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荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]のつづきです。
◆ ふたたび荒木飛呂彦の奇妙なコマ割り -
読者の平衡感覚を狂わせるもう一度、荒木割りの例を挙げておくことにしましょう。
◆ 荒木割りとななめルール -
外線と内線のちがい前章で挙げたコマ割りの諸類型と照らし合わせるならば、
上に挙げた荒木割りは、
ななめルールに則ったものとして分析することが出来るでしょう。
荒木割りで見られる変則的なコマの形は、
全てななめに切り取られた形をしています。
しかしながら、
荒木割りにはななめルールでは分析・説明しきれない要素があるように思います。
これも先に挙げた『火の鳥』の例と、
もう一度比較して見ることにしましょう。


重要なのは、外側のワク線と内側のワク線の違いです。
『火の鳥』がここまで変則的な割り方をしながら
基準線をしっかり守っているのに対し、
『ジョジョ』は外線だけをななめに割って内線は定型のままです。
内線をななめに割るか外線をななめに割るかという、
明確な違いがここにはあります。
前章で挙げたコマ割りの諸類型のうち、
外線の変化に対応しているのは
拡大・曲線・非線形的時間・めくりの四類型ですが、
荒木割りはそのいずれとも異なっています。
拡大ルールでは
強調の度合いを強めるために基準線をはみ出す大きなコマがつくられる
ことがありますが、
荒木割りでは29ペイジの1コマ目・5コマ目、30ペイジの2コマ目以外はすべて、
コマの端はペイジの端の内側にとどまっています。
(ななめにはみ出たと考えることも出来ますが、
いずれにしろ、荒木割りにしか見られない特徴です)
そもそも、上に挙げた場面では男と女が会話をしているだけで、
なんら強調すべき要素が見当たりません。
バトルやアクションを主体としているこの作品のなかでは
むしろ平穏な場面に属する例で、
拡大ルールによって強調する必要はないはずです。
また、コマの形はあくまで直線的で、
作品内時間もごく普通に流れていますし、
めくりの効果も見出せません。
すなわち、
外線をななめに割るという荒木割りの特徴は、
他のどの類型を以ってしても分析できないものなのです。
◆ なぜ外線がななめに割られるのか? -
ペイジ全体を傾ける荒木割りで、なぜ外線がななめに割られるのか?
そこで注目したいのが次のような例です。



かなり大胆にななめに割られているにもかかわらず、
すべてのワク線がお互いにほぼ直角に交わっていることに注目してください。

つまりこれらの例は、
ペイジ全体を傾けたコマ割りだと考えることが出来るのです。
ペイジ全体を傾けるというルールによって、
ほぼ全ての荒木割りを分析できるように思います。
たとえば次のような例。



これらの例は、ペイジ全体を左右に何度も傾けたコマ割りです。
(ぶるぶる震えているような感じ)

さらに、定型的なコマ割りと荒木割りをミックスすることも出来ます。

上の例で、外線がななめに割られているにも関わらず
内線がすべて定型的に割られていることに注目してください。
ペイジ全体を左右に何度も傾けるということは、
そのあいだにペイジが垂直になる瞬間も含まれている
ということなのですから、
ペイジをぶるぶる振るわせた結果、
ななめのコマ割りと垂直のコマ割りが同居する結果になるわけです。
(残像によって複数のポーズが重なって見える感じ)

ペイジ全体を傾ける、ペイジ全体をぶるぶる振るわせる、
というルールによって、
一番最初に挙げた荒木割りの例も分析できるはずです。

この例ではペイジの四隅のコマがななめに割られていますが、
これは、ペイジ全体を左右にそれぞれ一回ずつ傾けたコマ割りを
残像によってミックスしたものです。
◆ なぜペイジ全体を傾けるのか? -
読者の平衡感覚を狂わせるではなぜペイジ全体を傾ける必要があるのでしょうか。
統合/拡大ルールやななめルールで見られたような、
特定の場面・内容の強調や緊迫感の表現などでは説明が付きません。
先にも述べましたが、いちばん最初に挙げた荒木割りの例は、
むしろ平穏な場面に属する例だからです。
非線形的時間でもありません。
また、作品世界がななめに傾いたりぶるぶる震えているわけでもありません。

嵐のなかを航行する船の中の様子を描いた例です。
船のゆれをそのままコマのゆれとして表現していますが、
荒木割りの例では作品世界はゆれてはいません。

つまり
荒木割りは、
作品の内容とはほとんど何の関係もないコマ割りなのです。
そこで注目されるのがめくりルールです。
めくりルールでは、作品の内容よりも、
ペイジをめくる読者の存在が強く意識されていました。
めくりは、読者がいてはじめて効果を発揮するコマ割りです。
これと同じようなことが、
荒木割りでも起こっているのではないかと思うのです。
次の例を見てみてください。

ペイジの天地(上下方向)と絵の天地が食い違っています。
こういった絵を見る際に、
本全体を傾けたり、自分の首を傾けたりしたことはないでしょうか。
実際にそのような措置をとれば、
絵の天地を正確に見ることが出来るはずです。

つまりこの例は、読者に首を傾けさせる効果を持っているわけです。
同じような効果が、
コマの中の絵を傾けるのではなく、
コマのワク線を傾けることによっても得られるはずです。






首を傾けることによって、
ワク線の天地をほぼ正確に見ることが出来ます。
この効果です。
つまり、
荒木割りがペイジ全体をぶるぶると振るわせるのは、そのつど読者の首をぶるぶると振るわせる、
すなわち、
読者の平衡感覚を狂わせる狙いがあるからなのではないでしょうか。
コマの中の絵ではなくコマのワク線を傾けることによって、
作品の内容の束縛を受けずに、
読者への効果だけを意識できるようになるはずです。
以下の記事につづきます。
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - もくじ]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その1]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その2]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その3]
[
荒木飛呂彦のコマ割りの原理 - その4]