ピックアップ@アジア 「天然ガスの時代」2012年06月28日 (木)

石川 一洋  解説委員

今週ロシアのサンクトペテルブルクで開かれた
APECエネルギー担当閣僚会議
指摘されたのは天然ガスの重要性
背景には日本にも影響を及ぼす世界の天然ガスの状況の激変があります。
きょうは脱原発の即戦力として期待を集める
天然ガスについて考えてみます。
 
「天然ガスの時代」

 

吉井)サンクトペテルブルクでのアジア太平洋経済協力会議APECのエネルギー担当閣僚会議ではどのような合意があったのでしょうか

石川)閣僚会議には日本から枝野経済産業大臣が参加し、サンクトペテルブルク宣言が発表されました。アジア太平洋地域は世界の経済成長を牽引していますが、エネルギーの受給が将来大きな問題になり得ます。
特に原油などエネルギーの中東依存を軽減することが大きな課題となっています。
サンクトペテルブルク宣言の中では、アジア太平洋における天然ガスの生産と取引を増やすことが重要だとしています。天然ガスは中東以外でも広く生産され、温室効果ガスの排出も石炭に比べて半分以下で削減にも効果があるからです。
そのために液化天然ガスやパイプラインなどガスインフラの整備への投資が重要だとしています。また会議では日本の枝野大臣とロシアのノバク・エネルギー相がウラジオストク近くに液化天然ガス工場の建設に向けて日ロ両国政府が協力することで覚え書きに調印しました。

枝野「隣国の近い場所で採掘される天然ガスが安定的に日本に供給されることがエネルギーの安全保障の観点からも非常に重要だ」
 
Q)何故日本でも天然ガスに注目が集まり、その課題は何なのでしょうか。

A)東京電力福島第一原子力発電所の事故でこれまでのような原発依存は不可能となり、ほかに代替のエネルギーを求める必要があり、天然ガスが最も現実的だからです。実際天然ガスの輸入は急激に増えました。ただ一方それは日本の貿易収支を大幅に悪化させました。去年は2.6兆円と31年ぶりの赤字となりました。その中で問題となっているのは日本が購入する天然ガス価格の高さです。アメリカの価格よりも6倍以上高い価格となっています。
 
Q)何故日本とアメリカのガスの価格にそんな差が出たのですか?

A)グローバルな商品として世界中で取引される原油とは異なり、空気と同じ気体であるガスはパイプラインで運ぶか、液化天然ガスつまり超低温に冷やして液体化し、特殊なタンカーなどで運ぶか、二つに輸送手段が限られています。そのため世界的な共通の市場というものがなく、世界は北米、ヨーロッパ、アジアという三つの大きな市場に分かれています。
 
Q)それぞれの市場で特徴があるのですか?

A)アジアのガス市場は日本を中心に形成されてきました。ここは特殊タンカーで輸送する液化天然ガスの取引が中心となります。大きな初期投資が必要となるため長期契約が主体でした。価格は原油価格に連動するのが一般的です。
次にヨーロッパ市場はロシアとヨーロッパを結ぶパイプラインを中心としたガス市場ということができます。冷戦時代から始まったソビエト、そしてロシアとのガスの取引です。現在EUがロシアから輸入するガスはEU全体の25%に達しています。ここの価格も原油価格に連動する形ですが、石炭など火力発電所で使われる他の原料の値段も指標として取り入れ、値段が決まる形となっています。
大きく異なるのが北米市場です。アメリカやカナダは天然ガスの大生産国で、域内で生産されるガスを域内で取引するパイプライン網が張り巡らされています。そして価格はパイプラインが集まるアメリカ南西部のヘンリーハブでの取引価格、つまり市場で価格が形成されます。
これまではこのように三つの市場バラバラだったのですが、最近ガスの世界市場形成にもつながる大きな変動が起き始めています。
 
