2012年6月24日放送
減塩後進国ニッポン!その行く末を決めるのはあなた
塩分は、もともと生き物にとって体内のミネラルバランスを保つために欠かせないものです。しかし、アメリカの大学で行われた実験では、塩を与え続けたマウスから塩を絶つと、脳細胞にはタンパク質が増えるという結果が出ました。実はこのタンパク質、麻薬依存患者がコカインやヘロインを絶った時に作られるものと同じ。「塩には依存性がある」という驚きの実験結果が出たのです。必要なものだけれども摂り過ぎると良くないのが、塩。しかし日本人は一日あたりの塩分摂取量が多く"減塩後進国"とも言われています。前回の放送では、加工品や外食など家庭で調整しにくい塩分が日本人の塩分摂取量の6割を占めていたとお伝えしました。
「加工品」「外食」が減塩のキーワードになるのではないか。今回はまず、食品メーカー、外食、コンビニエンスストアなど売り上げ上位121社に番組が行ったアンケートから、企業の減塩対策を見ていきました。アンケートでは、減塩、無塩、低塩と銘打った商品が「ある」と答えた会社が、63社のうち30社。そのうちの2社を取材しました。まずはレトルト商品を作っている食品メーカー。10年前から病院向けの減塩食を手がけています。去年の秋、塩分をおよそ7割カットしたカレーやシチューなどの商品を売り出しました。この食品メーカーが開発したクリームシチューの製造工程を見せてもらうと・・・。
"野菜"は収穫後間もない新鮮な野菜のみを使い、量を"倍"にして味が薄くならないようにしています。そして味を引き立てる鶏ガラスープは、加える水の量を減らし、スープの量を倍にし、さらに白ワインを加えて、香りと酸味を引き立てました。減塩を打ち出したレトルト食品は、このように手間とコストがかかるため、値段は普通のレトルト食品の倍以上。そのため、健康食品を扱うスーパーには置かれていても、一般のスーパーではまだ取り扱ってくれません。でも、この食品メーカーでは「今後、日本の食卓には減塩商品が欠かせなくなる」と予想し、これまで以上に力を入れていくそうです。
一方、科学的なアプローチで減塩食を作り出す水産会社もあります。開発したのは、塩じゃけや明太子など塩味が欠かせない製品。この塩分量を、なんと30%もカットしたのです。世界各国から取り寄せた、魚貝などの旨みや香りを抽出した濃縮液。このエキスと塩を組み合わせて、塩味を引き立てようという作戦です。世界各国のエキスを試した結果たどり着いたのは、なじみぶかいカツオのエキスと大豆のエキスでした。組み合わせると、最も塩味が引き立つことが分かったのです。
ここにたどり着くまでおよそ3年。しかし今は、期待していたほどの売上げにはつながっていません。原因の一つは「減塩」という言葉の持つイメージです。「減塩というと単純に塩を抜いただけというふうに思われちゃう」「減塩なのにひと味違うぞ、みたいなとこが見せられたら。」...苦労の末生まれた減塩商品が定着するのか?それは消費者のみなさんが買うかどうかで大きく左右されるのです。
番組では、日本の食品表示から塩の量を割り出す方法をお伝えしました。エネルギーやタンパク質など5つの項目が書かれている栄養成分表示の中で、「ナトリウム」がポイント。このナトリウムからおおよその食塩量を割り出します。(※計算式は下記お問い合わせ先をご覧ください。)また、減塩が進んでいるイギリスの食品表示(上図)を日本の表示と比較しました。イギリスの食品表示には、健康に関わる5つの物質が表示されていて、さらに一日の摂取目標値に占める割合も表示されています。例えばこの製品を食べた場合、書かれている分量を食べたら、1日に摂る食塩の25%、4分の1を摂取したということが一目瞭然で分かります。
服部幸應さん(料理専門学校校長)
塩ってね、面白いもんでね、2つ以上の食材を組み合わせると、それをくっつける作用を持っているんですよね。塩を入れることでね、ピッとね、1つの味になるわけ。まとまってくれるという。だから、それだけにね、これから抜け出るのは難しいですよね。僕ね、特に一般の家庭がご自分のところで料理を作らなくなっているんだから、もっともっと外食産業の中で、お店の人たちが減塩のものを作ってくれる方向に持っていってほしいと思うんですよね。
