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欧州連合(EU)とユーロ圏の首脳会議が、再燃していた債務危機に対して新たな金融・財政政策を打ち出した。ドイツやフランスをはじめとする加盟国が、深刻な意見対立を乗り越えて[記事全文]
原発事故で自粛が続いていた福島県沖の漁が1年3カ月ぶりに再開され、県内の小売店で試験的に売られ始めた。検査を徹底し、消費者の理解を得つつ、事故前の生活を取り戻していって[記事全文]
欧州連合(EU)とユーロ圏の首脳会議が、再燃していた債務危機に対して新たな金融・財政政策を打ち出した。
ドイツやフランスをはじめとする加盟国が、深刻な意見対立を乗り越えて合意に達した意義は大きい。これを契機に、欧州統合の求心力を取り戻し、危機の完全収束に努めてほしい。
合意は市場の予想を超える内容だった。経営危機に陥った銀行への資本注入について、欧州の救済基金が、その国の政府を経由せず、直接行えるようにする。金利の割高な国債の買い入れにも柔軟に対応する。
これによってスペインの銀行への資本注入の際、政府債務の肥大化が避けられる。南欧諸国の国債金利の上昇にも歯止めがかけられそうだ。
ギリシャを震源とする債務危機に対し、EUは国際通貨基金(IMF)や日本と連携して様々な支援策を取ってきた。それでもユーロ圏の解体論がくすぶり続けている。
ユーロは99年に導入され、ドルに対抗する主要通貨に育っている。しかし通貨統合を欧州の財政・政治統合につなげるための根本的な方策が取られることはなかった。危機発生以来、スペインやイタリア、ギリシャなど、南欧諸国の経済は疲弊の一途をたどっている。
今回、ユーロ圏の統一した銀行監督機関を整備することで合意したのは前進だ。支援の負担増を懸念するドイツのメルケル首相が要求していたものだ。ユーロ圏経済の信頼性に対する金融市場の疑念を解消することに役立つだろう。
ただ、これも目の前の危機回避策であって、中長期的な課題が解決されたとは言い難い。
欧州経済の活性化や構造改革は急務だ。日本円で約12兆円に及ぶインフラ整備計画を効果的に使って、フランスのオランド大統領らが唱える成長と雇用に結びつけねばならない。
長期的な課題は明らかだ。各国の国債を共同債に統一する。各国の財政運営にEUも関わっていく。銀行監督だけでなく、預金保護や銀行救済も一本化する銀行同盟を作る。
EU首脳会議のファンロンパイ常任議長らが提案したビジョンの実現に向けた工程表を早急に練り上げてほしい。
半世紀余りの統合の歴史は危機の連続だった。それを克服する努力の中で欧州は、将来への悲観論をはねのけ、一つずつハードルを越えてきた。
今回の合意で気を緩めてはならない。統合強化に向けて欧州は前進を続けてもらいたい。
原発事故で自粛が続いていた福島県沖の漁が1年3カ月ぶりに再開され、県内の小売店で試験的に売られ始めた。
検査を徹底し、消費者の理解を得つつ、事故前の生活を取り戻していってほしい。
販売されたのは、事故後の定期的な検査で放射性セシウムが不検出となっているタコと貝の3種類。出荷時の検査を経て、ゆでた商品が並び、売れ行きはまずまずという。消費者の反応を見ながら、県外でも販売を試みる計画だ。
漁を自粛している漁業者には東京電力から賠償金が支払われている。とはいえ、地域社会を再興していくには、安定した生業が欠かせない。
食品の放射能汚染では「1キロあたり100ベクレル以下」という基準がある。今春から、以前の暫定基準より5倍厳しくなった。県漁連は「50ベクレル以下」の独自基準を設けている。
ただ、放射能汚染への不安感には個人差があり、基準を満たしていても安心できないという人が少なくない。一度に大量に水揚げする魚介類はサンプリング検査にならざるをえない。農産物や畜産類と違って広い海を泳ぎ回る問題もある。
出荷時の検査をきめ細かく行い、検査の方法と結果を合わせて公表する。不検出の魚種をはじめ、基準を満たす魚だけを出荷する。この基本作業を続けていくしかない。
県外への出荷では、卸業者が売れ行きを心配して買い付けを控えることも予想される。消費者に直売するルートも検討してはどうか。「安全なら、買って被災地を助けたい」と考える人は多いはずだ。
福島県沖などの太平洋と東京湾では、東電や国、自治体が海水と海底の土、魚やそのえさとなる生物の検査を続けている。
水産庁の分析では、海面近くや海中の中層を泳ぐ魚の多くと回遊性の魚、イカやタコ類などではセシウムが減っていたり、不検出になったりしている。
一方、海底近くにいる底魚類では基準を超える例が目立つ。セシウムが海底の泥に吸着するためとみられる。海水や海底土の検査も地点と回数を増やし、分析を深めてもらいたい。
魚の産地表示では水揚げ港の都道府県を示すことが多いが、どこでとったのかわからないのが難点だ。
福島県沖を含む東日本太平洋の水産物では、水産庁の指導で、「○○県沖」や、七つに分けた海域での表示が広がりつつある。消費者への丁寧な情報提供に、さらに工夫してほしい。