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ギリギリとなりましたが、なんとか一ヶ月に二回更新出来ました

今回はレミリア側でのお話
ズェピアをどのように評価しているのか、といったものです

では、素麺片手にどうぞ
第二章~東方紅魔郷編~
第二十.五話『主と従者と想定外と』
 赤い、朱い、紅い―――外壁は勿論のこと、内装にまで紅が入った館、紅魔館。その館の中でも、最も装飾があしらわれた扉が叩かれた。

「入りなさい」

 その音に返したのは、幼いながらもよく響き、確かな知性を感じさせ、そして何より……威圧を感じささせる声だった。ゆっくりと、扉を叩いた人間が中に入る。
 目の前には大きく、これまた豪華な装飾があしらわれた椅子に座る、身の丈の小さな少女。背中に生えた大きな羽が、彼女が人ならざる者だと、放つ雰囲気が上に立つ者だと語っている。

「ご苦労様、咲夜。……で、彼はどうだったかしら?」

 簡潔な労いの言葉をかけると、すぐさま気になっていたことを聞く。
 それに対し、人間―――十六夜咲夜は、凛としながらもどこか焦ったような声で話し出した。

「はい、彼……ズェピア・エルトナム・オベローンはお嬢様の誘いを断りました。それも、手紙を焼くという無礼な働きまでして」

 それも、と言った辺りでは主を貶されたような気分になったのを思い出したのか、僅かに苛立ちの感情が入っていた。従者故に、ズェピアの行いは酷く気に障ったのだろう。
 だがそれを聞いても、お嬢様と呼ばれた少女……レミリア・スカーレットは楽しそうに微笑むだけだった。いや、むしろ笑みはより嬉々としたものにさえなっていた。

「いいわね、とてもいいわ」
「……お嬢様?」

 徐に立ち上がり、咲夜の前に向かって歩き出すレミリア。手の届く距離まで来ると、笑みを浮かべたまま聞いた。

「その時、彼は何を言ったの?」
「確か……つまらない、と」
「へぇ、つまらない……」

 まず思い出した言葉を口に出す。すると、レミリアはそれを反芻するかのように口に出し、咲夜から離れて窓の近くに向かった。
 窓に触れ、遠く遠く……夜闇に隠れて見えない人里の方角を見つめながら、口を開く。

「そうね、全く持ってそうだわ、つまらないことこの上ない」

 まるでこの場にいない誰かと話すかのように、その言葉に感情を乗せて。

「このままではつまらない、何も想定外アクシデントの無い予定調和ストーリーなんて、ありきたりすぎるもの」

 クスクスと、本当に楽しそうに彼女は語り続ける。それは彼女の能力故に、抱いていた不満なのだろう。
 作り上げた運命ストーリーの中の運命キャストを、運命アクシデントを、運命モブキャラを意のままに出来る彼女だからこそ、抱いてきた不満なのだろう。

 だからこそ、彼女は歓喜している。心の底から。自分の運命ストーリーを読ませなくする、その乱入者メインキャストの存在に。浮かぶ笑みは三日月のように、浮かぶ感情は想い人を待ち焦がれる初恋を抱く少女のように、今か今かとその時を待っている。
 時は、異変が幕開ける一週間前のこと―――レミリア・スカーレットは一日千秋の思いで待ち続けた。






…………………………
……………
………






 カチャリ、と小さな音を立てながらカップが置かれる。従来のものより、ほんのり赤みがかった紅茶がまだ少し入っているそれを一瞥し、レミリアは口を開いた。

「ついに、来たわね」

 楽しげに、嬉しそうに、噛み締めるように。一口飲み、また置く。
 視線は窓の外に向け、傍らに立つ自らの従者に話しかける。

「貴女はどうなると思う?」

 何が、とは言わない、言う必要が無い。視線の先では、信頼する門番の紅美鈴と、黒い外套に身を包んだ金髪の男性が対峙している。
 耳にした情報と酷似している姿……間違いなく、彼がズェピア・エルトナム・オベローンなのだろう。殺気を出しているだろう門番と向き合っているというのに、随分と落ち着き払っているように見える。

「私は門番が敗北すると思います、ですが相当の深手は負わせるものかと」

 淡々と、冷静に従者―――咲夜が答える。内容こそ冷たいものではあるが、これは彼女が一切の感情論抜きに考えた結果である。
 紅美鈴は、門番は間違いなく強い。しかしズェピアに勝てるほどではない―――が、それでもただではやられない、と。ズェピアの実力のほどはさっぱりだが、風見幽香という大妖怪に勝利したという話から判断してかなり上位とみていいだろう。
 咲夜の彼女らしい答えに満足したのか、笑みを浮かべたままレミリアは言った。

