かつてはコンテナ船や漁船に隠れて、海を渡ってくる密入国事案がよく報道されていたが、最近は全く見ない。なぜかと言うと、密航よりも安全確実で、スピーディーに来日できる「なりすまし」という方法が存在し、機能しているからである。
これは、来日資格がない中国人が、資格を持つ別人になりすまして来日する方法であり、身分資料の売買業者が仲介している。費用は約10万元前後、最近は「元高円安」傾向のため、日本円で120万円ほどになり、一昔前の密航より身近な来日方法となっている。
中国の法制度不備を悪用する「なりすまし」旅券は、本人の写真と別人の個人情報が記載されている“正規旅券”で、党幹部や官僚なども同様の手口で、国外逃亡のために複数の旅券を準備しているといわれる。表向き“正規旅券”だから、日本の入国審査をあっさりスルーし、警察官の職務質問でも見破られる心配はなく、合法滞在できて検挙は不能だ。
しかし、能力が伴わない資格で来日すれば滞在期限更新が難しい。
例えば、中学中退なのに大学留学生として来日しても、授業にはついていけないし、アルバイトに精を出すため出席日数や単位が足りず、滞在期日更新時に延長が許可されない。不法滞在者となって逮捕され、本人自称の身分による入国記録がないため、初めてその事実が明らかになる。
「なりすまし」による来日人口の統計はないが、私が警察学校で講演した際、全国から集まった通訳捜査官研修生に質問したところ、全員がなりすましの取り扱い経験を持っていた。
つまり、「なりすまし」は日本全国に存在しているとみていい。この問題を解決しないまま、日本政府は来月9日に外国人登録制度を廃止して、ICチップ内蔵の在留カードを配布する。指紋情報も記録されないお粗末なカードは、「なりすまし」にお墨付きを与えるようなものである。
自民党政権時代に決まった同制度に加え、小宮山洋子厚労相は今年1月、在留外国人の国民健康保険の加入要件を滞在1年以上から3カ月超に引き下げることを通達(来月9日から適用)しており、医療目的の「なりすまし」入国者の増加も懸念される。
日本人でさえ、国民健康保険料の滞納が問題となっているのに、他人の身分で入国した「なりすまし」の中国人が保険料を払うだろうか。外国人の生活保護受給者急増も含めて、民主党政権に対しては「日本や日本人の生活を守る気があるのか。真面目に考えろよ」と申し上げたい。
■坂東忠信(ばんどう・ただのぶ) 宮城県生まれ。警視庁巡査を拝命後、交番・機動隊勤務などを経て、通訳捜査官・刑事として、数多くの中国人犯罪捜査に従事する。2003年、勤続18年で警視庁を退職。その後、ノンフィクション作家として執筆・講演活動に入る。著書に「日本が中国の自治区になる」(産経新聞出版)、「日本は中国人の国になる」(徳間書店)など。