埼玉県県内の建設会社で働く吉田賢(まさる)さん。2年前、がんが見つかりました。病名は「悪性リンパ腫」。大腸の近くにある2か所のリンパ節にがんがあり、進行度は4段階のうちの「ステージ2」。治る見込みは50%と言われました。しかしその6か月後、がんが全て消えたのです。吉田さんを生還に導いたのは、妻・のりこさんの料理。徹底したのは"限りなく塩分を減らすこと"です。今も再発を防ぐため、そのメニューを続けています。例えば、タラのスープは塩を一切使わず、代わりにおろしたショウガにこしょうを効かせます。また副菜に使うシラスは一回水につけて、塩を抜いて使います。吉田さんは抗がん剤を服用しながら、こうした食事を6か月間続けたところ、がんが全て消えたのです。
このような食事療法を薦めているのは、東京板橋区にあるクリニック。院長の済陽高穂(わたよう・たかほ)さんは、がん患者への診察・治療を続けるかたわら、5年前から独自の食事指導を始めました。(※済陽さんが提唱する食事療法のポイントは下記・お問い合わせ先)10年前。外科医として都立病院に勤務し、「がんは切って治すもの」と信じて疑わなかった済陽さんは、その信念を大きく揺るがすデータを目にしました。済陽さんたちが実際に手術した患者のほぼ半数が5年以内に亡くなっていたのです。国内外の資料を調べると、"食事"が免疫力や代謝を高め、がんの治療にも役立つことが分かりました。そこで食事指導を徹底した結果、生存率は71%まで改善。しかも、がんが治癒、または改善した人が全体の64%に達したのです。
済陽さんの患者の中には、絶望のふちから這い上がった人もいます。神奈川県に住む志澤弘さん。3年前、人間ドックで大きさ4cmほどの胃がんが見つかりました。進行度は最も悪い「ステージ4」。肝臓やリンパ節にも転移していて、医師からはもはや手術は不可能、余命は13か月と宣告されました。わらにもすがる思いで食事療法を始めた志澤さん。「自宅に居ると知らず知らずのうちに塩分の入った食材を食べてしまうかもしれない。」と自宅近くにマンションを借り、1人暮らしを始めました。
家族と離れ、抗がん剤を服用しながら、ひとり食事療法を続ける志澤さん。この日もスーパーに買物に出かけます。しかし、食塩の入っていない食べ物を見つけるのは極めて難しい...。たとえば、かつては毎朝のように食べていた食パンにも、調理がいらないお惣菜にも、塩の代わりに使おうと思った調味料にも、そのほとんどに塩が入っています。「どの食品を見ても、けっこう塩分塩分と書いてあるので、もう迷うし時間もかかるし、どうやって作ろうかって悩むし...イチバン最初のころは結構苦労が多かったですね。」結局この日買ったのは、オレンジ、めかぶ、納豆など8品だけでした。
買い物から戻った志澤さん。食事作りにとりかかります。味付けに使う調味料はハーブを中心に20種類。塩分が入っていないものを見極め、一つ一つ買い揃えました。慎重に食材を選ぶことこそ、志澤さんにとっての治療なのです。「これで体を作っている、これで病気を治しているっていう実感がものすごく強い。今食べている食事が、がん細胞を新しい細胞と入れ替えてくれるわけなんで。」徹底した食事療法を続けてまもなく3年。今月はじめ、志澤さんは済陽さんの病院を訪れました。果たして、診察の結果は?...なんと、がんが4分の1ぐらいに小さくなっていました!一時は手遅れと宣告された志澤さん。減塩の食事療法を続け、手術ができるレベルにまで、驚異の回復を遂げました。
榊原郁恵さん(タレント)
お買い物行っても、塩分、食塩、食塩、食塩。やっぱり家族の理解と協力っていうのがないといけないから、食塩を調節するってほんと大変。でも、病気になっちゃったらもっと大変だから。病院でも言われたんですけど、「これはもう、家族みんなのためにもいいことだから、減塩を心がけてください」って。「これは子供さんのためにもいいんですよ、将来のことを考えると」って、言われたんですよね。