'12/7/1
整備新幹線着工へ 計画に無理はないのか
国土交通省は北海道、北陸、九州・長崎ルートの整備新幹線の3区間について、着工にゴーサインを出した。計画が策定されてから、40年近くたっている。待ち続けてきた地元からは歓迎する声が聞こえてくる。
ただ、ある疑問がつきまとう。「なぜこの時期に、これほど大型の公共事業に踏み切るのか」ということだ。
消費増税関連法案が衆院を通過して、まだ間がない。国民に新たな負担を要請している最中だ。被災地復興という最優先課題も緒に就いたばかりである。投資に見合う利益を各地域にもたらせるのかも含め、さらなる検証と説明を求めたい。
今回認可されたのは北海道の新函館―札幌(211キロ)、北陸の金沢―敦賀(113キロ)、九州・長崎ルートの諫早―長崎(21キロ)の3区間。総事業費は3兆円超を見込んでいる。
そもそも、これらの区間は自公政権が2008年末に一部着工を決めていた。ところが民主党への政権交代で、ストップがかかっていた経緯がある。
百八十度の方針転換は、財源確保の見通しが付いたためという。約3兆円のうち1兆円は、JR各社が鉄道建設・運輸施設整備支援機構に支払う営業中の新幹線の「施設使用料」で賄うという。残る2兆円は、国と地方が2対1の割合で負担する計画だ。このほか収支採算性、投資効果なども一定の水準をクリアできると判断した。
驚くのは、その工期の長さである。開業は九州・長崎が10年後、北陸が14年後。北海道になると24年後だ。単年度ごとの支出を抑える狙いがあるが、人口減少社会に入り、税収など地方財政の見通しは厳しい。長期化すれば地元負担は重くなるばかりではないか。
自治体へのしわ寄せは、他にも及ぶ。開業によってJRが経営を分離する並行在来線については、第三セクターが引き継ぐことになる。赤字運営となれば、鉄路を守り切れなくなる時がくるかもしれない。それでは「生活の足」が奪われ、周辺地域の衰退を招いてしまう。
大きな負担やリスクを背負う半面、もたらされる利益については心もとない。
国交省の試算では、3区間とも開業後はそれぞれ年20億〜100億円の黒字が出るとみる。
だが、北海道では格安航空会社(LCC)の就航が相次いでいる。首都圏からの観光客をめぐる厳しい競争に立ち向かえるのか。結果は未知数だろう。
九州・長崎ルートにおいても、博多―長崎の所要時間は在来線特急よりも28分の短縮にとどまる。地元でも整備効果を疑問視し「国は税金を無駄に使おうとしている」などと、批判的な声が出ているようだ。
くしくも解散総選挙がささやかれる時である。着工を急ぐあまり、計画に無理が生じていないだろうか。そんな率直な懸念に、国は答える責務があろう。怠れば「票めあてのバラマキ施策だ」とのそしりも免れまい。
地元も新幹線の具体的な活用策を練る必要がありそうだ。有識者の中には「地域発展に生かす知恵が出てこなければ、お荷物になる危険性がある」との指摘もある。沿線の町が新幹線とどうつながり、まちづくりに生かすか。地域の底力も問われるだろう。