写真特集:地井武男さん「みがき砂」で格好よく 〜人生は夕方から楽しくなる〜 2010年7月16日
2012年06月29日
人の心にも分け入っていた。ミニバンで野菜を売る88歳のお母さんがいた。4本100円のキュウリを口にしながら、地井さんは「戦争中はご苦労なさったでしょ」と声を掛けた。すると、お母さんは戦争体験を語り始めた。後で地井さんに尋ねると、70歳以上の人には必ず戦争体験を聞くという。敗戦を経て一時は経済大国になったものの、今や世界の借金大国となった日本。激動の時代を過ごした高齢者の思いや経験が、若い世代に伝わっていないと思うからだ。
「政治家など名刺を持っている人などは生活を俯瞰(ふかん)しやすい。でも、お店でぞうきんがけやガラスふきをしないと店を開けられないとか、毎日の生活に追われる人の声を映像で伝えたいんだよ」
そういえば、まんじゅう屋のご夫婦や、水に入ってショウブの花を切る人など、汗を流して働く人たちに声を掛けていた。
「格好いい男になりたいね。正義感が強く、弱い者を助け、強い者に抵抗できる。朗らかで、軽そうだけど実は重くて、何も考えてなさそうで実は利口だったりね」
収録を終えたロケバスの中で、ひょいと地井さんはカバンから新潮文庫を取り出した。池波正太郎作「男の作法」だった。
「この本に『みがき砂』とある。人間は生きていれば、いろんなことがある。落ちてきた砂を振り払ってもいいけど、その砂で自分を磨いてみたら、きれいになるんじゃないか。僕は68歳になっても青臭いんだけどね、ははは」