WEB広報東京都[平成24年7月号]
水道橋博士が語る東京の魅力 はかせのはなし

平成24年6月30日更新

コレキヨに学ぶデフレ脱却策

水道橋博士
 僕の所属する“ムラ”で、芸人親族の生活保護不正受給“疑惑”問題が発覚し、ここ数カ月、世間を大変騒がせてしまっています。
 プライバシーなんて二の次で、自分の父親母親をネタにし、幼少のころの貧乏自慢、骨身を削ってまででも「ウケる」ことへの渇望は、これは「菊次郎とさき」話に見る、我が師匠のころから続くこの世界の伝統芸。だからこそ、税金ではなく自分の稼ぎでウケを取った分、親孝行するのが普遍的な芸人としての矜持(きょうじ)だとも思うわけですが、長引く不景気、背に腹は変えられない事情もあるのでしょうといえば同情的でしょうか?
 いや、この不景気こそ諸問題の根源です。
 今の不景気の一番の要因は、デフレーションにあるともいわれています。すなわち“デフレ”は「貨幣の価値が上がっている状態」と説明されますが、逆にいうと「物の値段が下がっている状態」。こう言った方が実にしっくりきますね。
 何でも安くて、一見良く思えてしまうデフレ。しかし、その弊害や痛みに実感を伴わない症状は、実にバブル崩壊以来20年に及び、日本は世界史上にも類を見ない長期のデフレに突入しています。
 デフレ脱却に効果のある政策とはどういうものか?過去の歴史に鑑みて、どの時代の誰に学んだらいいのでしょうか?
 昨年、ドラッカーという経営管理の大家の考え方を、咀嚼(そしゃく)した本がヒットしましたが、今、その「もしドラ」に似た表紙の『コレキヨの恋文』という本が良く売れているようです。副題は「新米女性首相が高橋是清に国民経済を学んだら」。まさにこの通りの内容で、総理大臣、日銀総裁、6度の大蔵大臣を歴任し、2・26事件で暗殺された高橋是清の経済政策に学ぶ本です。
 著者は、中小企業診断士で経済評論家の三橋貴明さん。ライトノベルっぽい表紙ですが、中に挿絵(さしえ)は一切出てきません。代わりに分かりにくい経済の話には図やグラフによる解説が入ります。
 「歴史は繰り返す」の言葉通り、今の日本と驚くほど一致する経済状況の中、是清は、日本が関東大震災で被災した大正時代のデフレ期を積極財政政策で見事に脱却させます。
 この「積極財政」、無論、時流とは逆の主張にも感じられます。
 国の借金が膨れ上がっているときに、さらに国債を発行して大丈夫なのか?
 無駄な公共事業は時代遅れの考え方ではないのか?
 日本銀行の独立した政策のお陰でハイパーインフレから守られているのでは?
 そういった、疑問が一つ一つ論破され、小説仕立ての物語の中で分かりやすく今の日本に必要な真の経済政策が説き明かされていきます。
 なにより、ボクが首肯(しゅこう)した点は、国土面積は世界のわずか0.3%に過ぎないにもかかわらず、世界の大地震(マグニチュード6以上)の2割が日本列島周辺で発生する故、今後の日本の公共投資は耐震、防災目的の永久的インフラになるというお話でした。
 もちろん諸説あるでしょうが、本当にこの小説のように日本の現状に即した経済政策を実行する総理大臣が生まれ、日本が景気回復して欲しいと思わずにはいられない内容だと思います。
 石橋貴明さんの番組で、一部の芸人だけが銀座で高級時計や紳士服を買わされる泣き笑いの光景も楽しいですが、三橋貴明さんの政策案で、より多くの都民が、銀座で楽しい買い物を出来る日も、心待ちにしたいものです。