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ぼくのかわいいひと

「うっ、うぅ……。」

僕の前で今、声をあげて声をあげて泣き始めた年下の先輩が、自分よりも長くヒーローとしてあんな危険な現場に立ち会い今まで生きてこられたことが、正直不思議でならない。身体は細くて小さいし、NEXTとしての能力だって、ヒーローではないNEXTと比べても戦闘向きではない。ヒーローになる前なら、見切れているだけで、たいして危険なことはしていないのだろうとアカデミーで見かけた先輩の姿を思い想像していたんだが、実際はこの先輩ヒーローはカメラに映らないところで人命救助にいそしんでいる。見切れるにしても、かなり危険な線を渡っていることが分かった。

「泣かないでくださいよ。」

トレーニングルームに向かおうと、ロッカールームを出たところで走ってきたこの小さな先輩とぶつかってしまい、謝ろうとしたところで、先輩は堰を切ったかのように泣きだしてしまった。(ぶつかった瞬間に上目使いで、しかも涙目で見つめてくれた先輩は僕の心の中のアルバムにしまっておくとしよう)
ロッカールームの中にはまだ、虎鉄さんもいて、というよりここにいてはいつ誰が訪れるかもわからないこの場所でこの状況ではむしろ僕が先輩を泣かせたことになるのではないだろうか。……それは、まずい。
とりあえず、泣いている顔だけでも、隠してあげたくて(正直な話、こんなかわいらしい先輩を他の人に見せたくないって言う理由の方が大きいのだけれど)手に持っていたタオルを先輩の頭にかけてやる。
えっ、と美しいアメジストが二つこちらを見上げてくる。

「ここでは、なんですし。場所を移しましょう。」

話くらいは聞きますよ。
そう告げると、驚いたままの先輩の手をつかみ非常階段の方に引っ張っていってやる。
この先輩を、愛おしいとはじめて思ったのはいつだっただろう。アカデミーのころから焦がれていた相手だ。ヒーローになって、本当の目的はそうでなかったけれど、それでも、先輩に近付けたことをとてもうれしく思っていたのに、僕がヒーローになった時には、もうすでに別の人を好きになっていた。
今、先輩が泣いている理由だって、本当はわかっているんだ。認めたくないだけで。

「スカイハイと、何かあったんですか?」
「あっ、えっと……。」

スカイハイ、その名前を出しただけで、真っ赤になって涙も引っ込んでしまうこの先輩をとてもかわいらしく思う。先輩はとてもかわいらしい。先輩を泣かせるスカイハイを殴ってやりたいくらいにはスカイハイを憎い。スカイハイじゃなくて、僕だったらよかったのに。

「スカイハイが何かしたから、泣いているんですよね。なんだったら僕が彼を殴ってきてもいいんですけど。」
「止めてください!バーナビーさん……。キー…あ、えっと、スカイハイさんはなんにも悪くないです。泣いてしまったのだって、僕が勝手に、泣いて、しかも逃げ出してしまったからで、」
「すいません、言いすぎました。で、何があったんですか。」

うつむいてしまった先輩の小さな頭に手を置いて、綺麗なプラチナブロンドの髪に手を入れながらなでる。子猫のように身をよじる先輩はかわいらしい。

「えっと、あの……、……ました。」
「は?」
「……告白、されました。」

蚊の鳴くような小さな声で紡がれたことばを、僕の耳は確かに聞き取った。しかし、その言葉を頭が理解することを拒んだ。
ああ、もう先輩そんなうつむいて顔を赤くする、だなんて可愛いリアクション取らないでください。理性がダイナミックエスケープして襲ってしまいそうになるじゃないですか。

「今、なんておっしゃいました?」
「あっ、えっと、好きだ、って言われたんです……。スカイハイさんに。」

真っ赤になってはいるものの、嬉しそうに今度ははっきりとその言葉を紡いだ。いつもの、バーナビー・ブルックスJr. であったらこんな時は、『そうですか、よかったですね。おめでとうございます』そう、返してあげられるはずで、それで、先輩は笑顔で『ありがとうございます、バーナビーさん』と返してくれる。そんなことはわかっているのに、彼にそう返すことができない。

