2012年04月03日 (火)

【解説】放射性物質の新しい基準はどの程度厳しいのか?

K10041399311_1204021218_1204021233_01.jpg

食品に含まれる放射性セシウムの基準が、新年度から1キログラム当たり100ベクレルなどと大幅に厳しくなりました・・というニュースをお伝えすると、「『厳しくなった』というが、海外に比べると甘いのではないか」といったご質問をいただきます。東電福島第一原発の事故後、1年あまりたって導入された新たな基準は果たしてどの程度厳しいのか、科学文化部・稲垣雄也記者が解説します。

 

【新しい基準の“根拠”は?】

食品に含まれる放射性セシウムの新しい基準は食品からの被ばくを最大でも1ミリシーベルトに抑えることを前提に作られました。福島第一原発の事故のあと、緊急時の対応として設けられた暫定基準値が上限とした被曝量が5ミリシーベルトですから、その5分の1です。

0402_02_nomal.jpg

新しい基準では食品を4つの区分にわけました。

▼野菜や米などの「一般食品」と

▼子どもが飲む量が多い「牛乳」と、

▼摂取量が多い「飲料水」、

そして新たに▼大人よりも放射線の影響を受けやすいとされる乳児向けの区分を設けました。

そして食糧の自給率を考慮しながら、摂取する食品の半分が汚染されていたという想定で1年間の被ばくを年齢などで分けて試算したのです。

その結果、食べる量が最も多い13歳から18歳の男性は最大で年間0.8ミリシーベルトになる計算でした。

次いで多かったのが19歳以上の男性で0.78ミリシーベルト

13歳から18歳の女性で0.68ミリシーベルトでした。

食べる量が少ない0歳から6歳の乳幼児では0.35ミリシーベルト前後になる計算でした。

 

【海外と比べると厳しいの?】

この新基準を海外の基準と比較すると、例えばアメリカとEUでは、いずれも食品一般でそれぞれ1200ベクレルと1250ベクレルとなっています。原子力事故などの当事国ではなく、流通する食品全体に占める汚染の割合を小さく見積もっているため(日本の50%に対し、アメリカは30%、EUは10%)、高い数値となっているのです。

 

一方、チェルノブイリ原発事故の影響を受けたベラルーシでは、

▽飲料水が10ベクレル、(日本と同じ)

▽パンが40ベクレル、(日本は一般食品なので100)

▽ジャガイモが80ベクレル、(同上。日本は一般食品なので100)

▽牛乳や乳製品が100ベクレル(日本は50)

など、食品ごとに基準が設けられています。

ちなみにベラルーシは、事故後、徐々に基準を厳しくして現在の数値になっているという経緯があります。

一方で、食品を通じて体内に取り込まれた放射性セシウムがその後どうなるかですが、全身の筋肉に散らばり、その後、およそ100日で半分、300日で90パーセント以上が体の外に排出されるということです。ただ、99パーセント以上排出されるまでには2年近くかかると考えられています。

 

科学文化部・稲垣雄也

------------------------------------------------------------

[追記 2012/4/10]
 

 みなさんからいただいたご質問やご要望を踏まえまして、記事に追記させていただきます。

●まず「記事の例は一度に汚染物質を取り込んでその後、摂取しない場合のことだが、日本の食品からの内部被曝の現状では減っていかずに蓄積していくのでは」というご質問をいただきました。
 記事にあるのは、放射性セシウムを一度に取り込んだケースを想定しています。被ばく医療の専門家などによりますと毎日一定量の放射性セシウムを食品を通じて取り込み続けた場合、初めのころは取り込む量が排出される量を上回るので体内に蓄積する量は増え続けるということです。その後、時間の経過とともに排出量も増えてくるので、ある時期に両者が等しくなり、それ以降は体内の蓄積量は変化しなくなるとされています。
 ICRPの試算では、例えば食品を通じて毎日10ベクレルを取り込み続けた場合、体内の蓄積量は500日後には1400ベクレルを超え、その後はほぼ一定の量を保つとしています。
 複数の専門家によれば一定のレベルに達したあと汚染された食品を全くとらなくなった場合、その後は記事でお伝えした「およそ100日で半分」というよりも早いスピードで減っていく可能性が高いということです。理由は体内に蓄積している放射性セシウムの中には取り込んでからかなり時間が経過しているものも含まれるため、一度に取り込んだ場合に比べて排出が早まると考えられるからです。

