有田式とは

有田秀穂先生は東京都出身の脳生理学者で、東邦大学医学部統合生理学教授です。
セロトニン研究の第一人者であり、『エチカの鏡』など多数のTV番組の出演で知られています。
著書『脳からストレスを消す技術』は22万部を超えるベストセラーとなりました。

私たちの脳内には、様々な情報を伝えるために何種類もの神経が全体に張り巡らされています。
神経はその先端から、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの化学物質を放出し、
隣の神経の先端でそれを受け取る事で次から次へと情報を伝達していきます。
このように情報を次から次へと伝える働きをする物質を「情報伝達物質」と言います。

私たちの脳の中には約150億個の神経細胞があります。
そのうち、セロトニン神経は数万個だと言われています。
セロトニン神経は脳全体で約150億個の神経細胞に比べて、
わずか数万個にすぎず、数的には神経の中でもマイノリティの部類です。
にもかかわらず、脳全体に情報を発信しているという点で非常に珍しい神経です。

セロトニン神経は、脳の中心にある脳幹のさらに中央に位置する縫線核という部分にあります。
そして、大脳皮質、大脳辺縁系、視床下部、脳幹、小脳、脊髄など、
あらゆる脳神経系と結合し、脳の広い範囲に影響を与えている神経です。
眠っている時には放出が抑制され、ノンレム睡眠中は弱く働き、レム睡眠ではほぼ働きを止めます。
目が覚めると脳内にセロトニンが放出されて、人間は活動を開始します。
心の面では、クールな覚醒、つまり平常心を保つ働きをします。
セロトニン以外にも心の状態を演出する神経には、快感や陶酔感を増幅するドーパミン神経と、
様々なストレスによって覚醒反応を引き起こすノルアドレナリン神経があります。
セロトニン神経は、この二つの神経に対して抑制作用を及ぼし、
興奮と不安のバランスを図り、心の状態を中庸に保つ働きをします。

人間の体は交感神経と副交感神経という二つの自律神経の働きによって支えられています。
セロトニンはこの相反する二つの神経をスイッチングして脳のバランスをとる働きをしています。
ストレスに晒されている状態というのは交感神経が過剰に働いている状態です。
つまり、このセロトニンがきちんと働けば心が安定してストレスが消えるのです。
しかし、慢性的なストレスが加わると脳内のセロトニンは欠乏します。
セロトニンが減ると交感神経と副交感神経をスイッチングできなくなり、
鬱病や自律神経失調症など様々な症状を引き起こす原因となります。

セロトニン神経を刺激するための基本は、歩行、咀嚼、呼吸、日光浴です。
セロトニンが不足する理由は、運動をしない事と日光を浴びない事です。
鬱病はセロトニンの不足によって起こるという事が分かっており、
鬱病で自殺したと思われる人たちの脳脊髄液を調べたところ、
セロトニンの分解物質の量が極端に少ない事が確認されています。

大脳皮質には、古くから発達した大脳辺縁系と、新しく発達した大脳新皮質があります。
大脳辺縁系は記憶や情動を司っています。
大脳新皮質は言語や概念を司っています。
簡単に言うと、辺縁系=本能、新皮質=理性です。
新皮質は下等生物においては小さく、高等生物では大きくなる傾向にあります。
高等生物の頂点に位置する人間は大脳新皮質に支配され過ぎてしまい、
「こうあるべき」「こうでなければならない」という常識に縛られ過ぎているのです。
セロトニン神経を強くすると、大脳新皮質の働きを適度に抑制する事ができます。
言語や概念を司る大脳新皮質は、心配事や悩み事を抱えている脳でもあります。
大脳新皮質を抑制すると、その間だけ心配事や悩み事から解放されます。

太陽の光を必要としているのは光合成をする植物だけではありません。
セロトニン神経を刺激するために最も欠かせないのが太陽の光です。
太陽の光が光信号となって網膜に入り、直接セロトニン神経を刺激します。
朝起きたら、まずカーテンを開けて部屋の中に太陽の光を取り込みましょう。

セロトニンは夜になるとメラトニンというホルモンに変化します。
セロトニンが「幸福ホルモン」であるのに対し、メラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれています。
私たちはメラトニンが分泌される事で眠くなり、熟睡できるのです。

すべてのものは重力によって地表に引っ張られています。
この重力とは逆の方向へ体を動かす筋肉を「抗重力筋」と呼びます。
抗重力筋の大きな役割は、立っている姿勢を保つ事、背筋を伸ばして姿勢をよくする事です。
手や足を上げたりする動作も抗重力筋の役割です。
もし、顎に抗重力筋がなかったら、口は開いたままになってしまいます。
セロトニンは、この抗重力筋にも働きかけています。
セロトニン神経が弱いと、口が開いたままになったり、猫背になったりします。

顔の表情にも抗重力筋が働いています。
笑った時に口角が上がったり、頬が上がったりするのは、抗重力筋による働きです。
セロトニン神経が弱いと、顔の表情が少なくなり、目尻、頬、口角が下がってきます。
つまり、老けた印象の顔になってしまうのです。

【セロトニン神経の五つの働き】
①睡眠から覚醒へのシフトを行う。
②アルファー2という特別な脳波が出現する。
③自律神経を適度なレヴェルに保つ。
④痛みの制御。
⑤全身の抗重力筋が活性化する。

体内のセロトニンの90%以上は、腸で作られている事が分かっています。
ですから、腸が汚れているとセロトニンも分泌されないのです。
セロトニンは腸内で神経伝達物質として働く他に、
満腹中枢を刺激するため、食欲を抑制する働きもあります。

セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸を原料として作られます。
トリプトファンをサプリメントで摂取すると、セロトニン症候群が起こる事があります。
ですから、食事から自然に原料となるトリプトファンを摂り、
サプリメントを摂取するべきではありません。

トリプトファンは様々な食品の中に含まれています。
体内に取り込まれたトリプトファンは、脳内に運ばれて、
ヴィタミンB6、ナイアシン、マグネシウムと共にセロトニンを合成します。

【トリプトファンを多く含む食材】
・大豆
・納豆
・豆腐
・味噌
・醤油
・胡麻
・鰹節
・カシューナッツ
・ピーナッツ
・しらす干し
・わかめ
・牛乳
・ヨーグルト
・プロセスチーズ
・卵黄
・アボカド
・バナナ

【ヴィタミンB6を多く含む食材】
・さんま
・いわし
・かつお
・さば
・たい
・にしん
・まぐろ
・豚もも肉
・牛レバー
・大豆
・小麦胚芽
・玄米
・にんにく
・唐辛子
・生姜
・バナナ

トリプトファン、ヴィタミンB6、ブドウ糖の三種類をすべて含んでいる食品はバナナです。
セロトニンを効率よく増やすのに、バナナは非常に理想的な食品だと言えます。

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