90式戦車の情報ソース
月刊グランドパワーの2006年3月号に、管理人が書いた90式戦車のメカニズム解説が掲載されます。
・グランドパワー2006年3月号の紹介ページ
http://www.groundpower.co.jp/gp0603_page.html
それを書くにあたり、参考とした資料の一部をご紹介いたします。
従来、多くの軍事ライターの方々は、記事を書くためにつかった情報ソースを公表しないのが一般的でした。
これは、情報提供者を護るためという理由が主なわけですが、それ以外の「誰にでも容易に入手できるソース」
についてまで公表しないライターが、すくなからずいらっしゃるようです。
「誰にでも容易に入手できるソース」について公表しないのは、ライターの面子や不利益を
考慮してのことと思います。
筆者は、「誰にでも容易に入手できるソース」については、公表すべきと考えています。
ソースを公開すれば、筆者の考察の根拠や、どこに弱点があるのかさえ明確になります。
また、筆者以上の能力を持った研究者なら、より精度の高い考察を得られる可能性もあります。
筆者は常々、読者に正しい情報を提供することを、第一義に考えています。
筆者の考察が誤り(足りない)であれば、それすらも明確であってほしいのです。
(筆者にとっては、面子など、どうでも良い些細なことです)
以上のような考えから、ソースを公開した次第です。
前置きが長くなりましたが、ソースの紹介を始めます。
ソースひとつめは、下記のDVDです。
1)DVD「自衛隊ドキュメント集 Vol.1」
このDVDは、「ミリタリーBOX・自衛隊ニュース」が企画、メディアプレーン映像ライブラリーが著作したDVDです。
・「自衛隊ドキュメント集 Vol.1」の紹介ページ
http://www.mil-box.com/px/shohin/0622.html
・「ミリタリーBOX・自衛隊ニュース」のTOPページ
http://www.mil-box.com/
上記の紹介ページに、このDVDの内容(90式の部分)が次のように説明されています。
『自衛隊ドキュメントビデオ「平成5年度富士総合火力演習」の特集より、
90式戦車の弾種、動力性能、姿勢制御等の機能、照準装置、車内映像を
含めた自動装填装置および砲安定装置の動作映像と、昼間、夜間の実弾
射撃を収録。平成16年度の富士総合火力演習で公開された走行間射撃の
模様も紹介。』
まさに、この説明の通りの映像が見られます。
その一例として、DVDの映像をキャプチャしたものを、ご覧ください。
(メディアプレーン映像ライブラリー様よりキャプチャ画像の掲載許可を頂いております。)
(キャプチャ画像の他のWebSiteなどへの転載は、ご遠慮ください)
なお、このページの説明は、グランドパワー2006年3月号に掲載されるものと比較すると
極簡単なものです。雑誌の記事では、より細部にわたり解説しています。
90式について、とことんまで知りたい方は、是非とも雑誌の解説記事をご覧ください。
No. | 写真 | 説明 |
1 | 90式戦車の砲手席前方の画像です。砲手がボタンを押してるパネルが、照準装置の操作パネルです。押してるボタンは、弾薬の装填ボタンのようです。このボタンを押すと、自動装填装置が弾薬の装填を行います。パネルの上が、砲手用照準装置の接眼部です。単眼式なことが判ります。眼鏡の周りには、黒いクッションがついていることも判ります。その右の眼鏡は、補助照準装置です。主照準装置が使えないときに使うものです。 | |
2 | 砲手用照準装置の操作パネルのアップ画像です。デジタル表示が、自動装填装置内にある弾薬の残弾表示のようです。残弾は「00」のようです。パネルの左側には、砲手用照準装置に付随する熱線映像装置のモニターがあります。パネルの右側奥の孔は、主砲同軸の7.62mm機関銃のマウント部の孔です。パネルの下には、照準や、測遠、射撃などの操作をするためのハンドルがあります。パネルとハンドルの間にある黒いU字型のものは、砲手が眼鏡を見ながら照準する際に胸を当てる部分です(引き出して位置を調整できる)。 | |
