?」
ぼそりと囁くような声。少女特有の高い音は、鈴のように心地よく、彼の耳にもはっきり届いたが、内容までは聞き取れなかった。
「……お兄さん、アレを探しているんでしょ」
「……アレって、誰もが知っていて知らない怪物?」
少女は答えなかったが、目と口元がかすかに釣り上がったのを、彼は見た。
物静かな子だ、と彼は思った。大人しいというより、物静か。ほとんど表情が見えない少女の内面はうかがいしれないが、おそらくなかなかに気性が激しいのではないかと、彼は推測した。
「知っているなら、教えてくれないかな? お兄さん、その怪物を探しているんだよ」
「……知っているよ」
「それなら」
スッと少女の手が差し出された。土汚れて、ところどころ亜麻色になった、小さな白い掌。その手が、小さく指を揃えて彼へと差し出されていた。
「……ん」
反応を見せない彼に焦れたのか、ずいっと少女の手が彼の胸元を突いた。
そこにきて、ようやく彼は少女の言いたいことが分かった。
催促する手を優しく握って押さえつつ、彼は懐を探る。取り出した銭を、その手に握らせた。
「……ん」
すると、今度は反対の手を彼に差し出す少女。彼は苦笑しながらも、懐からもう一度銭を取り出し、その手に握らせた。
「……ん」
次に少女が取った行動に、彼は呆気にとられた。
少女は、袂をキュッと握ると、それをグイッと前に引っ張ったのである。露わになった小さな膨らみと、陥没気味の乳首が彼の視界に入る。色濃い赤褐色の乳首がぽつんと頂点に添えられており、脂肪の全くない肌は、肋骨を浮き立たせていた。
「……う~ん」
見てはいけないものを見た。まさに、今の彼の心境は、それだった。彼に少女嗜好はないので、興奮はしない。それに、似たようなものを二名ほど、彼は普段から見ている。つまり、見慣れているのだが、今回は少し状況が違った。
見慣れている方は安心出来る場所、屋敷の石室で、脱いでいても可笑しくない場所な分、そこに背徳な空気は無かった。だが、ここは日の当たる外。本来なら、間違わないかぎり視線にさらされることのない場所。
そんな場所で、不意打ち気味に少女の性を見せられた彼は、照れてしまったのだ。
「……ん、ん」
だが、少女には容赦の二文字はない。というより、その行為がどういうことなのか、分かっていないのだろう。
少女は彼の手を取ると、その手を一息に胸元の中に押し込んだ。手のひらに広がる、温かさと柔らかさ。温かい体温が肌を伝わり、浮き出た助骨からは想像も出来ないくらいに柔らかな蕾。反射的に握ってしまった彼の手に、ふにょっとした感触と、その中にあるコリっとした固さが広がる。
「…………あ~、うん、分かった。払う、払うから、ちょっと離して」
真っ白になった思考を再起動しながら、彼は少女にそう懇願して離してもらう。すぐさま懐から銭を取り出すと、少女に差し出した。これが最後の銭だ。
「……ん」
入れろ、と言わんばかりに胸元をくつろげる少女。彼は乞われるまま、そこに銭を落とした。
途端、ちゃりんと音を立てて、麻服に隠された股部から銭が落ちた。
……真ん丸に見開かれた少女の顔を見て、彼は一瞬、可愛いと思った。
「…………」
「……いや、そんな顔されても困る。手で持てばいいだろ」
「…………」
「いや、だから」
「………………」
「…………はあ、分かった。負けたよ。ほら、両手を上げな」
言われるがまま両手を上げる少女。その両手がいまだになってギュッと握りしめられているのを見て、彼は内心笑いをこらえながらも、少女の腰に巻かれている紐を、そっと解いた。
途端、びくんと少女の身体が震えたが、彼は気にせず解いた紐をぐるりと少女の腰に回すと、懐から滑り落ちないよう、きつめに紐を縛る。そして、少女の袂から銭をぽとりと入れた。
「ほれ、これでいいだろ」
「………………ありがとう」
ぼそりと囁かれた言葉に、彼は少女に目線で問いかけた。
「……丘の上」
「丘?」
「うん」
少女は細い腕を伸ばして、西を指差した。
「ここからまっすぐ行ったところに、妖怪の縄張りがある。そこに大きな湖があって、その近くに丘がある……多分、居ると思う」
「怪物が?」
