前回は、中米でのムクナ普及の代表的な例としてホンジュラス北部山地の中腹地帯のアボネラ農法をとりあげた。この農法だけでなく、トウモロコシ栽培とムクナを組み合わせたさまざまな農法が中米の貧しい小農たちの間で生まれて普及しつつある。トウモロコシとムクナはとても相性がよく、この２つをうまく組み合わせると、化学肥料などお金のかかる資材なしにかなり高い収穫を維持できる生態的農業を成り立たせることができる。
トウモロコシとマメ科の植物を組み合わせる農法は、中米では古代から伝わっている。つまり、窒素を固定し、土壌の栄養分を補うマメ科の植物の特性は昔から利用されてきた。
マメ科のムクナはこれに加えて、トウモロコシ栽培に好都合なさまざまな性質をもつ。そのひとつは、暖かく水分が十分なら土壌が悪くてもムクナはとても成長が早く、雑草が生えるのを抑える性質をもつ。しかし、トウモロコシの成長は妨害しない。さらに、成長の活発なムクナの葉や蔓が腐ると多量の有機物を畑に供給する。「招福豆」ムクナはトウモロコシと組み合わせると、一石三鳥か四鳥の働きをする。
ムクナの豆の収量もきわめて高い。しかし、やや毒性があるので、人間が食べるには調理法に工夫が必要だ。家畜には、栄養分が高く良質の飼料になる。
注目したいのは、中米では、トウモロコシとムクナを組み合わせるさまざまな農法が貧しい農民たちの自発的工夫から生まれ、それが急速に普及しているという点だ（"Chapter4: The Abonera System"<http://www.idrc.ca/en/ev-31747-201-1-DO_TOPIC.html>）。
ホンジュラス北部の中腹地帯でのムクナの普及の過程では、研究機関や農業技術の普及機関などはまったく関与せずに、農民から農民へと広がっていった。親戚や近所の農民のムクナ栽培を見て関心をもち、豆を分けてもらって自分でも撒いてみるという形でどんどん普及した。９２年には、北部の中腹地帯の農民の６割強がムクナを栽培している。
中米にムクナをもちこんだのは、ユナイテッド・フルーツ・カンパニーらしい（"Chapter1: Velvetbean: A New Plant with a History"<http://www.idrc.ca/en/ev-31738-201-1-DO_TOPIC.html>）。１９２０年代にグァテマラなどのバナナ農園で馬の飼料としてムクナが栽培された。農園でムクナになじんだグァテマラ先住民のケッチ族の人たちが冬撒きトウモロコシとムクナを組み合わせて、アボネラのもとになっている農法をつくり出したようだ。遅くとも５０年代には、メキシコのチアパス、オアハカ、タバスコ、ベラクルスの各州の先住民が、ムクナとトウモロコシを組み合わせた栽培を始めている。さまざまな生態的な条件に合わせた農法が工夫されている。
先住民の農民の間でムクナを使った農法が急速に広がり、研究機関やＮＧＯは十分に対応しきれていないようだ。ホンジュラスにムクナがもたらされたのは７０年代のはじめで、グァテマラ人がもってきたという。
米国にムクナが入ってきたのは１９世紀末のようで、１９２０年代までは、家畜の飼料や緑肥として南部で盛んに栽培された。しかし、４０年代半ばから生産が減り、最近は米国ではほとんど作られなくなっている。化学肥料の大幅に価格が下がり、緑肥への関心が薄れたのが一因のようだ。
（２）中腹農地の土壌流出を防ぐ
（１）貧困と飢餓への有効な対策
(編集部)
◇
特集「ウェブ探検」
|
ムクナが普及している中米の地域
アレロパシー(他感作用)
二次代謝物質
パーマカルチャー
アグロフォレストリー
持続可能な農業
|