●続いて、
>アメリカやEUの基準を持ち出すのであれば、今現在アメリカやEUで福島や近隣県の食品が輸入停止になっていることもしっかり伝えてほしいです。

 アメリカやEUでは、原子力発電所の事故などを想定してそれぞれ一般食品の基準を定めています。アメリカでは日本の食品に対する特別な基準は設けず、日本で出荷停止になったものなどを対象に産地と品目を指定して輸入規制を行っています。一方EUでは、一般食品に対する基準とは別に、日本からの輸入食品に対して例外的に別の基準を設けて規制をしています(日本の新基準をそのまま適用)。その他の国の対応については、下記農林水産省の資料をご覧ください。
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/hukushima_kakukokukensa.html

(ページの一番上のリンク「諸外国・地域の規制措置」をクリック)



>3日ほど前のNHKニュースで「日本の基準はアメリカとEUの値より厳しい」という説明をしていましたが、汚染された食べ物が日常的に流通していないそれらの国と、日本のように多くの食べ物が汚染された国を、単純に比べるのは誤解を招きます。実際、こうしたニュースを見た多くの人が、「欧米より厳しい基準なのだから食べ物に注意する必要はない」と考えてしまっています。この問題は以前からNHKさんに対して指摘されていると思いますが、ずっと改善されていないのはどうしてなのでしょうか。欧米の基準値は核戦争等に「備えた」数値であることを明示するか、あるいは、比較例として出さないようにしてください。

 お答えします。アメリカとEUの基準はいずれもチェルノブイリ原発の事故をきっかけに設けられました。これらは日本にとってもっとも身近な国(地域)のひとつであるため言及したものです。また、同じ事故当事国としてベラルーシの例も引用しています。ブログではさらに、「原子力事故などの当事国ではなく、流通する食品全体に占める汚染の割合を小さく見積もっているため(日本の50%に対し、アメリカは30%、EUは10%)、高い数値となっているのです。」という解説を加えました。



>ベラルーシの現行基準で、乾燥キノコ(2500Bq/kg)、生キノコ(370Bq/kg)、牛肉 (500Bq/kg)という、日本よりはるかに高い数値があえて紹介されていないのはなぜで>しょう。現在日本で高濃度のセシウムが検出されているのがキノコ、牛肉なので、これを外しているのはおかしいと思うのですが。あえて外されたのであれば理由をお聞かせください。

ベラルーシでは国民の消費量が多い食品の値を低く、少ないものは比較的高い値になっていて、現在の基準は日本と同じくすべての食品で年間1ミリシーベルトを超えないように設定されています。記事では、比較するために日本でも摂取量が多い食品を中心に取り上げました。



>検査体制のほうは万全なのでしょうか?基準をいくつにしても、検査に漏れがあっては意味がありません。これまで何度も基準を超えたものが市場に出回り人の口にはいりましたよね。

 ご指摘の通り、基本的にはサンプル検査なので、基準を超えた食品が検査をすり抜けて市場に出回る可能性はあります。それを防ぐには市場に出回るすべての食品を1つ1つ検査する必要がありますが、現在の検査法では莫大な費用と時間がかかります。検査を行うことによって避けられる被ばくと、検査を行うことでかかるコストや時間を比較して検査の頻度を決めていますが、どの程度行うべきなのかというのは難しい問題です。



>ベラルーシが徐々に基準を厳しくしていった理由はなんですか?
>“根拠は?”の部分、冒頭部分一番重要な根拠が書いてないように思ったのですが。そもそも5ミリの根拠はなんだったのでしたっけ?そして一年経って1ミリに引き下げた根拠は?

ベラルーシの基準は、事故当初は非常に高い値になっていました。これは、基準を低くしてしまうと食べるものがなくなってしまうからです。事故当初、旧ソ連時代の86年の基準は内部被ばくの実効線量で50mSv。87年からは8mSvとされました。その後、ベラルーシ共和国として独立した後に定めた法律では92年に1mSvとされました。基準の引き下げは事故の収束を受けて、国民の生活に与える影響を考慮しながら段階的に行われました。

日本の暫定基準値の放射性セシウムの5ミリシーベルトの根拠は、ICRP(国際放射線防護委員会)やIAEA(国際原子力機関)が緊急時に食品の出荷制限などの措置をとるべき目安の線量として示していた、5~50ミリシーベルトという値の下限を参考に設定されました。また、新しい基準の1ミリシーベルトの根拠は、ICRPが勧告している一般の人の被ばく限度が元になっています。

 

科学文化部・稲垣雄也

 

投稿者:かぶん |  投稿時間:21:33  | カテゴリ:ニュース解説
コメント(15) | トラックバック (0)

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。


トラックバック

■この記事へのトラックバック一覧

※トラックバックはありません

コメント(15)

