WEB特集
「アノニマス」サイバー攻撃の背景
6月27日 21時20分
26日から27日にかけて、国際的なハッカーグループ「アノニマス」によって行われた日本へのサイバー攻撃。
財務省や裁判所のサイトが相次いで攻撃を受け、内容が書き換えられるなどの被害が出ました。
一連のサイバー攻撃の背景について、科学文化部の安井俊樹記者が解説します。
相次いだサイバー攻撃
①財務省
今回の一連のサイバー攻撃が最初に確認されたのは、26日昼ごろです。
財務省のサイトが外部から不正にアクセスされ、一部のページの内容が書き換えられていることが分かりました。
書き換えられたページには、海外で行われたデモの写真に、大飯原発運転再開の反対を訴える文字が合成されたものが掲載され、国際的なハッカーグループ、「アノニマス」の名前で犯行声明が書き込まれていました。
②裁判所
また、夜になって今度は最高裁判所が運用しているサイトがサイバー攻撃を受けました。
アノニマスが今回の日本へのサイバー攻撃のために使っているツイッターのアカウントで、午後7時51分に裁判所のサイトへの攻撃を始める内容のツイートをしており、また、およそ1時間後の午後8時47分には、標的を倒したことを意味する“TANGODOWN”というツイートが確認されています。
裁判所のサイトは、この時間帯からおよそ1時間にわたって、つながりにくい状態が続きました。
③民主党・自民党のサイトも
裁判所へのサイバー攻撃を宣言したアノニマスのツイッターアカウントは、このほかにも民主党や自民党のサイトへの攻撃を呼びかけ、これらのサイトも一時つながりにくい状態になりました。
このほか、関東地方整備局霞ヶ浦河川事務所のホームページも一部が改ざんされる被害が出ました。
攻撃を予告
一連のサイバー攻撃はなぜ起きたのでしょうか?
アノニマスは、25日、インターネットで攻撃を予告していました。
攻撃の理由について、アノニマスは日本の参議院本会議で違法なダウンロードへの罰則を盛り込んだ改正著作権法が可決・成立したことに対する抗議だとしています。
アノニマスのねらい
なぜ、アノニマスは日本の著作権法を問題にするのでしょうか。
そもそも「アノニマス」は、「ハッカー」と呼ばれる一部のコンピューターのマニアなどがインターネット上の掲示板などを通じて緩やかにつながっている集団です。
「アノニマス」は、英語で「匿名の」を意味する形容詞で、活動には世界各地のハッカーが参加しているとみられていますが、詳しい実態は分かっていません。
アノニマスが強く主張しているのは、インターネットに関わる規制への反対です。
これまでも規制の強化に抗議して、各国の政府や企業のホームページにサイバー攻撃を繰り返してきました。
また、アラブ諸国などでの検閲といった言論統制に反対する活動も行っています。
今回、日本の著作権法の改正に抗議をしたのも、こうしたアノニマスの主張に基づいた抗議活動の一環であると考えられます。
“祭り”の問題
今回、アノニマスが行ったサイバー攻撃では、複数のコンピューターから標的のサーバーにアクセスを集中させて、つながりにくくさせるなどの障害を発生させる「DOS攻撃」が主に行われたとみられています。
これはアノニマスがよく使う手法の一つとされますが、電子計算機損壊等業務妨害罪という犯罪になる行為です。
アノニマスは、インターネットで「仲間」を増やすことで、サイバー攻撃をより「効果的に」行おうとします。
アノニマスは、新約聖書に登場する悪霊の名前をとって、自分たちを“Legion(大勢)”と称していて、その名のとおり、大勢のインターネットユーザーを自分たちの攻撃に参加させます。
こうしたネットで広がった行動は“祭り”と呼ばれる状態となります。
自分もアノニマスだと思う者、アノニマスの思想に共感する者、愉快犯的に攻撃に参加する者を巻き込んで、大きな騒ぎになるのです。
今回の一連のサイバー攻撃では、今のところ、幸い大きな被害が出るには至っていませんが、誤った標的にサイバー攻撃を仕掛けたとみられる例や、騒ぎに便乗して、さまざまな組織に攻撃をそそのかす動きも見られました。
“サイトの重要性見極めた対策を”
サイバー攻撃について詳しい慶応義塾大学の武田圭史教授は、今後の対策について「すべてのサイバー攻撃を防ぐことは難しく、停止してはいけないサイトなのかどうかなど重要性を見極めたうえで、重点的に対策を取ることが大切だ。攻撃対象として名前が挙げられている政府機関や著作権関係団体などは、サイトにセキュリティー上の穴がないかなど再点検することが必要だ」と話しています。