「そうね、私もそう予想するわ」

 当然だろう、レミリアの中でもズェピアは相当の実力者であると予想しているし、また門番は信頼する部下だ。何もせずに通すなどとは思えないし、ありえない。
 だが、だからこそ、レミリアは期待する。彼なら、ズェピアならきっと予想出来ない結果をもたらしてくれる、と。





 ―――そして、その期待は叶った。

「ク……ククク……アハハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいじゃないズェピア・エルトナム!」

 歓喜のあまり、大きな声で笑い出すレミリア。それもそのはずだ、本当に彼は、ズェピアはレミリアが全く予想していなかった事態を引き起こしたのだから。

「あの門番と何やら話を始めたと思ったら、まさかまさか……あっさりと通させるとはどんな手を使ったのか気になるわね」

 障害たる存在が館内に入り込んだというのに、レミリアが気に掛けるのはズェピアの使った手だった。
 いったいどのような手段で、あの門番を躱した(、、、)のか……喜色満面といった表情で考え出す。
 吸血鬼らしく、魅了の魔眼? まさか、あの門番の能力から考えればありえない。故に他の洗脳の類も、同じく候補から外れる。ただの話術だけで陥落させた? それこそまさか、だ。

「……可能性、ですが」

 咲夜がどこか、信じられないといった様子で口を開く。

「いいわ、話しなさい」

 何を思いついたのかは分からないが、自分とは違い、僅かな時間とはいえ接した従者だ。情報収集もしていた、恐らくそれらしい候補が出てきたのだろう。

「あの男が用いた手段は魔眼かと思います」
「……あの門番の能力を知らないわけではないでしょう?」
「それは、勿論です」

 それなら、続けなさい、と目線だけで言い、分かったのだろう咲夜は続けた。

「良くあるものとは違い、目を合わせている間のみ発動する類のものかと思われます」
「目を合わせている間……のみ、ね」

 成程、とは思う。本来の魅了の魔眼とは目を合わせた瞬間から始まり、解くまで効果を持続させる洗脳の類だ。
 しかし、目を合わせている間のみ、となると文字通りで非常に使い勝手が悪い。その分強力な効果を及ぼすだろうが……しかし、その可能性をあの門番が考えないわけがない。あれはぐうたらなところもあるが、中々に慎重で、思慮深い。
 ならば、その慎重に構えていた門番をも―――?

「つまり、ズェピア・エルトナムはあの門番さえ惑わす程強力な魔眼を有する実力者、と」
「……考え難いですが、恐らくは」

 考えを口に出し、従者の返答を聞く。成程、成程、成程。これは私では考えつかないであろう。そうレミリアは思考する。人間であるが故に、多少自身が危ぶまれる方向の可能性さえ思考出来る―――自分にはない長所であり、短所だ。
 こういう時は本当に人間の従者の存在が利点となる……決して、本当に助かるのは起きる時の着替えとか、食事中の口元拭いてもらったりとかの時ではない、断じてない。

「ふむ……咲夜、貴女なら彼を止められるかしら?」

 少しばかり、意地の悪い笑みを浮かべながら問いかける。答えなど分かりきっているというのに。

「…………予想しているだけの実力だとして、恐らく不可能だと思います」

 そうだ、そうだろう。彼女の、彼女たちの考えるズェピア・エルトナムの実力は途方も無い虚像であり、しかし彼女たちには実像。そうなれば、この解答は当然のものだ。

「ですが」

 だが、そこで終わらないのが十六夜咲夜という従者である。

「それがお嬢様のご命令とあらば……必ずや、あの男を仕留め、お嬢様のもとに血液をお届けいたします」

 主が為に身を粉にしてでも、命令は遂行、達成する……それが不可能なことであろうとも関係は無い。それが従者である十六夜咲夜を、十六夜咲夜たらしめる根源なのだから。
 レミリアが、咲夜の宣言を笑みを浮かべて聞き届けると、ふと咲夜は姿を消した。恐らく、時を止めて移動し、ズェピア・エルトナムに対する策を練り、準備するためだろう。

 手元の紅茶を飲み干し、信頼する従者からの吉報を、相対する吸血鬼がやってくる瞬間を、矛盾したその二つを期待しながら思い描き、目を閉じた。






「―――血を持ってこられても、あまり飲めないのよね……どうしよう…………」

 そんな呟きが響いた気もするが、気のせいであろう、多分。
シリアスブレイカー
宝具ランク:?
効果:シリアスなんて無かったんや!

はい、いつもの悪い癖です
でも仕方ない、公式であまり血が飲めない子だから仕方ない
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