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  東方典型録 作者:葛城
もう、13話目か。なのに、まだ東方キャラ二人とか……けーねさんに到達するまで、何話必要になるのやら。
ケロケロ王国
 神社が改築された。彼が諏訪子に仕えて、早4回目のことだった。
 行ったのは信者の人たち。彼らは諏訪子の指示で鳥居を設け、近隣の道路を整理し、また結界を張った。
 さすがに信者の数が多いと、掛る時間も大幅に短くて済む。しかもそれだけ人が多いと、中には農民をやらせるには惜しいぐらいの知性を持った者も何人か……。
 諏訪子はそんな人たちに目を付けた。というより、目を付けざるを得なかった。
 何分、信者が増えるのは彼女とて喜ばしいことではあるが、増えすぎれば手が足りなくなる。力はあるし、民草に信仰のお返しをしようと思っていても、信者の住む場所があまりに遠くては、上手く力が届かない。
 そのうえ、数が増えれば増えるほど、諏訪子に届けられる願いの種類も増える。信仰する者へのお返し、魑魅魍魎への威嚇、敵対する異教徒への対応……その他数え上げれば切りがない。
 文字通り、寝る間も惜しんで働いても手が足りないのである。もちろん、彼もおよばずながら助力はした。諏訪子が直接信者の前で、彼を召使として仕えると宣言し、公に姿を出して、負担のいくらかを回したのだが、所詮焼け石に水。
 さすがに神といえど、無限に続く体力は持ち合わせてはいない。近隣国まで信者が増えていったあたりで、ついに疲労の限界を迎えた諏訪子は、新たな打開策を打ち出した。
 それが、件の内容。信者の中で最も知性に溢れ、霊的能力を有した乙女を選び出し、その人間を自身の仕事の一部を肩代わりさせたのである。
 その乙女の名は、洩矢もりやと言った。諏訪子は彼女に自身の力の一部を与え、雨風を操る秘術を授けた。そして彼女に、雨を操り風に祝福された者……洩矢風祝もりやかぜはふりという名前を与える。
 さらに、巫女へ向かう信仰を自身へ向ける為に、自身の名を洩矢諏訪子と改めた。
 後に風祝かぜはふりと呼ばれる洩矢の現人神の誕生であった。
 一人を決めれば、後は早い。二人、三人と、ミシャグジを信仰する霊格がある女性……現人神の手足となり、公私に渡ってサポートをする者を次々と選抜していった。
 また、これらの女性は男を知らない少女であり、処女であることを条件にした。比較的、強い野心を持つ男から余計な入れ知恵を入れられたくないという、諏訪子の思惑が、そこにはあった。
 同時に、幼い時から教育して洗脳することで、万が一にも謀反を起こさないようにする必要もあった。年若いのも、余計な悪知恵を持たないうちに……というそれらの理由から、年若い少女で、処女であることを条件にしたのである。
 この少女達は後に、神霊となる現人神に仕える女子ということから、巫女と呼ばれるようになり、その数を徐々に増やしていった。
 そして。ミシャグジ率いる諏訪子達は、次々と近隣諸国を呑みこみ、信者としていくことによって、その勢力を爆発的に拡大していった。
 西暦267年。諏訪子は自身を国王とし、洩矢王国を建国した。ここに、永年と続くことになるミシャグジ信仰の基礎が、確立した。


【レベル   :2660         】
【体力    :12068/13500  】
【気力    :7000/7000    】
【力     :3999 + 2000  】
【素早さ   :4677         】
【耐久力   :2900 + 1555  】
【装備・頭  :ケロ帽子         】
【  ・腕  :洩矢の鉄輪        】
【  ・身体 :ケロ洩矢         】
【  ・足  :ケロスカート+ケロシューズ】
【技能    :祟り神・ミシャグジの王  】
【      :神様の威厳・嵐にも負けず 】
【スキル   :洞察力  レベル400  】
【      :美感力  レベル100  】
【      :神通力  レベル2200 】
【      :自己修復 レベル25   】
【アイテム  :彼の手ぬぐい       】


 まじ震えてきやがった……怖いです。彼はゴクリと唾を呑みこんだ。
 なんか最近諏訪子の雰囲気変わってきたな……オーラというか、気迫というか、覇気というか……目に見えて威圧感が増したな~……と日ごろ思っていた彼が、ステータスで覗いてみた結果がコレであった。
 はっきり言って、彼は落ち込んだ。落ち込みようのあまり、原因である諏訪子から休めと厳命されるぐらいなのだから、それはもう、凄い顔色だったのだろう。おかげで、巫女頭の女の子からは、ちゃんと療養してください、め! と指を立てて怒られてしまったくらいだ。
 しかし、それも致し方ないことなのかもしれない。彼とて、プライドはあるのだ。
 いくら相手が神であり、自分よりはるかに強いと分かっていても、見た目は女の子だ。しかも、見返してやろうと人知れず訓練していたのだから、そのダメージも大きい。なにせ、血のにじむような鍛錬を行い、最近になってようやくレベルが200を超えた辺りだというのに。普段信者の前で威張っている以外では、ダラダラと彼にあーだこーだ我が儘を言いたい放題しているだけで、コレだ。信仰パワーとは、これ程なのか?
