大学教員と博士後期課程学生の研究時間減少と論文の質低下
しばらく前に、こんな記事が出ていましたが、「またか」という感じでスルーしていました。
日本の論文、「質」9位に転落(朝日コム)
この記事の最後に、この「指標」を出している会社の方のコメントが出ています。
大学教員:研究時間、6年前より2割減 講演、学生指導…「社会還元」に時間割き(毎日jp)
最後の「『社会還元』に時間割き」というところは、文科省は「講演や審議会出席などの社会貢献や、学生の指導に割く時間が増えたためだ」と言っているようですが、上の記事と対比させて読むとおもしろいコメントも出しております。
「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査 報告書」について
概要を読むだけでも十分だと思います。記事では教員の研究にかける時間が10%減っていることとか博士課程大学院生の研究時間が5%減っているとか書かれていますが、資料で生の時間を見ると結構衝撃的です。
2007年と2001年の研究時間が教授・助教授で200-300時間減っています。しかも、いずれも総労働時間が100時間ほど増えています。講師や助教ではちょっと傾向が違うようです。また、研究時間が減った分は教育活動に当てられているように見えますが、研究教育以外の「その他」が増えた分がすべての労働時間の超過分で補われているところに問題が潜んでいるようにも思えます。
こちらは、博士後期課程在学者の「労働時間(総職務時間)」です。
また、博士後期課程の学生でも理学系だと、自分の研究にあてる時間が約300時間減っています。こちらも総労働時間が100時間ほど増えています。
まあ、このデータだけを見てすぐに結論を下したり、ではどうすれば良いのかというアイディアがわいてくるわけではありませんが、論文生産に大きく関わっている教授・助教授・博士後期課程学生が置かれた状況と、最初の記事に関係がないわけではなさそうだとは感じられます。(ポスドクのデータがないのは不満ですが・・・。)
いずれにしても、グッド・ニュースではありませんね。
日本の論文、「質」9位に転落(朝日コム)
日本の科学系論文の質の向上が最近10年間頭打ちで、質を示す指標は4位から9位まで落ちたことが学術情報会社「エルゼビア・ジャパン」の調査で分かった。論文の数も2位から5位に転落した。この指標の意味するところがはっきりしませんので、踊らされたくはないと思うのですが、その指標で比較する限り日本が9位に落ちて、後ろに控える「中国は10位のままだが、指標は0.182から0.400に急上昇し、日本に迫っている」ということは言えます。
この記事の最後に、この「指標」を出している会社の方のコメントが出ています。
エルゼビア・ジャパンの三木律子代表取締役は「論文の質の向上には数の増加が必要だが、日本では増えていない。国立大学の法人化で研究者が雑務に追われ、研究時間が減ったことが影響しているのではないか」と話している。まあ、そういうこともあるかもしれないと思っていたら、文科省から衝撃的なデータが発表になりました。
大学教員:研究時間、6年前より2割減 講演、学生指導…「社会還元」に時間割き(毎日jp)
最後の「『社会還元』に時間割き」というところは、文科省は「講演や審議会出席などの社会貢献や、学生の指導に割く時間が増えたためだ」と言っているようですが、上の記事と対比させて読むとおもしろいコメントも出しております。
文部科学省の佐藤明生・調査調整課長は「研究時間が減少したからといって、論文発表数などの成果が著しく下がったというわけではなく、一概に可否は言えない」と話した。私はこの文科省の危機感のなさに、もっとも恐怖を覚えました。
その結果、大学教員では前回調査の01年度には勤務時間の46・5%を自分の研究にあてていたが、今回は36・2%に減っていた。教育や社会貢献にかける時間は2~3割増えた。と記事に書かれているところを、文科省の生データで見てみると、かなり深刻な事態になっていると感じられます。
博士課程在籍者でも自分の研究にあてる時間の割合が、前回の70・9%から65・9%に減った。
「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査 報告書」について
概要を読むだけでも十分だと思います。記事では教員の研究にかける時間が10%減っていることとか博士課程大学院生の研究時間が5%減っているとか書かれていますが、資料で生の時間を見ると結構衝撃的です。
2007年と2001年の研究時間が教授・助教授で200-300時間減っています。しかも、いずれも総労働時間が100時間ほど増えています。講師や助教ではちょっと傾向が違うようです。また、研究時間が減った分は教育活動に当てられているように見えますが、研究教育以外の「その他」が増えた分がすべての労働時間の超過分で補われているところに問題が潜んでいるようにも思えます。
こちらは、博士後期課程在学者の「労働時間(総職務時間)」です。
また、博士後期課程の学生でも理学系だと、自分の研究にあてる時間が約300時間減っています。こちらも総労働時間が100時間ほど増えています。
まあ、このデータだけを見てすぐに結論を下したり、ではどうすれば良いのかというアイディアがわいてくるわけではありませんが、論文生産に大きく関わっている教授・助教授・博士後期課程学生が置かれた状況と、最初の記事に関係がないわけではなさそうだとは感じられます。(ポスドクのデータがないのは不満ですが・・・。)