>食品を通じて体内に取り込まれた放射性セシウムがその後どうなるか

書かれている例は、一度に汚染物質を取り込んでその後、摂取しない場合のことではないでしょうか。

しかし、日本の食品からの内部被曝の現状は、微量であれ、汚染リスク高い産品を食べ続けている方がたくさんいらっしゃいますね。
このような場合は減っていかずに、蓄積していくのでは。

ご存知かと思いますが、ICRP勧告より
「1000Bqの137Csを一時的に摂取した場合と、毎日1Bq及び10Bqの137Csをそれぞれ1000日間にわたって摂取した場合の全身放射能の変化を示す。図2.2」
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/db/196e3119372ca6c5331172607032533e.jpg

投稿日時:2012年04月04日 00:27 | かぶんフォロワー

政府は小沢に操られている。

ガレキの広域処理など
野田には土建屋の人脈はない。

NHKは被爆者を増やす報道ばかりやってないで
権力を見はれ。

それが公共放送の役割だ。

できないなら受信料を払わなくて済む方法を広める。

投稿日時:2012年04月04日 04:39 | sheltem

それで、結論は?

投稿日時:2012年04月04日 07:07 | 神野

アメリカやEUの基準を持ち出すのであれば、今現在アメリカやEUで福島や近隣県の食品が輸入停止になっていることもしっかり伝えてほしいです。あたかも、日本はしっかり厳しい基準で守られているような印象を与えるのではないでしょうか?アメリカやEUでは出荷停止になっている食材が普通にスーパーで売られているのが日本の現状です。また、排出についても私たちは1度だけセシウムを摂取し、その後清浄な食事を続ける訳ではありません。日々、微量に摂取し続けるのです。摂取し続けた場合、体にどれ程蓄積されるかが私たちの知りたい情報です。よろしくお願いします。

投稿日時:2012年04月04日 13:21 | mama_jp

3日ほど前のNHKニュースで「日本の基準はアメリカとEUの値より厳しい」という説明をしていましたが、汚染された食べ物が日常的に流通していないそれらの国と、日本のように多くの食べ物が汚染された国を、単純に比べるのは誤解を招きます。実際、こうしたニュースを見た多くの人が、「欧米より厳しい基準なのだから食べ物に注意する必要はない」と考えてしまっています。この問題は以前からNHKさんに対して指摘されていると思いますが、ずっと改善されていないのはどうしてなのでしょうか。欧米の基準値は核戦争等に「備えた」数値であることを明示するか、あるいは、比較例として出さないようにしてください。

投稿日時:2012年04月04日 15:06 | 合原弘子

 ベラルーシの現行基準で、乾燥キノコ(2500Bq/kg)、生キノコ(370Bq/kg)、牛肉(500Bq/kg)という、日本よりはるかに高い数値があえて紹介されていないのはなぜでしょう。
 現在日本で高濃度のセシウムが検出されているのがキノコ、牛肉なので、これを外しているのはおかしいと思うのですが。
 あえて外されたのであれば理由をお聞かせください。

投稿日時:2012年04月05日 11:14 | 中村 マサオ

検査体制のほうは万全なのでしょうか?基準をいくつにしても、検査に漏れがあっては意味がありません。これまで何度も基準を超えたものが市場に出回り人の口にはいりましたよね。そのあたりももう一度詳しく知りたいです。
また、ベラルーシが徐々に基準を厳しくしていった理由はなんですか?

ところで、“根拠は?”の部分、冒頭部分一番重要な根拠が書いてないように思ったのですが。そもそも5ミリの根拠はなんだったのでしたっけ?そして一年経って1ミリに引き下げた根拠は?
さっそく新基準値を超えたものが出ています。100は超えていましたが、500は下回っていた、つまり数日前までなら“安全”として食卓にのぼっていた。5ミリ1ミリの根拠とかかわるところですが、昨年度一年間、安全といい続けてきたことについても、もう一度説明がほしいところです。

投稿日時:2012年04月05日 23:04 | nuit

EUの基準は大人が600ベクレル子供乳幼児が370ベクレルです。昨年フクシマ直後に1250に引き上げましたが、日本が厳しい規制値だったので、すぐに引き下げました。日本からの輸入品についてだけは日本の規制値が使われています。EUはチェルノビルの際、非常に汚染され、今でもいのししやきのこからは日本の新基準値では流通されない数値のものが流通しています。チェルノビル当時も日本ほど厳しく検査されてなかったと記憶しています。ドイツの牛乳や粉ミルクの汚染は当時、大問題でした。1986年に流通していた牛乳は平均でセシウムが50ベクレルだったのですから、もっと高いものが流通していたわけです。ウクライナだけでなく当時のEU、東欧の汚染状態も比較して報道してください。個人的にはEUも日本のように厳しく検査してもらいたいと思っています。フクシマ以後、ヨーロッパの東の国からの食品(特に野きのこ)を食べるときには、汚染されているんだろうな、と思うことが多くなりました。

