14世紀から15世紀にかけてのヨーロッパは大小様々な国家に分かれていましたが、同時にキリスト教という同じ宗教で結ばれていました。しかし一方ではさまざまな対立の時代でもありました。イスラム世界と対立するキリスト世界、ローマ教皇庁に対するルターの宗教改革、さらにはそれに対抗するカトリックの側の対抗宗教改革、社会全体や日常生活に大きな影響を与え始めた新しい学術・科学と宗教観の対立など。
こうしたさまざまな対立の構図を象徴しているのが、龍を退治する聖ゲオルギウスの像[画像1]です。キリスト教を守る戦士聖ゲオルギウス、そして彼の槍を受ける龍は異教の世界を象徴しています。
1480年頃 エルコレ・デ・ロベルティ《洗礼者聖ヨハネ》[画像2]
1490年頃 ティルマン・リーメンシュナイダー《龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス》[画像1]
フィレンツェ出身のドナテッロはイタリア・ルネサンスを代表する作家です。彼が制作した聖母の髪や衣に古代彫刻の影響を認めることができます。またルーカ・デッラ・ロッビアの作品に見られるように、初期ルネサンスのもう一つの重要な特徴は、宗教的な人物が身近な存在として表されるようになったことです。聖母の手や指先、幼子の足先などのふくよかな肉体表現や、情愛溢れる母と子のふれあいなどが表現されています。
一方では信仰には痛みが伴うものでもあるという考え方が1480年のエルコレ・デ・ロベルティの作品《洗礼者ヨハネ》[画像2]に集約されています。禁欲的な信仰生活を送った洗礼者聖ヨハネは、信仰の苦悩と肉体的な苦行が一体であることを象徴しています。十字架像をうつろな眼差しで見つめる聖ヨハネは、恍惚として自分の存在を忘れています。それを象徴するかのように、背景に描かれている風景も荒涼として虚飾が捨て去られています。
しかし同時に15世紀後半のイタリアでは、理想の女性の美しさというものが追求されるようになります。理想の美しさの中に、魂の清らかさや美しさそのものが体現されるという考え方,あるいはその逆に、魂の美しさこそが人体に現れるという考え方がその背景にありました。
1490 年頃 ベルナルディーノ・ピントゥリッキオ《聖母子と聖ヒエロニムス》[画像3]
1460 年頃 ドナテッロの工房《聖母子とふたりのケルビム》[画像4]
1450 年頃 ルーカ・デッラ・ロッビア《聖母子》「画像5]