筆者はかつて大蔵省に勤務していたが、若手の御用学者の発掘やマスコミ対策をやったこともある。その時の体験などを交えながら、今回は官僚が御用学者を仕立てる方法や大新聞に一定の方向性の社説などを掲載させる方法などを紹介しよう。
大新聞が似たような論調の時には、だいたい後ろに官僚がいる。大蔵省にいたときの実話であるが、ある政策キャンペーンを行う時、課長クラス以上に対し各紙論説クラスやテレビ局のコメンテーターに根回ししてどのように書かせ、言わせるかを競わせたかのようだった。傍目から見れば、役人としての出世競争のようなので、各課長は必死である。
16日の大新聞は「決められない政治からの脱却」の大合唱だった。邪推かもしれないが、そうしたマスコミ対策の結果かもしれない。
マスコミを官僚が洗脳する方法は単純だ。(1)出向くこと(取材先にいくことが多いマスコミにいくと、それだけで先方は恐縮する)(2)内部資料といって資料を持っていく(マスコミはデータを調べられないから喜ばれる。もっとも内部資料といってもマスコミ配布用に作成したもの)(3)メールアドレス、携帯電話番号を教える(マスコミにとって取材源の確保になって喜ばれる)などだ。
各新聞が出そろうと、どのような論調になるかが一目瞭然になる。「反省会」という正式な会議があるわけでないが、何かの会議の前などでは、「どの新聞が一番よく書けている(つまり大蔵省の言いなり!)」とか、幹部が談笑することがよくあった。そのとき、うまく書かせられなかった課長は心なしか浮かない表情だった。
学者を御用学者に官僚が仕立てることも簡単だ。(1)審議会、勉強会委員にする(先生のご意見が聞きたいとおだてる。法律上根拠のある審議会のほうが格上で、その登竜門として局長などの私的勉強会のメンバーにしたりする)(2)資料、メモ出し(学者の研究を官僚がサポートする。学者は制度や事実関係などに弱いため、これは重宝される)(3)アゴ足付き海外出張(行き帰りの飛行機クラスをアップグレードしたり、現地アテンドなど。通関手続きが簡単になるなどで学者は驚く)(4)弟子の就職斡旋(公的研究機関などに紹介)(5)研究費や委託調査費の優先配分(まるで「原子力ムラ」と同じである)だ。
なお、審議会にはマスコミ枠がある。その枠に収まったマスコミは、御用学者と洗脳されたマスコミの両方になる。アゴ足付きの海外出張に御用学者、アテンド役の官僚とともに行き、1週間以上も寝食を共にして仲間意識ができる。
こうして洗脳されたマスコミ、御用学者、官僚の強固なトライアングルが生まれて、そこから大量のバイアスがかかった情報が発信される。
今回の消費税増税では、そのトライアングルがフル稼働し、増税やむなしの世論が形成された。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)