鬼友達
日も落ち、月明かりが無くては手元すら見ることが出来ない深夜。焚火の炎がゆらゆらと木の幹を照らし、周囲に揺らめく影を作りだしていた。時折思い出したように薪がパチンと鳴り響き、炎の中で灰色に変わろうとしていた薪が音も無く崩れた。
繰り返してすっかり慣れた野宿。使い慣れた毛布を地面に敷き、その上で彼らは雑魚寝していた……いや、雑魚寝とは呼べないかもしれない。
彼と、勇儀と、萃香。人間と二人の鬼という、その珍妙な組み合わせは、互いの体温で温まっているのか、互いを抱きしめて眠っていた。
……正確にするならば、彼に、鬼二人が抱きついていた、というのが正しいのだろう。しかも彼はしっかり起きていて、ぐっすり眠っているのは鬼の方であった。
……大変なことを思い出した。
腰に顔を埋めた萃香の頭を撫でつつ、彼は勇儀の双山に顔を埋めながら、諏訪子から聞いた話を思い出していた。何度も何度も口を酸っぱくして、鬼には近づくな、触るな、関係を持つな、という言葉から始まる、伝わってきた鬼の話。
鬼とは、数ある妖怪の中でも最上位に位置する強敵。
その力は人間とは比べ物にならず、単純な腕力は人間が500人力を合わせても勝てないとか。術に長けているものも多く、時には陰陽師を相手に術の勝負で打ち勝つこともある。その肉体の屈強さは他の妖怪に類を見せず、下手な刀では傷を作ることもできない。
酒と喧嘩と共にあると言われる程に、酒と喧嘩が大好きだとも聞いた。1樽は余裕で飲み干し、喧嘩と宴会があるところにはどこからともなく姿を現し、騒ぐのだという。
喧嘩など、もはや語る必要がないのかもしれない。1里離れたところからでも戦いの匂いを嗅ぎ分けることが出来るらしく、とくに拳と拳の戦いが大好きらしい。時に、気に入った人間を攫うこともあるらしく、一度目を付けられたら諦めた方が早い。逃げようなどとは考えても無駄。疲れ知らずな鬼は、馬を5頭乗り潰しても笑顔で追いかけてくると言われている。
酒のあるところには鬼が来る。
喧嘩があるとこにも鬼は来る。
宴があるところには鬼どもが押し寄せて来る。
まさに最強最悪の妖怪。そのため、鬼が出たという噂が立つだけで、村を棄てて逃げ出す人もおり、鬼を退治するときは決して正面から戦ってはならないと、陰陽師の中では鉄則になっている程であった。
そんな、鬼に、どうして自分は抱かれているのだろうか? あまつさえ、たわわに実った双球に包み込むように頭を抱え込み、髪にすらっと伸びた鼻先を押し付けている姿など、誰が想像できようか。
もちろん、彼にもこういう状態になるなど、想像どころか夢にすら思わなかった。
相手が人間の女なら現在進行形で楽園を味わっているであろう彼は、勇儀から香ってくる甘い汗の匂いに心臓を高鳴らせながらも、居心地悪くため息を吐いた。
途端、その吐息に反応したのか、勇儀はギュッと彼を強く抱きしめた。壊さぬよう、傷つけぬようにするその両腕は、とても優しい。すりすりと鼻先を頭に擦りつける勇儀はスーッと深く深呼吸をする。彼の匂いが心地いいのか、目に見えて頬が緩んだ。腰に居る萃香など、何やら寝言を零しながらも男の弱点に頬をぐりぐりと押し付け、にやけた笑みを浮かべて眠りを貪っていた。
彼は窒息しないように気道を確保しながらも、現状を思い返していた。
どうしてこうなった?
