
●書籍名/廃炉時代が始まった
●著者/舘野淳
●ページ数/392ページ
●価格/966円(税込)
●発売/2011年8月31日
(初出・1999年11月)
●出版元/リーダーズノート出版
(初出・朝日新聞社)
●ISBN/978-4903722368
2012年6月16日。朝刊を開くと関西電力大飯原発3、4号機の再稼働が決定された記事が目に飛び込んできた。その2日後には、もし原発を廃炉にすると電力会社10社のうち4社が経営破綻するという経産省発表のニュースが大きく取り上げられていた。
電力や経済の事情を理由に原発を再稼働していこうという動きが顕著化している。その一方で、老朽化が話題となり、廃炉とともに「脆性破壊(ぜいせいはかい)」に関する報道も増えている。
廃炉にすれば電力会社が経営破綻するという。しかし老朽化した原発はいずれ廃炉にしなければならない。すでに老朽化した原発が各所にある。あと10年あと10年と使い続け、万一、世界が体験したことのない「脆性破壊」が起これば、それは福島第一原発の事故では済まない、とされる。
そこでだれもが思うことは、「廃炉のことは、これまで何も考えてこなかったのか」ということだろう。中小企業の話ではない。上場企業の、いや国家規模の話だ。そして老朽化や廃炉の課題を、専門家は、きちんと問いただしてこなかったのか?
そんなことはない。本書、『廃炉時代が始まった』は、12年も前に発行されたもので、廃炉を前面に出して執筆された本だった。いまは当社で出版しているが、当初は、朝日新聞社から出たもので、日本全体が推進ムードにあった中、元日本原子力研究所に勤務の舘野淳が「廃炉」の必要性を訴えたものだ。
著者はいわゆる原発反対ではなく、1999年の東海村JOC臨界事故を契機に「抜本的な改革」を訴えたのだった。本書では、異論を排除して開発を推進する産官学の癒着体質や、事故の隠蔽体質にも言及。いわば推進サイドの内側から、反乱を起こした科学者ともいえるだろう。
では、古くなった原子炉が破壊する「脆性破壊」については、12年まえの執筆当時、彼は、本書に、どう記述していたか。
要約すると次のようになる。
原子炉には寿命がある。原発が建設された当初は20年と言われていた。しかし科学的な議論がないまま、部品を交換して40年、60年運用が可能だと「寿命延長」をしようとしてきた。原子炉は、内側から強い中性子を照射されることで照射脆化(ぜいか)が起こり、脆くなっていく。事故の際にECCS(緊急炉心冷却システム)作動により、冷たい水を注入し熱衝撃がかかると、クラック(裂け目)が入り、原子炉が瞬間的に割れる「脆性破壊」の可能性がある。
原子炉の脆さ(もろさ)を推定する「脆性遷移温度(ぜいせいせんいおんど)」。その温度が高くなればなるほど、炉の強度が低くなっていることを示す。舘野は、わが国の基準(JEAC)では、脆性遷移温度が93度を超えたら要注意であるとされてきたことに触れ、「美浜1・2号機」「大飯2号機」そして「玄海1号機」は、(執筆時の1999年から先の)10年間で90度を超える可能性がある、と注意を促していた。
その舘野の上げた4機の原子炉は、2012年2月の読売新聞社調べでも、すべてワースト5に入った。舘野が推測した原子炉のうち、90度を超したのは、ワースト1位の玄海1号だけだが、98度にまで上昇し大きな課題になっている。ワースト2位は、高浜1号機の95度。そして美浜2号機78度、美浜1号機74度、大飯2号機70度と続く。
本書を読んでいまも僕が気になるのは、とりわけ1991年にECCS(緊急炉心冷却システム)を作動させる事故を起こした美浜2号機だ。寿命40年をすでに迎えようとしているこの原子炉の運転を、保安院は、先日(2012年6月7日)、さらに10年延長すると提示した。
あわや重大事故の一歩手前までいった、かつての美浜2号機の事故の様子を読んで、僕は、映画『チャイナ・シンドローム』を思い出さずにはいられなかった。従業員は生きた心地がしなかったろうし、福島第一原発以上の大惨事になっていても不思議ではない。
素人ながらに思う。日本は、廃炉にかかるスキームの確立など、やっかいな問題を先送りにしてきた。その一方で原子炉が、いったい何年持つのか、実はよくわかっていないのではないかと。
だから、寿命を迎えようと、予想外のデータを観測しようと、廃炉に踏み出せず、ひやひやしながらも使い続けるほかないのではないかと。
ならば「廃炉」について、今こそ英知を結集しその道筋をつくるべきである。
本書の185ページで、今から12年前の執筆時に、舘野淳は問いかける。
「原子炉は一体、ECCSの注入に何回耐えられるのだろうか?」
そして、こう結んでいる。
「この問題については、明確な回答が与えられていない」
文・木村浩一郎