「……うん」
「それ、誰から聞いた?」
「…………この前、貴族が話しているのを、聞いた」
ふむ、と彼は頷いた。少女の話の真否を考えているのだ。
少女の言う内容は、正しいというのが彼の判断だ。だが、それが目的の怪物なのかどうかは分からない。もしかしたら噂が噂を呼んで広まっているだけで、実際は別の場所という可能性もある。あるいは、正しいのかもしれないが、他の妖怪やら何やらが住み着いてる可能性もある。そこらの妖怪に負けるとは思えないが、鬼なんかの例外だって、あり得なくもない。最悪、逃げ切れない可能性も考慮しなくてはないけない。
そう彼がつらつらと考えていると、またしてもクイッと袖を引かれる。見ると、少女が眉根を下げて彼を見つめていた。
「……危ない」
「ん、ああ、そうだな、危ないな」
「……行かない方がいいよ」
「あ~……そうしたいのはやまやまだが、いかんせん、行かないと後で小言がなあ……対価として行くわけだし、行かないわけには……な」
「…………」
「……いや、だからそんな顔するなって……ああ、大丈夫、大丈夫だよ。俺は逃げ足が速いから、そんじゃそこらの妖怪からが襲ってきても平気さ。すぐに逃げられるから」
「……本当?」
「ああ、本当だ……ほら、離しな」
彼の言葉に、少女はしぶしぶ手を離した。だが、その表情からは不満の色がありありと浮かんでいて、はっきりと彼を心配しているのが分かった。
なんで俺ってこんなに心配されているのかねぇ……と彼は思いつつ、懐から子袋を取りだした。口紐を解き、そこから厳重に封をされた器を取りだした。
器を落とさないようにゆっくり封を外す。その中には、半透明な蜂蜜色の液体が盛られていた。
「…………なに? 変な臭い……」
興味を引かれた少女が、液体に鼻を近づかせる。ぷにょんと助骨と胸の二つの感触が彼の腕に広がる。さっき彼女の紐を縛ったのがきっかけなのか、最初の頃の警戒さは見えない。
「ん~、水飴……ていうやつなんだけど、甘い食べ物だよ。ほれ、一口食べてみな。高いやつだが、心配してくれたお礼だ。輝夜達にだって教えてない、俺のとっておきなんだぜ」
「…………」
「遠慮するな……ほら」
だが、少女は怖がるように彼の腕にしがみつくと、器から顔をそらした。
変だな、これぐらいの女の子なら、甘いものには目が無いはずなのに……と考えた時、彼は思いついた。
……もしかしたら、甘いってこと自体が分からないのかもしれない。それなら、水飴を見てもただネトネトしたものにしか見えないし、そんなものが食べられると言われても、食べたいとは思わんか。
彼は指にそっと飴を付けると、それをぺろりと舐めた。途端、少女の目がぱちりと開かれた。
「ほれ、大丈夫だ。毒じゃないよ」
「………………」
「……一口、舐めてみな。それで嫌なら、俺も謝る。でも、これって本当に美味しいんだぞ」
もう一度指に飴を付けて、今度は少女にそっと差し出した。
少女は彼の顔と指へ交互に首を振ったが、しばらくして、小さな唇をかすかにあけた。そこから血のように真っ赤な小さい舌をそっと伸ばすと、指先へそれを近づけ……ちょん、と指を舐めた。
出したときとはケタ外れの速度で舌を引っ込めて、一秒、二秒。固く縮こまっていた少女の肩が脱力し、そして眉根が釣り上がり、ギュッと閉じられた瞳がゆっくり開かれる。
そして、彼の顔をジッと見つめると……水飴がついた指に吸いついた。
「おお!?」
突然の行動に驚いた彼が離れようとするが、それよりも早く少女の両手が彼の腕を掴む。唇が指の付け根にまでつかんばかりに近づき、指は少女の口腔の中へ深く吸い込まれた。
ぬめぬめとした弾力溢れる舌が指先を這いまわる。先ほど胸元に感じた体温よりもはるかに温かい粘膜が指全体を包み込む。ざらざらした舌の腹が、最後の欠片まで残さないと言わんばかりに指銃を這いまわる。さらには頬の内側に擦りつける様に指を押し込むと、少女は指の付け根にちゅうっと吸いついた。
「ちょ、ま、まて、落ちつけ、そこにはついてない、ついていないから」
「…………」
