6大関が顔をそろえて、大相撲が新しい表情で客に対面する。どこまで期待できるのかは分からないが、決まり切った表情とは違うものが顔を見せてくれるのではないか。そんな期待で夏場所を待った。
その見終わった感想だが、いったい何といったら良いのか。言葉に窮する。そうとしか言いようがないのだ。それほど面白い場所だったが、しかしこの15日間を繰り返しもう一度見せてくれと言われたら、それはできないと謝絶するほかない。
何せ、初日の取組で横綱が早くも敗北するという尋常ならぬ状況のさなかに引き込まれた。横綱が強すぎるよりも、1敗の星を引きずっていく方が面白いというむちゃな考えを述べる向きもあったのだが、これは少数意見にもなっていなかった。
白鵬は2日目から5連勝したので好調だと見る向きもあったが、途中3連敗し、親方が案じてみたところ、骨折だったいうことが判明した。その間、6大関が交互に境川勢に敗れ、混沌(こんとん)としてきた。
そこから、にわかに立ち直った白鵬が追いついて来る中に優勝ラインが下がってきた。
こうした転変を利用したわけではないだろうが、優勝ライン先頭の者と、それにつぐ力士とが交互に、状況を利用して思いもかけない競争を繰りひろげることになった。
それはごく大ざっぱなここ2、3日間の展開であるが、誰が優勝レースの先頭を切るのか、一人一人の力士たちの出入りがそれに加わって、日替わりの競争があったために、日替わりのレースははるかに波乱に富んだものになっていた。
私がこの最終段階を面白いけどと言いながら、いく分かの疑問を提出しないではいられないとの考えを示したのは、私の意見として見た面白さが、スポーツ中継とはかなり違うもののように思えたからであった。結果として優勝は誰も予想しなかった旭天鵬のものになったが、人柄や当たりの柔らかい物言いやらで、厚い好意を持つ人が多い。
この優勝でさらに多くのファンを集めることだろうと思っている。 (作家)
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