私たちが「招福豆」と呼ぶことにした豆科の植物ムクナは中央アメリカの貧しいトウモロコシ農民の間に急速に広がっている。潅漑設備や化学肥料などのお金のかかる近代的資材に頼らずに、条件の悪い土地の土壌流出を抑え、雑草の成長を防ぎ、土壌を豊かにし収穫を増やすといった効果を上げている。
どうしてこういうことが可能になるのか、具体的に知りたくなる。中央アメリカでムクナが普及している代表的な地域のひとつは、ホンジュラスの北部山地の中腹地帯であり、幸い、この地方のムクナについて詳しい報告（Daniel Buckles,Bernard Triomphe, and Gustavo Sain "COVER CROPS IN HILLSIDE AGRICULTURE ---Farmers Innovation with Mucuna" <http://www.idrc.ca/en/ev-9307-201-1-DO_TOPIC.html>）がある。
ホンジュラス北部の中腹地帯では、トウモロコシと豆などを輪作する伝統的な焼畑農業が行われてきた。１９８０年代頃に、トウモロコシとムクナの栽培を組み合わせたアボネラ（Abonera）システムという農法が急速に普及し、焼畑農業に置き換わりつつある。
他の中南米諸国と同様に、ホンジュラスの農業も、輸出志向の大規模モノカルチャー農業と小農の混作農業に分かれている。北部の中腹は、貧しい小農たちがひしめく地域だ。１９５０年代から６０年代に畜産、綿、エビなどの大規模経営のために、沿岸部や肥沃な渓谷地帯で、土地の集中が起き、貧しい農民たちは耕す土地を失った。そういう人たちが農地としては条件の悪い北部の中腹地帯に流入したという経緯がある。
アボネラ農法では、図のように年末から翌年の５月くらいにかけて冬撒きトウモロコシを栽培し、トウモロコシの収穫後の期間は、畑にムクナだけを栽培する。次のトウモロコシの栽培を始めるまでの間は、ムクナは畑一面を覆いつくして、雨による土壌の栄養分の流出を防ぐとともに、雑草が生えるのを抑える。
年末にトウモロコシを撒く前に、ムクナを刈り取るが、蔓や葉、豆を土にすきこんだりせずに、マルチとして土の表層に残す。そのため、撒いたトウモロコシが育ってくるとムクナの豆も発芽して、トウモロコシの茎を支柱にして、ムクナが伸びてくる。トウモロコシの収穫後は、ムクナだけを畑に残しておく。
ムクナの豆は収量がとても高く、人間の食料や家畜の飼料にすることができるのだが、この農法では、トウモロコシだけが収穫物であり、ムクナの豆は収穫せずトウモロコシの栄養分にする。
この農法が、急速に普及したのは、化学肥料を使わずにトウモロコシの高い収量が得られ、しかも、ムクナとトウモロコシの栽培のサイクルを繰り返していっても、収量が落ちないためだ。
この農法で、ムクナは多面的な役割を演じている。ムクナは土の表面を覆い傾斜地の農地で起きやすい土壌流出を防ぐとともに、雑草がはびこるのを抑える働きをする。ムクナは豆科の植物なので空気中の窒素を固定する働きをもち、土壌に窒素を補給する。高温で湿潤な気候の下ではムクナは、成長が早く、大量の有機物を土壌に供給することになる。
伝統的焼畑農法も、化学肥料などを使わずに多彩な作物を収穫できる持続可能性の高い農法なのだが、畑を２次林に戻す休閑地の期間を十分にとらないと収穫が落ちてしまう。
そのため、人口密度が高くなってきた地域では、アボネラ農法のような形が、焼畑農法に替わる持続可能な農法ということになるようだ。
（１）貧困と飢餓への有効な対策
(編集部)
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Daniel Buckles,Bernard Triomphe, and Gustavo Sain "COVER CROPS IN HILLSIDE AGRICULTURE ---Farmers Innovation with Mucuna"の図をもと
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