一言でいえば、懐かれた。それはもう、肘の裏に張り付いた米粒ぐらいにべったべたに二人の鬼は彼に懐いた。
自分の何か彼女達の琴線に触れたのかは分からない。あの小屋で出会った日から、あれやこれや言いながら彼と共に行動し、いつの間にかこのような態勢で寝るような仲にまでなってしまっていた。時折感じる寒気は、風邪か。あるいはこの状況による心労か。
最近、押しの弱い男であると自覚し始めた彼は、ふと、このような寝方をするようになった最初の日を思い出した。
縁と言うのは不思議なものだ。本来慣れ合うはずがないものが、何の因果か不思議と顔を突き合わせることがある。
京へ向かってえっちらおっちら歩いていた彼も、その不思議を身を持って味わっていた。多分、彼だけではないだろうか。鬼二人と肩を並べて歩き、同じ釜の飯を食べて、同じ毛布で寝る。考えれば、本当に不思議な道中だ。
その日は、とても温かかった。照りつける太陽はほんのり身体を温めて、風もほとんどない。行楽日和というやつで、彼は悠々と足を進めていた。
「そういえば、あんた強いのかい?」
そう彼に尋ねたのは、勇儀だった。彼女は萃香が持っていた青色の瓢箪を傾けながら、前を歩いている彼を見つめた。その瓢箪は『伊吹瓢』と呼ばれるもので、酒が無限にわき出る代物らしい。中身は、酒虫という少量の水を多量の酒に変える生物の体液が塗られていて、それが水を酒に変えている。ちなみに、人の飲める度数ではないらしい。
虫の体液が入った酒などよく飲めるなと彼は思ったが、彼女達は全然気にしていないようだった。酒が飲めるなら、そんな細かいことはどうでもいいとのことだ。
その話を聞いた彼は、絶対その瓢箪から酒を飲まないと固く誓ったが、なぜか二人の鬼は率先して彼に酒を飲ませようとするため、そのたびに足を止めて熾烈な戦いが起こる為、彼らの足はあんまり動いていなかった。
「強いんじゃないの?」
答えたのは、彼に肩車された萃香だった。しっかりと両足を彼の首元に巻きつけているため、まったく態勢がぶれる様子はない。両手を彼の頭に添えているその姿は、まるで年の離れた兄弟だ。ただ、来ている服が着物……それも、腰紐で纏めただけの簡素なもので、白く細い両足が露わになっている。萃香の方は気にした様子も無く、見る角度によっては太股どころかその奥の陰りまで見えそうなぐらいで、逆に彼の方がうなじに感じる生温かい湿り気とぷにっとした弾力に、耳を赤くしていた。
「萃香には聞いていないよ。私は彼に聞いているんだ」
「別にわざわざ聞かなくたってだいたい想像つくじゃないか」
「たまには想像から外れることはあるだろ」
「その言葉、これで何回目? 戦うのは好きだけど、弱い奴とやり合うのはあんまり好きじゃないな。つまらないし、張り合いがないし」
あーだ、こーだ言い合う二人を他所に、彼はふと、思った。
そういえば、この二人をステータス画面で確認したことないな。
妖怪の中でも上位に当たるやつらだし、神には劣るにしても、そんじゃそこらの妖怪では太刀打ちできないだろうな。よし、確認するか。
そう思い至った彼は、早速二人の鬼の実力を見ることにした。まずは、萃香の方から。理由はない。ただ、近かったから。
「萃香」
「だから、勇儀は力加減が下手だって……あ、なに?」
萃香は彼の頭にグイッと体を載せる。視界の上半分が萃香の顔で埋まり、山吹色の髪が垂れさがった。おかげで視界が完全に塞がり、萃香の顔以外、何も見えなくなった。
「ちょっと確認したいことがあるから、降りてくれないか?」
「え~、やだ」
速攻で否決された。しかし、ステータス画面は、相手の姿をしっかり見ないと確認出来ない。今のように顔だけでは不十分で、最低でも上半身を視界に収めないといけないのである。
「そんなこと言わずに、ちょっとでいいから降りてくれよ」