 それなのに、ああ、それなのに、この差である。優に10倍以上も差がついていたのである。もはや像とアリどころではない。光とカメだ。太陽と動物プランクトンだ。勝負にならないどころか、勝負(笑)とか言われてもおかしくない実力差だった。
「……さすがに、これはヤバいのかもしれないな」
 自室に用意された布団の中で温まりながら、彼は深いため息を吐いた。もちろん、部屋の外にいる巫女達に聞こえない程度の音量で。一応部屋の周囲は襖……に似せた板で覆ってはいるが、防音は期待してはいけない。諏訪子が下手に巫女を部屋に連れ込まないように、という名目から、そうなっているらしい。ちょっと傷ついたのは、彼だけの秘密である。
 まあ、かれこれ幾年の月日を過ごした部屋である。多少改築やら新築やらを行ったが、自分の部屋のことは自分が一番よく分かっている。質素で、静かで、集まって騒ぐには狭い……そんな場所が、彼の自室であった。
「…………」
 遠くから、参拝する信者の笑い声が聞こえてくる。ふと、右へ首を向けた。そこには、衣服を入れている青銅器が置いてあった。
 左を見る。廊下と自室を分ける板がズラリと並んでいた。普段、大して気にも留めないが、こういうとき、不思議とこの板が酷く鬱陶しいものに思えた。
 ……暇だ。彼は一つ、欠伸をした。
 正直言って、眠くは無い。最近は彼がやっていた仕事を巫女達がかわりに務めるようになり、専ら今では昼寝と巫女達の遊び相手が仕事である。
 その内の一つである巫女達との遊びが中止になったので、後残っているのは昼寝だが、これはもう既に1回行っている。なので、彼は全く眠くなかった。
「…………」
 遠くから、鳥のさえずりが聞こえてくる。
 ……抜け出そう。そうしよう。
 そう思い至った彼は、さっそく布団から身を起こし、部屋を隔てる板を開けた。
「め」
 愛らしい瞳と目があった。
「………………」
 先に居たのは、巫女だった。長い黒髪を後ろで束ねたその巫女は、彼の手を掴むと、彼を部屋の中へ引っ張った。そして、踵を伸ばして彼の頭をポンと叩くと、もう一度、め! と指を立てて、部屋を出て行った。
 ガタゴト、建てつけの悪い板が閉められると、部屋の中には静寂が戻った。
「…………」
 なかったことにしよう。そう思った彼は、反対側から部屋を出た。
「……め」
「…………」
 そこには、これまた巫女がいた。今度の子はさっきの子よりも表情に乏しく、声も消え入りそうなぐらいに小さかった。彼女は巫女服の上からでも視認出来る大きな胸を彼の身体へ押し付けると、そのままぐいぐいと身体を前に突き出した。
 弾力に押されるがまま、またもや部屋の中へ押しやられると、その巫女は一礼して部屋を出て行った。
 ガタゴト、建てつけの悪い板が閉められると、部屋の中には静寂が戻った。
「……………………」
 しばしの時間が流れた。残された部屋の出口はあと一つ。もしかしたら、そこにも巫女がいるのだろうか……いや、いるだろうな。
 そう確信した彼は、抜き足、差し足で、残った出口へ近付くと、板へ手を掛けた。そして、わずかに開けた。
「やっほ。ちょう」
 特徴的な帽子を被った少女を視認した瞬間、ほとんど反射的に彼は板を閉めた。それはもう、凄まじい反射速度を発揮した。
 途端、眼前の板が激しく軋んだ。彼は慌てず騒がず、板に掛けた手に、全力を注いだ。ぎりぎりと盛り上がる自身の筋肉を横目に、彼はさらに腕を太くさせた。
「ちょっと~、いきなり閉めることはないじゃないか」
「…………」
「せっかく時間を作って様子を見に来たんだから、姿くらい見せてくれたっていいじゃないのさ」
「…………」
 扉の向こうから気安く声を掛けてくる諏訪子の様子を考えて、彼はさらに力を込めた。
 少なくとも、彼の知る諏訪子は、彼の部屋に入るときにいちいち挨拶したりはしない。それこそ自分の部屋に入るがごとく、当たり前のように彼の布団で寝ていたりするぐらいである。
 それをわざわざ挨拶するということは……。
「ところで……」
 来た! 彼は思わず唇を舐めた。
「私は休めって言ったよね……どうして、部屋を出ようとしているのかな?」
「……ちょっと用を足しに」
「それなら、20分前に済ませているでしょ」
 なんで知っている? その言葉を、彼は寸前で呑みこんだ。
「……実は大きい方で……」
「それも、今朝したでしょ……確か大きさは……」
「そうですね、しました。忘れていません。俺の勘違いでした」
 だから、なんで知っている? 彼は少しずつ開き始めた板に両手を掛けつつ、そう思った。
 ふと、彼はわずかに開いた板の隙間に目をやった。
