PIMCO:財政破綻リスクほぼゼロ、円債に魅力-増税と紙幣増刷可能
6月29日(ブルームバーグ):債券ファンド世界最大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は、公的債務残高が国内総生産(GDP)の約2倍と主要国で最悪の状況にある日本が将来的に財政破綻する「確率はゼロに近い」とみている。
PIMCOの日本部門、ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏は28日の記者説明会で、公的債務の持続可能性については「政府は徴税権を持っているので、民間部門のバランスシート(資産・負債状況)も合わせて考えるべきだ」と指摘。日本には長年の経常黒字で積み上げた世界最大の対外純資産があるため、「将来的に経常赤字基調になってもバッファーがある」と説明した。
正直氏は、日本はユーロ圏の重債務国とは異なり、公的債務が「自国通貨建てで、円を発行する中央銀行を持っている」とも指摘。仮にデフォルト(債務不履行)の恐れが生じた場合でも、国家として紙幣の増刷を選択すれば回避できるという。金融危機を受けて財政状況が悪化した「先進国の国債は全て『汚れたシャツ』だが、日本は『ましな汚れたシャツ』だ」と評価。足元では日本国債の「相対的な魅力は以前より高まっている」と述べた。
日本国債への投資戦略としては、償還までの残存期間が「7-10年を中心に保有」すべきだと推奨。半面、10年後の債務レベルは今より悪化している可能性が高く、経常収支も早期赤字化は見込んでいないものの「長期間にわたって徐々に悪化していく」ため、超長期債は避けるのが賢明だとも語った。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは4日に一時0.79%と約9年ぶりの低水準を付け、27日にも0.80%に低下した。
富の移転、民間から政府へ衆院は26日、野田佳彦首相が進める財政再建の柱となる消費増税法案を可決。現在5%の消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%へと2段階で引き上げる内容だ。参院で成立し、計画通り増税できれば1997年4月以来。ただ、政府は消費税率を10%に引き上げても、2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化できないと試算する。
正直氏は、民主主義国家では債務問題に対し、歳出削減や増税に踏み切りにくく、低金利政策によるインフレ期待上昇・実質金利低下を通じて民間から政府への実質的な富の移転をもたらす「金融的な抑制」に走りやすいと指摘。先進国では「中銀が国債管理政策に組み込まれ、マネタイゼーション(事実上の政府債務引き受け)を行う」流れにあるとの見方を示した。
米欧が紆余曲折を経ながらも長期的には財政健全化を進める一方で日本の努力が不十分な場合には、将来的に「日本の長期金利は持たない」恐れがあると分析。少子高齢化で世代間の所得移転では持続不可能になっている社会保障制度を放置していることが、日本の財政に関する問題点だと指摘した。
円相場については、世界的な成長鈍化や欧州債務危機を背景に「強い通貨であり続ける」と分析。「1ドル=70円台半ばから80円台半ば程度」で推移すると予想した。日本銀行が低成長・円高・デフレ期待を打破するには「かなり思い切ったことをやる必要がある」と指摘。金利押し下げの効果には限界があるため、政府の為替介入と連携した追加緩和や外債購入などで円安誘導を図るのも一案だと語った。
ユーロ圏は単一通貨・金融政策にもかかわらず、財政政策や銀行監督などの主権は各国が堅持している。ピムコは危機対策を小出しにする「ステイタス・クォー」(現状維持策)が3-5年後も続いているとは想定していない。ギリシャと1、2カ国が離脱し財政統合を果たしたより小さな通貨同盟になる確率が高いとしながらも、ユーロが完全に崩壊し、17通貨に戻る可能性も相応にあるとみている。
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更新日時: 2012/06/29 13:28 JST