ムクナの豆がパーキンソン病の治療薬になるといった薬草としての特別な力と、トウモロコシと組み合わせた農法で、お金をかけずに高い収穫を維持できる生態農業をなりたたせるムクナの特別な力。両者の間には深いつながりがあるのではないかと、前回に書いた。
「アレロパシー(Allelopathy)」という聞きなれない言葉が、両者の結びつき方を解くキーワードになる。
アレロパシーとは、「植物が何らか化学物質を放出して、まわりの植物の成長を妨げ(あるいは促進し)たり、動物や微生物が寄りつきにくくしたり、引き寄せたりする」現象だ。化学物質は葉から揮発したり、葉などから雨で流れ出たり、根から滲みだすなど、いろんな形で他の生物に影響を与える。アレロパシーには「他感作用」という面白い訳語があてられている。
実は、ムクナは強いアレロパシーをもつ植物で、ムクナが雑草を抑えるのはこの効果の現れだ。ムクナはとても成長が速いために雑草の養分を奪い、光を妨げるだけでなく、放出する化学物質が雑草の成長を抑えている。またアレロパシーは、どの植物の成長も抑えるということはなく、ある植物を抑制し、ある植物には影響しないといった形になる。ムクナはイネ科の植物の成長は妨げないので、イネ科のトウモロコシとはよい組み合わせになる。
アレロパシー効果を発揮する化学物質を、アレロケミカル(他感物質)と呼ぶ。ムクナのアレロケミカルは、薬草の効能の成分と同じL-ドーバであることがわかっている。つまり、ムクナの場合は、特異な薬効も、生態的農業をなりたたせるアレロケミカルもいずれもL-ドーパという化学物質の作用であるという興味深い結果になる。
ムクナのアレロケミカルはL-ドーパであることを証明したのは、農業環境技術研究所の藤井義晴さんであり、藤井さんはアレロパシー研究を先導する人であることを「アレロパシー研究の最前線」(「農業生態系の保全に配慮した農業技術」)で知って、つくば市の研究所に訪ねていった。
「ムクナに限らず、薬草はアレロパシー活性をもつことが多いのではないでしょうか?」と聞いてみると、藤井さんは「その通り」と答えてくれた。
研究所では、アレロパシー活性を証明するためのさまざまな検定法を開発し、それを使って、たくさん植物を調べ、アレロパシー活性をもつ植物を探し出す作業を重ねている。その際に、「薬草としての活性が知られている植物について調べると、アレロパシー活性をもつものが見つかる可能性が、ランダムに選んだ植物の10倍になる」のだ言う。
アレロパシー活性とは、植物が放出する化学物質が自分の生体を護る効果を発揮しているのだとすると、薬草はそういう化学物質を人間の生体を護るのに転用している場合が多いのではないか。おおまかには、そういう見通しをたてることができそうだ。
参考
（４）インド伝統医療とムクナ
（３）自然に広がった中米のムクナ農法
（２）中腹農地の土壌流出を防ぐ
（１）貧困と飢餓への有効な対策
(編集部)
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特集「ウェブ探検」
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藤井義晴さん
撮影: 永野聖美
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