熊野三山の牛王宝印を模し、伊勢型紙の技法をヒントに作られた八咫烏=熊野市の紀南ツアーデザインセンターで
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鈴鹿市出身の切り絵作家、蓑虫(みのむし)(本名・村川実)さん(51)が、伊勢型紙の意匠を取り入れた切り絵の組み立てキットを作り、熊野市などで販売している。題材は、日本神話で神武天皇を大和に導いた八咫烏(やたがらす)、台紙は熊野三山のお札「牛王(ごおう)宝印」をイメージしており、熊野と伊勢の文化を融合した紙細工として評判を呼んでいる。
伝統工芸に興味のあった蓑虫さんは大学卒業後、鈴鹿市の伊勢型紙会社に就職。小枝を簔に仕立てるミノムシを「昆虫界の芸術家」とみなし、自ら蓑虫を名乗って創作を始めた。退職後の二〇〇七年、フランス・リヨンの美術館「Vieux Lyon(ヴュー・リヨン)」で世界を代表する二十三人の切り絵作家の一人に選ばれた。昨年七月まで熊野市磯崎町に住み、現在は和歌山県田辺市龍神村で生活する。
三重、和歌山、奈良県南部にまたがる熊野信仰への関心が高く、今年一月から、熊野牛王宝印の独特なデザインにヒントを得て、八咫烏の切り絵細工製品化に乗り出した。
作品は二つ折りで、広げると八咫烏が飛び出すポップアップ式。あらかじめ切り抜かれた紙のパーツを折り曲げ、木工用接着剤で、全長十二センチのカラスに仕上げる。くちばしの透かし模様は伊勢型紙で使われる梅の小紋で、幅二十二センチの金色の台紙には、牛王宝印の「鳥文字」を使ってある。
完成には、一ミリ単位で紙を折り曲げる作業が続き、完成に一時間半以上掛かるなど難易度は高い。蓑虫さんは「紙細工というより、紙のプラモデル。根気の続く人は、ぜひチャレンジを」と話している。
一セット千五百円。熊野市の紀南ツアーデザインセンター、生活雑貨店・木花(このはな)堂、道の駅きのくになどで販売している。商品の問い合わせは、紀南ツアーデザインセンター=電0597(85)2001=へ。
(小柳悠志)
<熊野牛王宝印> 熊野信仰の中核となる熊野本宮、熊野速玉、熊野那智の三大社で授けられるお札。別名・熊野牛王符。八咫烏を文字に見立てた特殊なデザインで、カラスの数と模様は各大社によって異なる。由来は定かではないが、平安時代にはあったとみられる。参詣者がお守りとして入手したほか、武将や遊女らの誓いの紙としても重宝された。
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