「やだやだやだ。私、ここが気に入ったんだ。私の指定席はしばらくここさ」
「すぐ済むから。頼むよ」
「い~や~だ~」
「お願い」
「ぶ~。それならいいもん。下ろせるもんなら、下ろしてみろ~」
言うがいなや、萃香は身体全体で彼の頭を抱きしめた。ただでさえ密着していた身体が、さらに密着する。そのせいで、うなじにさらなるダイレクトアタックが掛る。思わず、彼は動きを止めざるをえなかった。
どうしたものか。無理やり下ろすにしても、萃香の腕力はこれまでの付き合いでよく知っている。少なくとも、彼の腕力ではどうにもならない。仮に全力で彼女を力づくで下ろしたなら、それこそ面倒な事態になってしまう。
今、こうして行っている肩車だって、元はと言えば、拒んだ彼に不貞腐れた萃香が、自身の能力で彼に悪戯を繰り返したから、今の状態に落ち着いてしまったのである。
彼への悪戯に怒った勇儀に殴られて、涙目になっても止めなかったあたり、その頑固さは鬼というべきか。仕舞には子供みたいに泣き出した為、彼が身を引いてようやく事なきを得たのである。そのおかげで、目に見えて浮かれ萃香に甘えられるやら、萃香以上に目に見えて不機嫌な勇儀に挟まれたせいで、彼はしばらく胃の痛い生活を過ごしたのであった。
そして、今回も二人のやり取りを見ていた勇儀が、黙って萃香の頭を掴んだ。
「いいかげんにしな」
「ちょ、勇儀、痛っ、痛いって、あだ、あだだだだだ!!」
「ふん!」
絡んでいた萃香の身体から、力が抜ける。
同時に勇儀の腕が盛り上がり、萃香の身体がフワッと彼の肩から退かされた。
勇儀はそのまま萃香の身体を地面に投げ捨てると、彼へと振り返った。
「これで、いいかい?」
「あ、ああ。ありがとう」
離れたところで、グエッと、潰れた蛙のような悲鳴が聞こえた。見ると、うつ伏せになった萃香が四肢を痙攣させていた。駆け寄ろうとも思ったが、鬼だし、大丈夫だろうと思って止めた。決して、眉根を釣り上げた勇儀が怖かったわけではない。
その様子を見て、勇儀はぽつりと零した。
「あんた、萃香には甘いんだな……ちょっとぐらい、私にも分けてくれたっていいじゃないかよ…………」
しかし、彼にはその言葉は届かず、何か言ったと聞く彼に、勇儀は何でもないと首を振った。
とりあえず、これで確認は出来る。萃香はあの様子なので、彼は早速勇儀から見ることにした。そして、思わず噴き出した
【レベル :1040 】
【体力 :18000/18500 】
【気力 :400/400 】
【力 :7777 】
【素早さ :756 】
【耐久力 :8777 】
【装備・頭 :紅のかんざし 】
【 ・腕 :なし 】
【 ・身体 :麻の着物 】
【 ・足 :麻製の靴 】
【技能 :怪力乱神 】
【 :美感力 レベル7 】
【 :妖術 レベル30 】
【 :自己回復 レベル9 】
【アイテム :伊吹瓢 】
なんていう出鱈目だろうか。彼はマジマジと勇儀を見つめた。
神には劣るだろうと考えた数分前の自分を叱咤してやりたい気持ちだった。劣るどころの話ではない。素早さこそ彼よりも下回ってはいるが、体力と力と耐久力に関しては、神である諏訪子を大幅に上回っていた。前に見た、神奈子と同等と言っていいパワーだ。
勝負と言うものは、単純なプラスマイナスで勝敗が決まるものではない。全てのステータスが下回っているやつが、上の相手に打ち勝つことは、殺し合いには往々にして起こり得ることだ。それは、ステータスを確認出来る彼には身にしみて分かっていた。おそらく、仮に勇儀が諏訪子に挑んだところで、返り討ちになるだろう。それはなんとなく想像出来た。
だが、そのことを考えに入れても、勇儀の実力の高さはうかがい知れた。諏訪子よりもレベルが半分以下でこれだ。このまま力を付けて行けば、どこまで強くなるのか。妖怪の強さは年齢に比例するというが……彼には想像出来なかった。
