……ちくしょう、おっぱい触りてえぇぇぇぇーーー!!!!
ある日の話(閑話)
平安時代とは、一般的に貴族の文化と言われている。それは何より政治の中心がそこであり、文化の中心がそこであり、後世にて、様々な書物が残され、愛されることになる場所が、貴族社会なのであったからだ。
後の国宝に指定されることになる絵巻物も存在し、多数の絵巻物が書かれたのも、この平安時代末期頃以降と言われている。その中でも4つの絵巻物は、後世では国宝として保管されることになり、日本四大絵巻物と称されている。
その内の一つが、『源氏物語絵巻』。平安時代中期に設立した日本の京都を舞台とした物語、源氏物語を題材にした絵巻物である。この話の主人公は題名の通りに光源氏で、紫式部が著者とされている。内容は一言でいえば、主人公、光源氏の生涯に渡る女性経歴である。源氏は、今で言う文武両道で容姿に優れ、お金持ちの家に生まれ育ったという王子様である。しかし、一般的なイメージの王子様とは違い、決して素行が良かったわけではない。むしろ、とてもではないが王子様と呼べる代物ではなく、生涯渡って様々な女性の元を渡り歩く呆れるほどに生粋の好色家であった。また、重度のマザコンであり、好色家になったのも、死んだ母親の面影を追い続けた結果である。
その執念にも勝る性欲は、亡き母の面影を持った皇妃に子供を産ませ、側室・愛人には、六条御息所、空蝉、夕顔、末摘花、朧月夜、花散里、明石の御方などの恋人を作った。さらには皇妃の縁者である女子を幼少の頃から自分好みに育て上げ、理想の女性にしてから正妻にするという、なんとまあ、大したスケベ男なのである。
「……ていう話を書こうと思っているんだけど、どうかしら?」
「いや、どうと言われても困る」
輝夜の率直な意見に、彼は率直な感想を述べた。
季節は巡り、緑一色だった山々が赤く萌えていく。紅葉とはよく言ったもので、普通の赤よりも鮮やかな、紅という文字がその山々には似合っていた。
秋とは実りの季節。長いようで短い雪の季節を乗り越える為に、植物も動物も、あらゆる方法で栄養を蓄えて残そうとする。それらは実という形になったり、旬という形で現れたり、様々で、あまり変化することがない食生活に、色というものが付き始める。
しかし、その色を目で、鼻で、舌で堪能出来るのはごくわずかであり、それらは高級貴族であり、帝達であった。なにせ、栄養を蓄えた食物を狙っているのは人間ばかりではなく、妖怪も動植物を狙う。人間も同様に実りを手に入れようとするが、数回に一回は妖怪の餌食に会い、またこのときでは毒物の判別が食べる以外になく、結果的に下級貴族以下都人の口に入るのは、ごく少量であった。その少ない実りも我先に奪い合いが始まり、普通であればまず食べられない代物であった。
それは貴族達の注目の的であるなよ竹の輝夜姫も、藤原の名を引く藤原妹紅ですら例外ではなく、彼女達もごく一般の貴族同様、庭で栽培された野草や比較的大量に手に入る筍などを手に入れて、それを親しいものと一緒に突いて過ごす季節であった。
彼が来るまでは。
ここにも、彼の便利さが発揮される。慣れた足取りで山中に入り、経験から食べられる野草類、茸類を採取する。輝夜と妹紅の遠慮しない我が儘に怒りを覚えながらも従うことで鍛えられた俊足によって、海までひとっ走り。衝撃波を駆使して新鮮な鮮魚を捕まえて、それを特性の器に入れて厳重に蓋をする。上半身を一切ぶれさせない走法によって、およそ数百キロの往復をなんとかこなすこと3時間。
それを待っていた輝夜と、屋敷に入り浸って自分の家に帰らなくなった妹紅によって、美味しく調理され、ほくほくと湯気を立てる焼き魚が食卓の上に飾られた。