Q)どういうことなのでしょうか

A)一つはこれまでヨーロッパ市場だけだったロシアがアジア太平洋へとの本格的な進出を始めたことです。サハリンからの液化天然ガスの輸出が始まり日本市場の8%も今はロシア産のガスです。ヨーロッパ市場に加えてロシアがアジア市場でも大きなプレーヤーとなってきたのです。
しかしそのロシアの思惑を大きく揺るがす事態がアメリカで始まりました。いわゆるシェールガスなど非在来型のガスの商業生産が本格的に始まったのです。シェールガスの生産が始まる前は、北米は2010年代にはガスを輸入することになると見込まれ、カタールそしてロシアも北米市場を狙ってガス田の開発や液化天然ガス工場の建設を進めていました。
しかしその思惑は完全に外れました。シェールガスの生産開始で世界のガスの埋蔵量はそれまでの二倍に見直されました。このため北米市場の価格が大幅に低下しただけでなく、北米市場を見込んで生産を始めていたカタールなどの大規模な液化天然ガスが行き場を失い、ヨーロッパやアジア市場に流れ込んだのです。長期契約が中心だったヨーロッパ市場、アジア市場でもスポット取引の割合が大きくなり、ガスの値下げ圧力が強まったのです。
 
Q)でも日本の価格は上がっていますよね。

A)一つの理由は日本の契約が原油価格とリンクした長期契約になっていること、そして去年の東京電力福島第一原発事故の後原子力発電所が停止する中でいわば大慌てで代替の燃料として天然ガスを買いあさったため足元を見られ、スポットで買った日本向けの価格が上昇しました。ただ今年の全体の需給バランスを見ますと世界の液化天然ガスは需要を供給が上回っています。今後はますます重要になるガスの購入価格を下げるためにもどのように大量に安く天然ガスを購入するのか日本としても国家戦略が必要となるでしょう。
 
Q)私たちの生活にも直結するのですが、どうしたらよいのでしょうか。

Q)一つは調達先の多様化です。特に北米ではシェールガス由来のガスの購入契約を日本企業の締結が続いており、2015年にはシェールガス由来の液化天然ガスの輸入が始まるでしょう。液化して輸送する費用がかかりますので北米市場の買い取り価格+6ドルと言われていまして、北米市場が5ドルとしても11ドルですので今の日本の輸入価格16~7ドルに比べますと大分安くなります。次に北米市場からの購入を他の産地との交渉で使うことです。たとえばロシアとの交渉です。
 
Q)ロシアは値下げに応じるでしょうか。

A)ウラジオストクの液化天然ガス工場はサハリンそして将来的には東シベリアの天然ガスも入ってくるでしょうが、購入価格がどのくらいになるかがポイントです。ただロシアとしてもヨーロッパ市場の成長が見込めない。そうしますとアジア、特に日本市場の重要性は増しています。日本にとっても北米に比べても圧倒的に近いということはロシアの大きな魅力です。生産国はできるだけ高く、消費国はできるだけ安く購入したいわけですが、需要供給双方の側の利益を保証する価格というのはおのずと導かれてくるでしょう。
その際、重要なのは日本国内の天然ガスパイプラインの整備です。今は日本国内のLNG基地がバラバラに存在しています。日本国内のパイプライン網を整備して消費地同士がガスを融通できるようになれば、共同購入もしやすくなるでしょうし、ロシアとの価格交渉でも消費地としての強みを増すことになります。
また今は、日本はすべて液化天然ガスで購入していますが、将来的にはロシアと日本をパイプラインでつなぎ、パイプラインで購入するというオプションを持つことも戦略として考えるべきでしょう。初期投資はかかりますが、液化天然ガスよりもパイプラインの方が価格は安くなるからです。
また日本としてはアジアのエネルギー輸入国との連携、とくに日本に次ぐ液化天然ガスの輸入国、韓国と連携することです。韓国との間でエネルギー対話を深め、場合によってはロシアなどからの共同購入を考えても良いかもしれません。