最強最悪の妖怪。大げさではない。文字通り、妖怪では『最強』で、人間には『最悪』なのだろう。
だが、そんな彼の様子は勇儀には分からなかったみたいだ。彼女はモジモジと指を絡ませながら、彼をジッと見つめ返した。
「……うん、分かった」
「な、何がだい?」
だんだん紅潮していく頬を尻目に、勇儀は早口に彼に尋ねた。そっぽを向きながら話すあたり、傍目には大分怪しく映る。
「勇儀の実力」
「……は?」
ポカンと開けられた勇儀の視線が、彼へ向けられる。
「だから、勇儀の実力」
「あ……そ、そうか、そういうことか……あ、お、お前、能力持ちだったのか」
額に噴き出た汗をそのままに、勇儀はまくしたてた。
「……能力持ち?」
それから、勇儀の説明が始まった。能力とは、一部の人間と妖怪、全ての神が持つ力らしく、あらゆる超常事象を起こすことが出来る力のことらしい。能力の強弱は使う者の力や精神力に左右されるもので、年月を経れば強化されたり、発展することもあるらしい。
「私の能力は『怪力乱神』。あらゆる力を操る程度の能力さ」
「程度?」
「スキマが能力のことを、程度の能力って言っているから、私もそう呼んでいるだけだよ。深い意味はない」
スキマって、と聞こうとした彼の首に、少女が齧りついた。言うまでも無く、萃香だ。
放っておかれて涙目になっていた彼女を慰める為に、彼は再び胃を痛めることになる。しかも、なぜか勇儀は今回彼に加勢することなく、舌を出して先を歩いて行ってしまった。
萃香を抱きかかえてえっちらおっちら勇儀の後を追うと、彼女はちょうど彼の胸のあたりまである大きな岩に腰を下ろしていた。
ぜえぜえ呼吸を荒げながら勇儀の元へ駆けよる。彼女は彼が傍まで近寄ってきたのを確認してから、岩から降り立った。
「よし、力比べをしよう」
「はあ、はあ、はあ…………はあ?」
彼にはわけが分からなかった。だが、彼の疑問は答えが示されることはなく、いいから! という勇儀の言葉に押されて、腕相撲をやることになった。萃香も勝負となれば大人しく彼から降りて、成り行きを見守っていた。
「なんでまた急に……」
「男がごちゃごちゃ言うな。黙ってやればすぐ終わるさ。さっき加勢してやったんだから、嫌とは言わせん」
「むう……」
そう返されれば、断ることが出来ない。どこか暗い表情の勇儀を見て、彼は軽く腕を振った。
ごつごつした岩に腕を置くと、肘が少し痛い。だが、出来ないことはなく、促されるまま、彼女の手を握りしめた。
「本気でやりな。出ないと、あんたが怪我するよ」
「……はあ、分かった、分かりました……やりゃ、いいんでしょ、やれば」
「よろしい」
その言葉を最後に、会話が無くなった。
……しばし静寂が訪れる。場が十分に静まったのを見た萃香が、ゆっくり片手を上げた。
獣の本能、発動。
衝撃波を利用した推進力を発動。
そうして彼が準備を整え終わったとき、萃香の腕は一気に下げられた。
「――っ!!」
「む!?」
声の無い彼の咆哮。爆発的に高められた衝撃波がブースターとなって彼の力を底上げし、勇儀の腕を叩きつける……はずであった。轟音と共に、勇儀の華奢な腕が岩を叩き割るはずであった。
「へえ。只者ではないと思っていたけど、大したもんじゃないか」
だが、現実は、彼と彼女の腕は最初からピクリとも動いていない。全く微動だしていなかった。
余裕綽々と言わんばかりに彼の盛りあがった腕を見つめる勇儀。その様子は、小さい子供を相手にしているような印象すら与えた。
まるで巨大な岩を相手にしているような感触を、彼は感じた。強いとは、そういう話ではない。話にならないのである。自分の腕力が、全く通用していなかったのだ。