 そこには、丸く見開かれた瞳が彼を見つめていた。彼と目があったことに気付いたその目は、ニヤリと弧を描いた。蛇に睨まれた蛙。いや、この場合は蛙に睨まれた蛇……いや、虫か。
「ひい!」
 思わず漏れた悲鳴を、彼は寸前のところで噛み殺した。よくもまあ、称賛に値する胆力だったが、その言葉はしっかりと諏訪子へ届いていた。見え始めた頬は踏ん張りの為か赤く染まっており、うっすらと額に汗が浮いていた。
「ひい、だって……可愛いなあ、もう」
「か、可愛いとか言うな! 自分で考えても気色悪い!」
 可愛い自分。それを想像した彼は、身震いした。
 そんな彼を尻目に、既に腕一本通るまで開かれた板から、諏訪子の細い腕がにゅうっと差し込まれた。その手には、美しい文様が書き込まれた青銅器が握られており、ちゃぷちゃぷと中に液体が入っていることを伝えられた。
「ねえねえ、もう元気になったことだし、お酒飲もうよ、お酒」
「……いや、俺お酒弱いから。飲みたいなら、一人で飲めよ」
「一人で飲んだって美味しくない。こういうのは一緒に飲まなきゃ」
「……ていうか、俺酒癖悪いし」
「それぐらい、なんとかするってばぁ」
「おま……そう言って、何度俺を酔い潰すつもりだよ」
 諏訪子の気楽な言い草に、彼はため息を吐いた。
 実は、彼はお酒が弱い。といってもそれこそ一口飲んだだけで潰れるという程弱いわけでもなく、酒が嫌いというわけではない。
 ただ、酒癖が恐ろしく悪いのだ……という話を、彼は諏訪子から聞いているのである。
 その酒癖の悪さを知った上で、彼がそれを嫌がっているのを分かった上で酒に誘うのだから、性質が悪い。
 そういえば、確か、永琳も似たようなことを話していた気がする、と彼はふと、昔を思い返した。
「大丈夫、大丈夫。それに、酔った男一人取り押さえられないで、何が巫女か。そんなんじゃ、魑魅魍魎を退治することなんて無理だし、この私の巫女を務めるなんて、夢のまた夢。むしろ、ちょうどいい訓練さね」
「そんなわけあるか」
「そんなわけあるのさ」
 既に顔が少し入るまでに開かれた隙間から、諏訪子が顔をのぞかせた。
「……なにより、その巫女さん達が辛そうにしているのが、嫌なんだよ。誰が好き好んで自分のせいで覚束ない足取りになっている人を見たいと思う?」
「なあに。一種の通過儀礼だよ。お前さんを取り押さえられて、ようやく巫女として半人前ってところさ。あんたが潰れた翌日は、だれか一人が大人になったってことなのさ」
 ……確かに、言われてみれば。潰れた翌日、よく自分に懐いていた子が、覚束ない足取りをしていたような。雰囲気もなんというか、子供っぽさが抜けたし、何かあったのかなって思っていたけど、まさか自分の酒癖がそんなことに利用されているとは。時折頬を染めてモジモジする子がいたりしたが、もしや半人前に達したことを、思い返していたのだろうか。
 諏訪子のそんな豪快な性格に、彼は今更ながらため息を吐いた。
「それに、酒で酔っているときは気持いいだろ? 腰とか胸とか、気持ちいいんだし、疲れも吹っ飛ぶはずよ」
「まあ、確かに気持ちいいけど……あれ? 諏訪子、なんでそんなこと知っているんだ? 俺、そのこと誰にも話してないぞ」
「え、あ、あ、そ、それは、お前さんが酒で酔っているときに、頼んでもないのにベラベラ喋ってくれるからね。それぐらい知っているよ」
 口ごもった諏訪子を見て、彼はそんなものかな、と思った。
「……それに、起きたら体中ベタベタしているし、お前何かしたか? 妙に部屋が血なまぐさいし、なんというか、独特な臭いだぞ、あれは」
「あ、ああ、それなら、お前さん酔っていて手元が覚束ないからね。口元どころか、体中が酒塗れになるからねぇ……服くらいは着替えさせるけど、それぐらいは残るだろうね。血なまぐさいのは……知らん。一日経った酒だし、匂いも変わるだろうよ。ほら、もう開けるよ」
「……これが最後なんだが、お前、どうして俺の手ぬぐ「ほいさ!」」
 その言葉と共に、彼の部屋に諏訪子が滑りこんできた。
 翌日、表情に乏しい巫女が、ウットリと頬を染めているのを見て、彼は人知れずその巫女へ合掌した。
 ちなみに、なぜ諏訪子が彼の手ぬぐいを持っているのか、彼には最後まで分からなかったし、諏訪子も決して教えなかった。ただ、まるで獲物を前にした虎のような目で見られることが多くなったと、彼は巫女の一人に愚痴を零していた。が、その巫女が自分よりも倍以上のステータスだということを知った彼は、その後不貞寝した。
残しておいたケーキが兄に食べられた。大好きなレアチーズのやつ。
……ウソダドンドコドーン!

さて、次にはようやく話が進みます。


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