彼がこれまた走って手に入れた荒塩を使って妹紅が菜っ葉を塩もみすれば、輝夜が味噌と筍と茸類をじっくり時間を掛けて煮込み、味噌汁を作る。
最近、輝夜と同じくらいに妹紅を可愛がるようになった翁夫妻が、食器を用意したり二人の手助けをしたりする。彼はというと、疲れ切った身体をなんとか動かし、石室で汗を流す。戻ってきたときには、机の上には秋の味覚がふんだんに盛られていた。
全員が集まって食事を始める。姦しくおしゃべりしながらご飯を食べる輝夜と妹紅を尻目に、翁夫婦と彼はゆっくり秋に舌鼓を打つ。
そんな時だった。輝夜がふと、彼に尋ねたのは。
「あなた、話を聞いていなかったの?」
輝夜の言葉に、妹紅も首を縦に振って加勢した。彼に加勢する援護は今回居ない為、彼は聞いていないと答えた。呆れた溜息を返された。
そんなこと言われても、彼には何の話か分からない。なにせ、姦しく次から次へと変わる女性の話題に、女心に疎い彼がついていけるわけがない。せいぜい、呼ばれたときに返事を返すのが関の山で、細かい内容まで把握することなど彼には到底無理な芸当であった。
「仕方ないわね。次は無いから、ちゃんと聞いていなさいよね」
「そうよ。女の話に耳を傾けない男は、嫌われるわよ」
二人の一方的な説教に、彼は苦笑した。
妹紅が屋敷に入り浸るようになって、しばらくが過ぎた。最初は輝夜の部屋で寝泊まりしていた妹紅だったが、いつのまにか彼女の部屋が用意され、気付いた時には当たり前のように寝食を共にしていた。
いったい、どのような経歴で妹紅を屋敷に住まわせたのかは、彼には分からない。ただ、気になった彼がそれを妹紅に尋ねても、家との折り合いが悪くなったと答えるばかり。輝夜に尋ねても、男が細かいことをいちいち詮索するなと怒鳴られてしまったのは記憶に新しい。一人増えたことだし、そろそろ屋敷を御暇するかと輝夜に話を切り出したとき、輝夜が無言で彼の袖を掴んで離さなかったのは、もっと新しい。その日、彼の傍から一時も離れようとしなかったのは、つい先日のこと。今しがたのように、妹紅が彼に気安い口調で話すようになったのは、その後だったか。
このままいくと、俺ってもっと肩身狭くなるんじゃないかな、と彼は内心思いながらも、輝夜に話の続きを催促した。
「……で?」
「随分前に、私にしつこく求婚してきた男を元にして、書物として書き記そうと思っているのよ。名付けて、源氏物語。内容は、貴族の家に生まれ、文武両道の容姿端麗なスケベな男が主人公が、目に入る女の尻を追っかけて、子供を産ませる物語よ」
「……随分と、こう、生々しい物語を書くんだな。それってどこまでが本当なんだ?」
「全部」
「そうか、全部か……いや、ちょっと待て」
何時の間に用意したのか、輝夜の傍には小さな机が置かれていて、そこには硯と墨、文鎮に押さえられた和紙が用意されていた。
その横で、妹紅がふう、と溜息を吐いて御茶を啜っていた。ああ、そうかと彼は妹紅とは別の意味で溜息を吐くと、意気揚々と筆を執った輝夜を止めた。
途端、不満そうに輝夜の頬がぷくうっと膨らんだ。上目づかいで睨まれた彼は、切れ長の妖しさに目を逸らした。
「全部って、輝夜よう……事実でも、そういうのは書かない方がいいんじゃないか?」
「別に嘘なんて何一つ書いていないんだから、いいでしょ」
確かに、嘘は書いていない。書いていないが、真実だからとて、書かない方が良いことも往々にしてある。とくに今、輝夜が話した男の話など、その典型だろう。
彼は残っていた野草を口の中へ放ると、そっと筆を持っている輝夜の手を握った。ぴくん、と輝夜の肩が震えた。ぴくん、と妹紅は頬を釣り上げた。