同時に、彼は始めて目の前の鬼を理解した。
これが……鬼か。鬼というものなのか、ということを。
「……あんまり、長引くのもあれだ。一気に終わらせるぞ」
途端、岩が動いた。勇儀の腕が彼の腕を押していき、徐々に敗北へ押しやろうとしている。その光景を横目で見た彼は、思わず舌打ちしそうになった。
強い、圧倒的に強い。だが、不思議と怖いということは無い。ただ、悔しかった。目の前で涼しい顔をしている彼女に……自分を見ている勇儀に、せめてひと泡吹かせたかった。
踏みとどまる、発動。
瞬間、勇儀の瞼が大きく開かれた。
「――っ!? おお!?」
体中から汗が噴き出し、地面に黒い跡を作っていく。目を見開いた萃香の様子は、もはや彼の眼には入らなかった。
噛みしめた奥歯が痛む。力みすぎたせいで鼻血が噴き出し、流れた血が彼の唇を赤く濡らした。血管が千切れると言わんばかりに腕に浮き上がり、筋肉が膨張する。
そのおかげで……敗北へ向かっていた彼の腕が、ピタリと一瞬だけ止まり……ほどなくして、手の甲が岩に触れた。
だが、勇儀と萃香から驚愕の歓声を出させるには十分だった。
痙攣する腕を押さえて、必死に呼吸を整えている彼を尻目に、勇儀はジッと今しがた握られていた自分の手を見つめていた。
その顔からは何の感情もうかがい知れない。横から見ていた萃香も、勇儀の顔色をうかがうばかりで、静かに彼の背中をさすっているばかりであった。
そうして、しばらく呼吸を整えていた彼が人心地ついた頃、ようやく場の静寂が打ち破られた。
「ああ、負けた。完璧に負けた」
「……いや、お前は強い。私を相手にここまで粘ったのは、萃香を除いたら二人ぐらいさ。自身を持っていいよ」
彼に視線を向けず、そっぽを向いたまま、勇儀は彼に告げる。腰に下げていた伊吹瓢に口づけて傾けると、彼女の喉が大きく鳴った。
ふう、と勇儀は伊吹瓢から口を離すと、それを萃香に手渡す。萃香も勇儀に倣って、グイッと口を傾けた。
その様子を見ていた彼は、はあ、と溜息を吐いて、伸びをした。
「次は負けないぞ」
瞬間、勇儀は彼へ勢いよく振り返った。
「……次?」
「そうだよ。勝ち逃げなんてやり方はやめろよ」
そういうと彼はさっさと先へ向かった。ただ、連続する疲労が彼の体力を奪っていき、その足取りは少し、頼りなかったが。
その彼の後ろを、勇儀はジッと見つめる。かすかに、勇儀の唇が動いたのを、萃香は見逃さなかった。
「…………そうか……次……か……そうか……そうか……」
……そのとき、勇儀がどんな表情を浮かべていたのかを、彼は知らない。
彼もこのときのことは話にしなかったし、鬼二人も話題にすることはなかった。
ただ、唯一このとき、勇儀の顔を見ていた萃香の口元が笑っていたのは、勇儀すらしらないことであった。
う~ん、そういえば、あの腕相撲の後に、こうやって寝るようになったんだよな……そんなに腕相撲したかったのかな、勇儀は。
変なやつだな、と思いつつ、彼は瞼を閉じた。
しばらくして、彼の寝息が聞こえ出した頃、勇儀の瞼が静かに開いた。
感じる彼の呼吸は規則正しく、深く寝入っていることがうかがいしれた。
彼女は辺りの様子をうかがって、不穏な気配を放つ妖怪が近寄ってきていないのを確認する。彼を起こさないようにゆっくり腕を解いて、屈みより……。
彼の額に、優しく口づけた。勇儀はそのままギュッと彼を抱きしめた後、こんどこそ彼女も寝息を立て始めた。
…………………………ふふ。
2本角を持つ、小さな鬼の含み笑いが、毛布の中に隠されて、消えていった。
ヒント:平安時代の衣服には、パンツ系の下着はありません(というより、そういう常識そのものがありません)
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