3 | 車長席の前方にある、熱線映像装置モニターのアップです。車長は、砲手用照準装置に付随する熱線映像装置(サーマル・ビューワー)の画像を、このモニターで見ることができます。ちなみに車長用照準潜望鏡(パノラミック・ペリスコープ)には、赤外線映像装置は付いていません。モニターの下には、メインパネルがあります。メインパネル上(右の方)に円形に配置されているランプは、レーザー検知装置の表示ランプです。レーザー検知装置は、敵からのレーザー照準の方向を、このランプで車長に知らせます。ちなみにレーザーを感知した際に、発煙弾を自動的に発射する機能もあります(任意に選択可能)。なお、レーザーを照射された方向に、砲塔を自動的に向けるという機能は付いていません。モニターの左には、車長用照準潜望鏡(パノラミックペリスコープ)の操作部があります。 | |
4 | 砲手席後方から車長席を見た画像です。左の赤いものが、120mm滑腔砲の砲尾です。右の壁は、自動装填装置のある区画と戦闘室を仕切る隔壁です。隔壁は、2〜3cm厚の鋼板製であるように見えます。右の丸い穴は、戦闘室から自動装填装置に給弾するための穴です。弾薬は、戦闘室からでも給弾できることが、この画像から判ります。奥に見える人が車長です。車長用ハッチが開いていることも判ります。 | |
5 | 上の画像と同じアングルで、自動装填装置のアームが迫り出している様子です。DVDの動画を見れば判りますが、自動装填装置による装填は非常に早いものです。 | |
6 | 車長席側から砲手席の後部を見た画像です。右の赤いものが、120mm滑腔砲の砲尾です。左側の黒いものは、自動装填装置の扉です。奥(砲手席の後方左側)には、無線機があります。無線機には、ビニールがかけてありますが理由は判りません。無線機の下には、即用弾の弾薬ラック(3発分)が見えます。 | |
7 | 90式戦車の操縦室前方の画像です。真ん中のバイクのハンドルみたいなものが操向ハンドルです。その上には、速度計と回転計などが付いたパネルがあります。ハンドル右には、ギアセレクタースイッチなどが付いたパネルがあります。右下の黒い箱みたいなものは、車内通話装置(インターコム)の接続箱です。ハンドルの奥、操縦手の足元には、アクセルペダルとブレーキペダルがあります。左側には、計器パネルがあります。 | |
8 | 操縦席左側にある計器パネルのアップです。パネル中にある機器や表示は、雑誌の拙文で解説しています。パネルの手前のレバーは、駐機ブレーキ(パーキングブレーキ)のレバーです。 | |
9 | 操縦手の右側パネルにあるギアセレクター・スイッチのアップです。90式戦車の変速装置は、ロックアップ機構の付いたトルクコンバーターによるオートマチック式です。任意にギアを選択することもできます。変速操作の詳細も、雑誌の拙文をご覧ください。見ての通り、各スイッチには日本語で判り易く説明が書いてあります。右の「ディマ」と書かれたスイッチは、前照灯のハイ・ビーム、ロー・ビームの切替スイッチです。 | |
10 | 操縦手用視察潜望鏡(ペリスコープ)のアップです。潜望鏡は3つあり、そのうちの中央のものです。外に並ぶ戦車や、ペリスコープについているワイパーが見えます。 ペリスコープの左下の機器は、その表示から消火装置のコントロールユニットであることが判ります。 |
2)陸上自衛隊広報センターの90式試作車
陸上自衛隊広報センター(下記URL参照)には、90式戦車の試作車が飾ってあります。
その実物を観察するといろいろなことが判ります。まさに「実物に優る資料は無い」ということです。
・陸上自衛隊広報センター
http://www.eae.jgsdf.go.jp/prcenter/index.html
90式試作車の見るべき部分の一例を下記に示します。
No. | 写真 | 説明 |
1 | 陸上自衛隊広報センターに展示されている90式戦車の試作車です。量産車とは細部が異なりますが、機能は同一のようです。また90式戦車の防御能力を知るには、量産車よりもずっと判り易かったりします。というのは、量産車では複合装甲部にキャンバスが張られていたり、装甲の溶接ビード(溶接線)が研削されて消されたりしているからです。すなわち量産車は、機密上の処置が施されているために判り難くなっているということです。 | |