投稿日時:2012年04月09日 21:22 | ドイツより

ECRRの基準値について、述べられていない。
セシウム以外の核種について、述べられていない。
また、セシウムによる具体的健康被害について、述べられていない。

投稿日時:2012年04月11日 14:57 | 匿名

4月4日のかぶんフォロワーさんからのご質問、
「記事の例は一度に汚染物質を取り込んでその後、摂取しない場合のことだが、
日本の食品からの内部被曝の現状では減っていかずに蓄積していくのでは」
に対するお答えで稲垣さんは、

複数の専門家によれば一定のレベルに達したあと汚染された食品を全くとらなくなった場合、その後は記事でお伝えした「およそ100日で半分」というよりも早いスピードで減っていく可能性が高いということです、
とお答えになっておられますね。

では、肝の「汚染された食品を全くとらなくなった場合」
をどの様に確保すればよいのか、良案はありますでしょうか?
放射能を抜く調理法などもありますが、限界があると思うのです。
いかがお考えでしょうか。


私はひとつひとつ課題を潰していくしかないと思います。
例えば、広域処理によるセシウムの気化拡散の可能性も否定できない以上、
環境省の安全基準を鵜呑みにせず、
バグフィルタだけではなく、スクラバ・湿式洗煙塔等の設備の組み合わせ技術の有効性や、
日本全国の焼却炉のスペックを新旧洗い出し、
どの設備なら大丈夫そうか、あるいは無理そうか、
なるべく排気に拡散しない方法は何かを科学的視点で追及する。
あるいはこういう技術を取材するとか。
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20120309152920548

ところで昨年末以降に、
福島県大熊町その他で放射能対策の焼却炉、
たしか真空状態で焼却するというような特殊な焼却炉の研究についての一報がありましたね。
あれはどうなったのですか?
NHKのHPからも消えたと思いますが、失敗だったのですか?

国営放送というシステムに足る取材活動をお願いしたい。

投稿日時:2012年04月12日 02:43 | 高見沢逸郎

農水省のPDFがリンク切れしています…

投稿日時:2012年04月12日 16:43 | 岡田

NHKはやっぱし政府の広報担当協会なんですかね?
それとも、稲垣さんは天下り役人ですか?
文章を読みなおしてみて下さい、全て政府の受け売りとか擁護する立場ですよ。
皆さんもポチも、東電の放射能はほんの少しでも身体に取り込みたくはありませんのですよ。

出来ますればでありますが、稲垣さんには被災者の気持ちを理解するためにも、ぜひ福1の事故現場にお出ましを願いまして、現況の本当のところをお調べ頂きました上で収束の手立てをご検討願えないものでしょうか。
ーーーーーー
稲垣さんに限らないところが国民には腹立たしいのですが、NHKの皆さんの立ち位置が変だと言いたのはポチだけではなさそうですよ。電力会社の債権などは早めに手放さないとまっとうなお仕事は出来ないんじゃないでしょうかね、経営委員会とやらに具申してみられたら如何でしょうかしら?
ーーーーーー

投稿日時:2012年04月13日 20:39 | ポチ:稲垣さん、なんか立ち位置が変ですよ〜

>複数の専門家によれば一定のレベルに達したあと汚染された食品を全くとらなくなった場合、その後は記事でお伝えした「およそ100日で半分」というよりも早いスピードで減っていく可能性が高いということです。

汚染された食品を全くとらなくなった場合……これがそもそも前提として無理なのでは?

投稿日時:2012年04月15日 12:36 | 匿名

質問が溜まってきているようですが。
先日の私の質問、福島県内で国がやっていた放射能対策の焼却炉、
この程度をご確認いただくのにこんなに時間がかかるのですか?
報じられたのは確かNHKさんの動画ニュースでしたよ。

失敗なら失敗でもかまいませんよ。
実験結果で放射能を燃やした際の挙動ぐらいのデータは取れたでしょう。
データの詳細は後でもかまいませんから、とりあえず結果だけでも聞かせていただけないでしょうか。

投稿日時:2012年04月17日 23:40 | 高見沢逸郎


日本という国のおかしな報道

「狂牛病BSEは危険です輸入を禁止します」

「インフルエンザ危険です、手洗いマスクで予防して下さい」

「津波危険です、すぐ高いところに避難して下さい」

「食中毒の季節です危険です、衛生に気をつけて下さい」

「放射能、セシウム、安全です、基準値内です問題はありません」

投稿日時:2012年05月26日 10:02 | 匿名

コメントの投稿

ページの一番上へ▲