「なによう」
「それに、下手に何か書いて文句言われても嫌だろ。せめて違うのにしろよ」
彼の言葉に、輝夜は目をつぶって頭を捻って、書物が与える影響を考えた。今の輝夜の地位、立場、翁夫婦の立場、妹紅の立場、彼の立場……それら全部をひっくるめて……。
「……分かった、やめる」
「いいの?」
考えを改めた輝夜に、妹紅は目を見開いた。一緒に暮らして分かったことだが、輝夜はとてつもない頑固だ。一度コレと決めたらあらゆる手を使って味方を増やし、目的を達成させるぐらいに融通が利かない。
そんな輝夜が、いくら彼の言葉とはいえ、やろうとしたことをあっさりやめたことに、妹紅は信じられない気持ちで姫を見つめた。
「ええ、別にかまわないわ。後で知り合いの歌人に原案を渡すから」
「おい」
彼はポンと輝夜の頭に手を置いた。輝夜は小さく舌を出して、ぺしっと手を叩いた。
「あら、それなら私が書くわけではないからいいでしょ。それに、その歌人は学に優れた優秀な人だから、危険な部分はぼかして書くでしょうしね」
そう言われてしまえば、彼には何も言えず。元々輝夜に対する強制権なんて持っていない彼は、まあ、いいかと頭を掻いた。
「それじゃあ、代わりの話の資料に、都で騒がれている怪物の調査をお願いね。ある時は虎、ある時は鬼、ある時は炎、ある時はよく分からない何か。あらゆる形に姿を変える正体不明の怪物だから、気を付けてね」
「……ああ~……いちおう聞くが」
「わざわざあなたのお願いを聞きいれたんだから、それぐらいはいいでしょ。それとも、あんたはわざわざお願いを聞いてくれた相手のお願いを、無下にするような男かしら?」
……開いた口が塞がらないとは、このことを言うのだろう。彼は引きつった笑みを浮かべて、背後に花が咲きそうなぐらいの笑顔を浮かべた輝夜を見つめた。
「諦めなさい。初めからこれが目的みたいよ」
ぽんと彼の肩に手を置いて、妹紅は彼を慰めた。
恐るべし、知略。さすがは帝すら惚れる、なよ竹の輝夜姫。元々の目的を譲ったかと思えば、それは囮。しかも良心に訴えて断れない状況にしたうえで本命を達成し、さらには囮の目的まで相手の了承を得たうえで達成する。
悪魔のような手口。いや、外見が麗しい分、悪魔より性質が悪いかもしれない。なにせ、相手に騙されてもいいと思わせるのだから。
輝夜の満面の笑みを見て、彼は立ちあがった。
「……はあ、分かりました。行きます、いけばいいんだろ」
「うふふ、ありがとう」
輝夜の声援を背に、彼は都へと足を進めた。手を振って見送る妹紅の傍を通り過ぎたとき、彼の耳にこんな会話が入った。
「ところで、その原案を渡す相手はどんな知り合い? もしかして、紫式部?」
「あら、知っているの?」
「いちおう、同じ藤原の一族だからね。噂もかねがね耳に入っているけど、よく彼女の了承を取れたわね。あの人、見た目は優しくて大らかな感じだけど、ものすごく自尊心が高い人よ」
「女の好きなものなんて、いつの時代も同じものよ。この話を持ちかけた時は、転げ笑って了承してくれたわ」
「ふ~ん。でも、いつの時代も……って、あんたも私とそう違わないでしょ。何を年上ぶっているのよ」
「……ええ、そうね」
はて、紫式部?
彼は頭を傾げながらも、止めていた足を動かした。
さて、次からは星蓮船に登場するキャラクターの話を絡めたいと思います。
さっさと、聖のぽよんぽよんおっぱいを出したいけど、まずはあいつから出そうと思います。
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