前回まで、中米でのムクナの普及の様子について書いたが、栽培種のムクナ（Mucuna pruriens）の原産地は、ヒマラヤの南斜面だといい、アジアの各地ではムクナ栽培の長い歴史がある。インドでは、ムクナは薬草として知られる。ムクナはインド版の漢方医療とも言えるアーユル・ヴェーダ医療の代表的な薬草のひとつなのだ。ムクナは主に性と神経に関する治療によく効くとされる。
アーユル・ヴェーダでは、ムクナは催淫剤とされている。ムクナに含まれるＬ−ドーパは、男性ホルモンの一種であるテストステロンを増やす効果をもつのだと言う。また、アーユル・ヴェーダ医療では、ムクナの豆を、パーキンソン病の治療に使ってきた。ムクナの豆に２〜９％と多量に含まれるＬ−ドーパがパーキンソン病の患者の症状を改善する効果をもつことがわかっている。
現在も、Ｌ−ドーパはパーキンソン病に効果のある薬として代表的なものなのだが、アーユル・ヴェーダ医療では驚くべきことに、４５００年前から、パーキンソン病の治療にムクナの豆を使っているのだと言う（NATIONAL PARKINSON FOUNDATION/Beans For Parkinson's Disease）。
パーキンソン病は、ふるえや筋肉の萎縮などの運動障害が起きる難病で、この病気にかかると脳の中の神経伝達物質のひとつであるドーパミンが減少することがわかっている。そして、Ｌ−ドーパはドーパミンの前駆物質で、Ｌ−ドーパが脳に運ばれて酵素の働きでドーパミンになる。そのため、Ｌ−ドーパを摂取すると、パーキンソン病の症状を抑えるはっきりした効果がある。
とても興味深いのは、一方で、「招福豆」ムクナが薬草としてこうした特別な力をもち、他方で、トウロモロコシと一緒に栽培するととても旺盛に成長し雑草を抑えるなど、お金をかけずに高い収量を維持できる生態的農業をなりたたせる特別な力をもっている点だ。薬草としての効能と、周囲の植物の成長に影響を与える特性には深いつながりがあるのではないか?
そんなことを思ったのは、薬草には、雑草を抑えたり、虫や細菌が寄ってくるのを防いだりして、自分を防御する作用をもつ植物が目立つからだ。例えば、香辛料の成分を研究する中谷延二さんは、ハーブや香辛料（アーユル・ヴェーダの生薬に使われるものが多い）には、「抗菌性」と「抗酸化性」を併せもつものが多いことを指摘している（「香辛料は抗酸化物質の宝庫」）。
「抗酸化性」は、生活習慣病や老化の原因となる活性酸素の働きを抑える作用をもち、最近注目されるようになっている。こうした事実を踏まえると、薬草は、植物が自ら身を護る能力を転用しているのではないか、と考えたくなる。
（３）自然に広がった中米のムクナ農法
（２）中腹農地の土壌流出を防ぐ
（１）貧困と飢餓への有効な対策
(編集部)
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特集「ウェブ探検」
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