ちゅぽ、と音を立てて彼の指が離された。指の付け根どころか、指の腹にまで伝った少女の唾液が、日の光にきらりと煌めいた。獣を思わせる少女の瞳を見て、彼は器を少女に差し出した。
だが、少女は黙って彼に器を返すと、涎が付いた彼の手を掴んで、器へ向けた。
「……………」
「……ああ、もう、分かった。分かった、だから落ちつけ」
再び指に水飴を付けた彼女に差し出す。すぐさま食いつく少女。
彼は、今日中に件の場所へ行けるかな、と思いつつ、嬉しそうに指をしゃぶる少女を見つめた。
上半身を一切動かさずに全速力で走る。長い年月を掛けて編み出した走法を駆使して彼が少女の言う場所へ到着したとき、既に昼をとうに過ぎていた。
少女の言うとおり、そこには大きな湖があった。少し違うのは、周りを囲うように色とりどりの花が咲き誇っていたこと。
湖も綺麗だ。透明度が高く、底の底まで良く見える。光に反射する小魚が、ゆらりゆらりと水の中を泳ぎ回っていた。ここが妖怪の縄張りであるのが、信じられない光景だった。
へえ、いいところじゃないか。
そう彼が考えた時だった。彼の背後から声が届いたのは。
「ごきげんよう、私の花畑に何か御用かしら?」
「!?」
反射的に、彼は振り返ると同時に身構える。
そこに居たのは女性だった。明るい緑色の珍しい髪。花をあしらった彩色溢れるスカート……麻とは違う素材のようだが、彼には分からない、それがふわりと踊った。うりざね顔と温和にほほ笑んだその顔は、彼の美感的感覚から見ても、思わず見とれてしまう美女で、胸元を押し上げる膨らみは、彼でなくても前かがみになってしまうだろう。
だが、その顔に浮かぶ二つの深紅色の瞳と、凍えるような殺気がなければ、だ。それがなければ、彼も構えを解いてにこやかに挨拶しただろう。
「…………」
彼女の動きに注意しながら、彼は慎重に距離を取った。
「聞こえなかったかしら、ごきげんよう」
そんな彼を尻目に、彼女はにこりと笑って彼を見つめた。
だが、彼はそんな彼女の言葉には耳を貸さなかった。そうするにはあまりにも目の前の美女は禍々しく、あまりにも恐ろしく見えた。見た目とは裏腹の、圧倒的な存在感。旅を共にした鬼とは違う、戦慄にも似た迫力。あれが身震いしてしまいそうな力なら、こちらは凍えてしまいそうな力だ。その力の前には、彼が長年かけて鍛えた力が、あまりにも小さく思えた。
……強い! なんだ、こいつは!?
流れる汗が、目に入る。痺れるような痛みが眼球を巡り、脳裏を駆け廻る。彼は目の前の美女を見つめたまま、ステータスを確認した。
【レベル :780 】
【体力 :7777/7777 】
【気力 :2800/2800 】
【力 :6000 +990 】
【素早さ :1000 +260 】
【耐久力 :3000 +1330 】
【装備・頭 :花の髪飾り 】
【 ・腕 :フラワーハンド 】
【 ・身体 :フラワースピー 】
【 ・足 :フラワーシューズ 】
【技能 :花をあやつる・激怒 】
【スキル :美感力 レベル47 】
【 :妖術 レベル7 】
【 :自己回復 レベル4 】
【アイテム :なし 】
……ああ、これは勝てん。彼は衝撃波を放つ用意をしながらも、そう悟った。
そんな彼の顔色を見たのだろうか、美女は嬉しくてたまらないと言わんばかりに笑みを深めた。
「そういえば名乗っていなかったわね。いやね、せっかちはよくないわね」
美女はぽんぽんとスカート状の衣服を叩くと、その外見に似合う綺麗な指先で、静かにスカートを摘まみあげた。
「私の名前は風見幽香。しがない妖怪よ、人間さん」
「………………」
「やあね……だんまりかしら? まあ、どうでもいいわね、そんなこと……」
瞬間、妖怪……風見幽香の力が跳ね上がるのを、彼は感じた。膨れ上がった妖力は爆発的に膨張し、彼方に居た鳥達が一斉に飛び立っていった。
「とりあえず、養分にでもなりなさいな」
凄まじい速度で幽香が彼の眼前へ迫ると、細い腕が轟音と共に彼の顔面へ放たれた。
さあ、登場しました、花の妖怪。彼の運命や、いかに。
次回、 決戦! 風見幽香!
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