「慰安婦=性奴隷」を広めた戸塚悦朗の「大罪」
戸塚らの異常な活動の結果、96年に戸塚の性奴隷説が国連公式文書に採用されたのだ。国連人権委員会の特別報告者クワラスワミ女史が人権委員会に提出した報告書(『戦時における軍事的性奴隷問題に関する朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への訪問調査に基づく報告書16』)に
「本報告の冒頭において、戦時下に軍隊の使用のために性的奉仕を行うことを強制された女性の事例を、軍隊性奴隷制(military sexual slavery)の慣行であると考えることを明確にしたい」(同報告第1章)
と書かれた。
同報告書の事実誤認のひどさについてはすでに現代史学者の秦郁彦教授が『慰安婦と戦場の性』(新潮社)などで辛らつに批判しているし、わたしも拙著『よくわかる慰安婦問題』(草思社)で批判した。詳しくはそれらを参照していただきたいが、ここでは同報告書がその時点ですでに虚偽であることが判明していた吉田清治証言や女子挺身隊制度による慰安婦連行説を事実認識の根拠としていることを指摘しておく。
日本での論争では「慰安婦=性奴隷」説は破綻しているのだが、それがきちんと英語など外国語に翻訳されていなかった。その隙を悪用して、戸塚らがNGOの資格で国連の人権委員会(現在の人権理事会)やILO(国際労働機関)などに働きかけて、慰安婦問題をナチスのユダヤ人虐殺や旧ユーゴスラビアでの組織的強姦と同レベルの「人道に対する罪」として位置づけることに成功した。それを根拠についに韓国憲法裁判所の違憲判決までに至ったのだ。
戸塚が韓国憲法裁判所に提出した意見書を見るとその構図がよく分かる。戸塚は意見書冒頭で
〈元「慰安婦」被害者が日本政府に対してその尊厳と名誉の回復等を求めて謝罪等を要求している事件について、被害者の地位が、サンフランシスコ平和条約、日韓請求権協定第2条の規定によって処理済であって、元「慰安婦」被害者は、日本政府に対するなんら要求する地位を持たないし、被害者の権利を擁護するための韓国政府の外交保護権も失われているとする主張[は根拠がない。]
…したがって、元「慰安婦」らが日本軍政府によって性奴隷とされた事件について、日本政府に対して元「慰安婦」らが持つ奴隷被害者としての地位は、日韓請求権協定によっても失われていないし、被害者らの地位を保護するための 韓国政府の外交保護権も失われていない。([ ]内と傍点は西岡)〉
と自身の立場を述べている。ここでも戸塚は、「元「慰安婦」らが日本軍政府によって性奴隷とされた」と断言している。
戸塚は自身の主張の根拠として、民間団体の3文書、
①日本弁護士連合会理事会『「従軍慰安婦問題」に関する提言10』(1995年)、
②国際法律家委員会(ICJ)『慰安婦報告書』(1994年、DOLGOPOL, Ustinia & PARANJAPE, Snehal, Comfort Women: an unfinished ordeal Repoがofa Mission by International Commission ofJurists, ICJ)、
③女性国際戦犯法廷判決(2001年)と、国連人権委員会関係の3文書、
④「クマラスワミ報告書」、
⑤ゲイ・マクドゥ-ガル国連人権小委員会戦時性奴隷等に関する特別報告者『武力紛争下の組織的強姦、性奴隷及び奴隷制類似慣行に関する最終報告書18』(1998年、いわゆる「マクドゥ-ガル報告書」)、
⑥国連人権小委員会「組織的強姦、性奴隷、奴隷用慣行に関する決議」(1999年)
を挙げている。
国連特別報告者の報告書である④と⑤は韓国憲法裁判所が違憲判決で引用していることに注目したい。
戸塚は、慰安婦は「日本軍政府によって性奴隷とされた」という前提に立ち、性奴隷は当時の国際法においても人道に反する罪として不法行為であり、その被害に対する補償請求権はいかなる外交交渉によっても消滅しないという自身の主張を、上記6文書を引用する形で展開している。
(つづく)