ヒーローになってすぐに、折紙先輩がスカイハイに恋をしていることに気が付いた。心のどこかで、そうでなければいいという希望があって、先輩に
『先輩、もしかして、スカイハイさんのことすきなんですか?』
と聞いてしまった。先輩は顔を真っ赤にして、
『……、僕が、あの人に恋だなんて、分不相応なことはわかっているんです。それでも、もう、どうしようもないくらい、あの人のことが好きなんです……。』
そう告げた。
『そう、ですか。』
『みんなには、言わないでくださいね……。僕なんかじゃ、釣り合わないですし……。』
『そんなことないですよ。』
思わず、そう告げてしまったのは、本人に僕の気持ちを否定されてしまったような、そんな感覚を味わったからであろう。
『先輩は、十分素敵ですよ。』
素直な感想に、先輩は驚いて、顔を真っ赤にして、御世辞でも嬉しいと告げた。御世辞なんかではないのに。
『何かあったら、僕に相談してください。僕でよければ相談にくらいのりますから。』
そう告げてしまったのは、ただの打算でしかない。ドラマや映画であるように、もしかしたら相談しているうちに先輩が僕の魅力に気が付いてくれるかもしれない。もし、先輩がふられるようなことがあったら僕が一番に先輩を支えてあげて、先輩の隣にいてあげられる。そんな汚い気持ちで、この綺麗な人に近づいた僕への罰なのだろう。

先輩からの健気なアプローチに気が付いたのか、スカイハイさんはいつからか、先輩の横に頻繁にいるようになっていた。

『バーナビーさん、聞いてください。昨日スカイハイさんと少しだけお話ができたんです。』
『あの、今日、スカイハイさんがランチに誘ってくれていて……。』
『バーナビーさん、どうしよう!!スカイハイさんからご自宅にお招きいただいて……。』
『昨日、キースさ……あ、スカイハイさんのご自宅にお伺いしたんですけど、ジョン君っていう犬を飼っていらっしゃっていて、』
『うぅ……、やっぱり、僕じゃ……。そもそも、僕、男だし……。』
『バーナビーさん、僕、どうやったらキースさんを励ましてあげられるでしょう。』

先輩が僕に話しかけてくれたのはスカイハイに関することだけだった。

「ハハハ……。」

自分が情けなくて口から笑いがこぼれおちた。

「バーナビーさん?」

先輩が僕の顔を心配そうにのぞきこんでくれた。その瞬間、先程までよりも、風が強くなった。不思議に思って空を見上げると、そこには渦中の人物がいて、距離はあるものの嫉妬している様子が見て取れる。
(きっと、逃げてしまった先輩を探していたのだろうな。)
スカイハイで、キース・グッドマンでいっぱいな先輩の頭の中に今は、少しだけ場所を作ってもらっていること、今までも、これからもあなたはこの愛くるしい人の頭の中をいっぱいにしてしまうのだから、今だけは僕が勝ってもいいじゃないかと思い、少しだけ、口角を上げて、先輩の腕を引っ張り、自分の腕の中に閉じ込める。

「ば、バーナビーさん!?」
「少しだけ、こうさせてください。」

焦って、こちらに飛んでこようとして、しかし、先輩に逃げられてしまったこともあり、どうしたらいいものか戸惑っているスカイハイを視界の隅にとらえた。せいぜい今くらい嫉妬して、困っていたらいいと思う。僕は今までずっと苦しかったんだから。

「あ、あの、バーナビーさん……。」
「おめでとうございます。」
「えっ?」
「スカイハイさんとのこと。あきらめなくて、よかったじゃないですか。」
「あ、えっと、ありがとうございます。でも、まだ、夢のようで……。」
「スカイハイさん、きっとあなたに逃げられてしまって勘違いして焦っているでしょうから、探してあげてください。」
「あ、そ、そうですよね……!僕、はなんてことを。」
「まあ、僕としてはいい気味だと思いますけどね。」

へ?と不思議そうに顔を上げようとする先輩に、今の自分の顔を見られないように腕の力を少しだけ強くして、顔を見られないように、さっ、と立ち上がる。

「じゃあ、僕はトレーニングに戻るんで。」
「あ、す、すいません、バーナビーさん忙しいのに貴重な時間を僕なんかのために使わせてしまって……。」
「あなたのために使う時間は、僕にとって有意義だから問題ないですよ。」

情けない顔を見られないように、先輩には自分の背中だけを見せて、扉に手をかける。

「先輩、お幸せに。スカイハイさんに泣かされたらいつでも行ってくださいね。先輩の代わりに殴るなり、蹴るなりしてやりますから。」

本当なら、ここで彼に笑ってあげれたらカッコイイのに、そんなことを出来る余裕何て今の僕にはないから、出来るだけ早く扉を閉めてここから去ろうとする。

「バーナビーさん!本当にありがとうございました!!!」

先輩からの純粋な言葉で、涙腺は崩壊した。

「あ、いたいた、おいバニーなにしてた、っておい!バニー!?」




End



(BBJに相談する先輩の話と言われたのに、これ相談してないですね。しかも兎さん可哀そう…。一応15話からしばらくたったイメージ?イメージなのですが、もう自己満足すぎてごめんなさいって感じですね。読んでくださってありがとうございました。)