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  東方典型録 作者:葛城
長いプロローグは終わります。
結局、何もわからない。
 変化が無いように思えた景色も、時間と共にそれは現れる。例えば、空の色だったり、照りつける太陽の位置だったり、様々だ。
 真上に輝いていた太陽は次第に角度を緩やかにしていき、晴天という言葉が似合う青空は、太陽が向かっていく西側から次第に鮮やかに燃えていく。
 それがどんどん地平線に近づくにつれて辺りを赤く染め上げていく。
 もうすぐ夕暮れ、という時間になったときには、衝撃的な出会いから、数時間が経過していた。
「よし、だいたい分かった」
 彼はひとつ、パンと膝を叩いて、気合いを入れた。
 正解……という確証は持てなかったが、おおよそ、こうだろう、こうではないか、程度のことを知ることが出来た。
「ステータス表示、俺」
 ポーン。電子音が脳裏に響いた。同時に現れるステータス画面。
 この音は、ステータス呼び出し画面の時に流れる効果音、的なものだ。それが自分の頭中から聞こえることに気づくのに、いくらかの時間を費やしたのは、彼の秘密だ。

【レベル    :1            】
【体力     :40/92        】
【気力     :0/1          】
【力      :8            】
【素早さ    :5            】
【耐久力    :6 +3         】
【装備・頭   :なし           】
【  ・腕   :なし           】
【  ・身体  :トレーナー + Tシャツ 】
【  ・足   :ジーンズ + スニーカー 】
【技能     :             】
【スキル    :洞察力 レベル1     】
【       :美感力 レベル1     】
【アイテム   :アイテム使用       】


「まず、ステータス表示、何々、で、対象のステータスを表示する。そして、気力……というのはよく分からないが、他はだいたい想像がつく。体力は文字通り……で、傷を負ったり、疲れると数値が減る、と」
 視線を手元に向ける。そこには、血の滲む血線がいくつも肌の上を滑っていた。ポツポツと湧き出たいくつもの血流が、重力に従って肌の上を流れ落ちていく。怪我自体は大して酷くなく、傷口も深くないので、既に血はほとんど止まっていた。
 といっても、怪我を負った当初はぽたり、ぽたりと流れ落ちる血液に、少し気分を悪くしてしまったのは、仕方が無かっただろう。あまりこれといって大きな怪我をしたことがない彼にとって、血が垂れて地面に落ちる程の出血でも、十分重症に思えた。
 そして、その怪我を負った経緯だが、ステータス画面……これは、名前が無いのは不便なので、最もしっくりくる名前を考えてたら、便宜上、これが最もイメージに合ったことから彼が付けた表示された文字盤の名称である。
 そのステータス画面を彼なりに調べた時、それは起こった。


「うわぁ!」
 突如生じた右腕の激痛。衝撃が身体を動かし、思わずたたらを踏む。ズシンと腕に掛る重みを感じると共に、彼は痛みの元へ視線を向けた。
「……ウサ……ネコ?」
 そこにあったのは、動物だった。ウサギとも見えるし、ネコにも見える、小動物が彼の右腕に噛みついていたのである。ウサギの顔に、ネコの身体、ウサギの尻尾を想像すれば、分かりやすいのかもしれない。
 彼はステータス画面を調査することに熱中するあまり、まわりへの警戒を怠った。そのため、この小動物の接近に気付かず、あまつさえ噛みつかれるという愚行を犯してしまったのである。
「いたたたた!!!」
 昔あった脱臼など目ではないレベルの激痛が走る。爛々と鈍く輝く動物の瞳が、ちろりと彼を見つめる。途端、噛みちぎらんばかりに食いしばっていた歯が、さらに皮膚へ食い込み、ところどころむき出しになっていた動物の口元から鮮血が零れ落ちた。
 く、食いちぎられる!
 決断は、一瞬だった。彼は目の前の動物の首元へ左手をかけると、力いっぱい握りしめた。手加減など、全く考えなかった。手のひらに感じる体毛をかき分け、血管の脈動がある場所へ、思いっきり力を込めた。
「いだだだ!!!」
「―――――!!!!」
「ぐ、ぐぅうう!!!!」
「―――――っ!!!」
「ううう!!!」
「―――…………」
「んんんん!!!」
「……………………」
「はぁはぁはぁはぁ……」
 動物に噛みしめられた顎から力が抜けるまで、彼はひたすら首を絞め続けた


 腕に出来た傷を眺めつつ、溜息を吐いた。血はようやく止まったが、見ていて気分の良いものではない。しかも、今は満足に治療を受けられる状況ではない為、万が一この傷が化膿して高熱を出してしまったら、ひとたまりもない。
「体力がさっきより減ったのは、この動物に噛まれたことと、無理して絞め殺したからか……これが0になったりすると、動けなくなるのだろうか」
 最悪、死ぬかもしれない。
 そんな言葉が脳裏をよぎったが、声には出さなかった。出すのが、怖かった。
 その恐怖から逃れるように彼はわざと言い聞かせるように続きを口に出した。
「そんでもって、アイテムは、『使用する』」
 ふわっと、彼の腕の中に、先ほど絞め殺した動物が現れた。
「なぜかは分からんが、殺した生き物は、『アイテム所有』で、消える。そんでもって、消えたアイテムを思い出しながら、『使用する』と唱えると、また現れる」
 これは偶然分かったことなのだが、生物は所有出来ないということ。それと、無機物でも土、とか石、とかでは漠然と過ぎるのか所有できず、手に持っている石、手に持っている土、など具体的にしないと所有出来ないことの二つ。
「所有物はステータス画面でアイテム欄で確認できる。次に、レベルは、おそらくゲームのやつと同じようなものだろう。多分、レベルが新しく表示されたのは、この動物を殺したことによって経験値が手に入ったことによって、レベルアップしたから……ということか?」
 なにぶん、答えと言える情報が何一つ無いので全て憶測にすぎなかったが、おおよそ当たっているだろうと彼は自身を納得させた。
「状況を整理するとだな」
 ちろりと唇を舐める。汗の塩っ辛さが舌先を痺れさせた。
「俺はトラックにはねられた後、幽体離脱的な経験をし、走馬灯らしきものを観覧し、その後はなぜか意識を持って見知らぬ場所で目を覚まし、なぜか良く分からない力か能力かそんなものを手に入れて、これまたなぜか色々な偶然が重なって手に入れた動物を捌いて食べなくてはならない……ということ……に、なるのかな」
 ごそごそとポケットを漁る。取り出したのは、どこにでも売っている100円ライター。
「助けは期待できそうにない……そしてなぜか、俺は不思議と冷静を保てている。もう、本当になぜなぜが多すぎてわけわからなくなりそうだが……」
 動物をアイテム所有で消して、振り返る。
 とりあえず、腹ごしらえをしなくてはならないかもしれん。
 彼は燃料になる枯れ枝を探す為、森へ向かって一歩踏み出した。


 この日から20年。年を取っていないことに気づくのに掛った時間。
 そののち幾年。彼の彼方の旅が始まることを、彼はまだ知らない。
さあ、突然手に入れる超能力、伏線もなしに出る不老状態、なぜか超冷静。
テンプレートのオンパレードです。ここらへん、厨二表現するなら、ひゃっほう、もしかして俺ってトリップ!やった~!でしょうけど、そんなことはありません。
分からないものは分からないです。なぜか冷静なのも、特別悲しい過去があるとかそんなんじゃありません。そういうものです。でないと話がいつまでたっても進まないのです。

そろそろ、キャラクターを出さないと。


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