いずれにしても、グッド・ニュースではありませんね。
Commented by ゑぶ at 2009-09-15 23:34 x
平成21年度補正予算では、文部科学省は、「教育研究高度化のための支援体制整備事業」として大学教員や博士課程学生が教育研究に専念できるよう教育研究支援者などを雇用する予算を措置しました。
ttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/07/1282273.htm
すでに選考までおこなれていますが、民主党は、21年度補正予算の執行停止を政府に申し入れしています。この事業はどうなっているんでしょうね。研究現場でも、政権交代により悪影響を受けなければいいのですが。
ttp://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/07/1282273.htm
すでに選考までおこなれていますが、民主党は、21年度補正予算の執行停止を政府に申し入れしています。この事業はどうなっているんでしょうね。研究現場でも、政権交代により悪影響を受けなければいいのですが。
正直、上記のような方策は付け焼き刃的ではないかという気がします。それより、もっと根本的な改善策があるかと思います。まず、現在大学研究者に課せられている膨大なペーパーワークからの解放です。たとえば研究者にとって大きな負担となっている自己点検・評価のプロセスをどうにかすることが考えられます。さらに、日本の研究者の時間を毎年食いつぶしている入試制度をどうにかして効率化することが急務となっていると思います。日本の研究力は入試制度の非効率性によってかなりダウンしていると思われます(アメリカなどでは教員は学部入試にタッチしていないことが普通です。入試に関わる時間を研究にまわせたらどんなに良いことか!)。選ばれた少数のプロジェクトにちょっと予算を出すぐらいじゃ、焼け石に水かと思います。
また、文科省がお金を出すなら、院生支援の形をつくるのが、日本の研究の将来を考える上で重要でしょう。院生が学部教育に関わってその見返りに給金をもらうという制度を作ることを奨励すれば、院進学を志す人も増えるのではないでしょうか。とにかく、コンビニやら塾やらでバイトしながら院に行くというようなことはアメリカの一流校なら考えられないことです。
また、文科省がお金を出すなら、院生支援の形をつくるのが、日本の研究の将来を考える上で重要でしょう。院生が学部教育に関わってその見返りに給金をもらうという制度を作ることを奨励すれば、院進学を志す人も増えるのではないでしょうか。とにかく、コンビニやら塾やらでバイトしながら院に行くというようなことはアメリカの一流校なら考えられないことです。
Commented by ぷらなりあ at 2009-09-16 00:37 x
はじめまして。
大学(特に国公立)の多くが研究大学を志向しているのがそもそもの間違いで、研究は東大・京大中心に数大学+理研、産総研などの旧国研に任せればいいのでは?研究者を目指すPDのキャリアパスも明確になる思います。
現状、上記の大学も含め、研究能力の低い教員は、教育を言い訳に、教育の手を抜くものは研究を言い訳にといった悪循環ですし、人事の流動化も機能していないですし。(教育大学なら、流動化は不要ですよね)
大学(特に国公立)の多くが研究大学を志向しているのがそもそもの間違いで、研究は東大・京大中心に数大学+理研、産総研などの旧国研に任せればいいのでは?研究者を目指すPDのキャリアパスも明確になる思います。
現状、上記の大学も含め、研究能力の低い教員は、教育を言い訳に、教育の手を抜くものは研究を言い訳にといった悪循環ですし、人事の流動化も機能していないですし。(教育大学なら、流動化は不要ですよね)
Commented by OneWord at 2009-09-16 00:54 x
>研究は東大・京大中心に数大学+理研、産総研などの旧国研に任せればいいのでは?
そのためには、まず公正な人事採用がないと無理でしょう。
そのためには、まず公正な人事採用がないと無理でしょう。
Commented by ぷらなりあ at 2009-09-16 01:30 x
おっしゃるとおり。
結局、そこですね。
結局、そこですね。
Commented by 通りすがり。。 at 2009-09-16 01:32 x
> 大学(特に国公立)の多くが研究大学を志向しているのがそもそも
> の間違いで、研究は東大・京大中心に数大学+理研、産総研など
> の旧国研に任せればいいのでは?
この考え方で、予算配分した結果が、このブログの研究統計でしょう。私は、”東大、京大+数大学、理研、産総研”の内の一つで、PIをしてます。
これらの機関だけでは、PIの数は、大目に見ても3万人以下です。地方国立やその他の国研も加えて、10万人程度でしょう。
一方、米国のPIは、少なく見積もって、20-30万人います。日本で3万人以下のPIに重点投資しても、米国には勝てません。
大学名で研究予算を傾斜配分する現方式を徹底すると、PIとして地方に出るより、大ボスの下で、ポスドクをする方が良いことになります。その結果、研究の多様性を狭めます。米国時代、”日本の(大人数の)ラボは、工場の様だ。あんな研究室の出身者をポスドクで採用して大丈夫か”と聞かれたことがあります。
研究に関しては、広く浅く、基盤的経費を配算し、その上に競争的予算をのせる方が良いと思います。
> の間違いで、研究は東大・京大中心に数大学+理研、産総研など
> の旧国研に任せればいいのでは?