2 | 90式試作車の車体前部上面の複合装甲モジュールを入れた後に蓋をしたと思しき部分です。量産車では、キャンバスが張られているので、このようにはっきりとは見られません。この蓋を取ると、中に複合装甲モジュール(防弾鋼板製の箱にセラミックを封入したものと推定される)が入っているものと思われます。車体や砲塔の筐体内に複合装甲モジュールを内装させる方式は「内装式」と呼ばれているようです。一方、メルカバMk3以降に見られるような筐体の外側に複合装甲モジュールを設置する方法は、前者と対比するかたちで「外装式」と呼ばれているようです。どちらも被弾後や新型複合装甲への換装を考慮した方式です。外装式の方が、交換は容易なものの重くなる傾向にあります(内装式は、その逆)。ちなみにルクレールは、外装式だと一般に言われていますが、実際は内装式です。詳しくは、グランドパワー誌の拙文(ルクレール解説)をご覧ください。 | |
3 | 90式試作車の上面です。溶接ビード(溶接線)の位置から、砲塔筐体の構造や、装甲厚が推定できます。 | |
4 | 上の写真の車長用ハッチ右側にある砲塔側面装甲のアップです。砲塔の角からすこし入ったところの跡が溶接ビードです。この位置から、側面装甲の厚さが推定できます。 | |
5 | 砲手用ハッチ左側にある砲塔側面装甲のアップです。砲塔の角からすこし入ったところに跡が溶接ビードです。この位置から、側面装甲の厚さが判ります。この位置は、No.1の写真を見て頂ければ判りますが、見学し易いように台が設けられており、定規でも持っていれば、その長さを測ることもできます。 | |
6 | 車体後部の溶接ビードの位置見ると、車体側面装甲の厚さも推定できたりします。厚さは・・・雑誌の記事を見てください(俄かには信じられないかもしれませんが・・・事実です)。 | |
7 | サイドスカートのアップです。定規を持っていれば、サイドスカートの厚さを測ることもできます。サイドスカートは、防弾鋼板製です。 | |
8 | 90式戦車の試作型砲手用照準装置も展示されています。前述の「自衛隊ドキュメント集 Vol.1」のキャプチャ画像と比較すると、試作型と量産型の違いが判ります。違いはいくつかありますが(詳細は雑誌の解説を読んでほしい)、最大のものは試作型ではレーザー検知を表示するランプが付いている点です。 | |
9 | 広報センターの他にも、霞ヶ浦にある武器学校や富士総合火力演習でも、90式戦車が見られます。一応、そこで見られる90式戦車の写真も載せておきます。筆者は、どちらも見学したことがあります。きちんと取材申請すれば、車内を見学させてくれる可能性もあります(ただし、ご時世がらか、最近はすこし厳しくなってるかも・・・)。 | |
10 |
3)防衛庁ホームページで公開されていた制式要綱
防衛庁のホームページでは、以前に90式戦車などの制式要綱を公開していました。
現在では公開は停止され、再開する予定も無いらしいです。
(情報公開制度に則り申請すれば、現在でも見られるとの話も聞きますが)
ただし、インターネットアーカイバーというものがあり、現在でも、その一部を閲覧することができます。
・インターネットアーカイバーによる「技術研究本部検索ページ」
http://web.archive.org/web/20030624014617/jda-clearing.jda.go.jp/kunrei/i_fd/if_mix.html
・インターネットアーカイバーによる「90式戦車(B)制式要綱」
http://web.archive.org/web/20030709200209/jda-clearing.jda.go.jp/kunrei/i_fd/iz1993d9003b.html
この資料、専門用語が多くて、初心者には判りにくいかもしれませんが、
細かく読み解くと、かなりすごいこと(安定精度とか)まで書かれています。
防衛庁が公開を止めた理由も、判ろうというものです。
コアなマニアの方は、この資料を使って自ら読み解くのも一興かと思います。
(初心者の方は、私の雑誌での解説を読めば、比較的容易に理解できると思います)
以上、私が90式戦車の解説を書くにあたり、参考とした資料の一部をご紹介いたしました。
ご参考になれば幸いです。
作成:2006/01/23