この考え方で、予算配分した結果が、このブログの研究統計でしょう。私は、”東大、京大+数大学、理研、産総研”の内の一つで、PIをしてます。
これらの機関だけでは、PIの数は、大目に見ても3万人以下です。地方国立やその他の国研も加えて、10万人程度でしょう。
一方、米国のPIは、少なく見積もって、20-30万人います。日本で3万人以下のPIに重点投資しても、米国には勝てません。
大学名で研究予算を傾斜配分する現方式を徹底すると、PIとして地方に出るより、大ボスの下で、ポスドクをする方が良いことになります。その結果、研究の多様性を狭めます。米国時代、”日本の(大人数の)ラボは、工場の様だ。あんな研究室の出身者をポスドクで採用して大丈夫か”と聞かれたことがあります。
研究に関しては、広く浅く、基盤的経費を配算し、その上に競争的予算をのせる方が良いと思います。
Commented by 通りすがり。。 at 2009-09-16 01:53 x
> 公正な人事採用がないと...
わたし自身、公募だけで、国内外4機関を渡り歩きました。ひと昔まえに比べ、随分、公募もマシになったと思います。コネは1度たりとも有りません。
人事に比べ、予算の恣意的な配分は、強く残っています。こちらの方が問題です。
わたし自身、公募だけで、国内外4機関を渡り歩きました。ひと昔まえに比べ、随分、公募もマシになったと思います。コネは1度たりとも有りません。
人事に比べ、予算の恣意的な配分は、強く残っています。こちらの方が問題です。
Commented by ぷらなりあ at 2009-09-16 03:13 x
> この考え方で、予算配分した結果が、このブログの研究統計でしょう。
そうでしょうか?このような考え方を徹底できていないのに、予算を傾斜配分した結果が、この統計なのではないですか?特定の大ボスのグループに(プロジェクト予算の様に)傾斜配分することと、大学・研究所を機能別に分けることは全く別です。基礎研究に広く薄く分布することは、研究大学内でのそういった専攻や研究室やればよい。
> 大学名で研究予算を傾斜配分する現方式を徹底すると・・・
研究者としてのPI数を増やす必要があるのなら、先にあげたような機関でそのポストを増やせばすむことです。彼らは教育関連業務の負担が他の教育大学に比べ格段に軽くなるわけですから、広く薄く分配されている分野でも、腰をすえた研究ができると思います。今のように、研究能力の高い助教や准教授が、地方にPIに行く方が、教育や地場産業の人材育成の労力(これは特に地方国立大では必要なものです)と研究の両立を迫られることは長い眼で見て損失です。
そうでしょうか?このような考え方を徹底できていないのに、予算を傾斜配分した結果が、この統計なのではないですか?特定の大ボスのグループに(プロジェクト予算の様に)傾斜配分することと、大学・研究所を機能別に分けることは全く別です。基礎研究に広く薄く分布することは、研究大学内でのそういった専攻や研究室やればよい。
> 大学名で研究予算を傾斜配分する現方式を徹底すると・・・
研究者としてのPI数を増やす必要があるのなら、先にあげたような機関でそのポストを増やせばすむことです。彼らは教育関連業務の負担が他の教育大学に比べ格段に軽くなるわけですから、広く薄く分配されている分野でも、腰をすえた研究ができると思います。今のように、研究能力の高い助教や准教授が、地方にPIに行く方が、教育や地場産業の人材育成の労力(これは特に地方国立大では必要なものです)と研究の両立を迫られることは長い眼で見て損失です。
Commented by 失礼ながら at 2009-09-16 09:24 x
>ひと昔まえに比べ、随分、公募もマシになったと思います。
どう考えてもコネで採用されたのに実力で入ったといっている人は多いので、自己申告はあてになりませんね。
どう考えてもコネで採用されたのに実力で入ったといっている人は多いので、自己申告はあてになりませんね。
Commented by あのう at 2009-09-16 09:51 x
論文だけで大学の価値って図れるんですかね。うまく欧米にコントロールされてるような気がするんですが。
Commented by JJ at 2009-09-16 12:50 x
英米が情報を支配する、金融と同じ構造ですね
Commented by 鶏肋 at 2009-09-16 22:48 x
若手研究者の減少と研究の質の低下については、少し前のNature Editorialの記事でも取り上げられていましたね。
"Japan's tipping point"
ttp://www.nature.com/nature/journal/v460/n7252/full/460151a.html
2700億円の使い道についても幾分か批判的に言及されています。
"Japan's tipping point"
ttp://www.nature.com/nature/journal/v460/n7252/full/460151a.html
2700億円の使い道についても幾分か批判的に言及されています。
Commented by min at 2009-09-16 22:57 x
むしろ30%以上もの時間を研究に割ける人がいるのか!という感想です。
私も大学教員をしていますが、上記のアンケートが来たときに、自分の研究へ充てるエフォートを計算してみて愕然としました。私のエフォートはなんと5%でした。現在の大学は異常ですね。
私も大学教員をしていますが、上記のアンケートが来たときに、自分の研究へ充てるエフォートを計算してみて愕然としました。私のエフォートはなんと5%でした。現在の大学は異常ですね。
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