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  asahi.com > 朝日新聞社から > 【社説】希望社会への提言
希望社会への提言
6.安心勘定・我慢勘定に分ける
2007年12月3日付


●安心勘定=現行水準の福祉サービスを守り抜く
●我慢勘定=血のにじむ歳出削減を貫く

 希望社会を支える国の財政をどのように組み立てたらいいか。この難問に、これから2回で取り組んでみよう。

 年収の10倍以上もの借金を抱えている家庭があったら、ほぼ破産状態といっていいだろう。それと同じ姿なのが、日本政府の財政である。税収などが57兆円しかないのに、600兆円もの債務残高を背負い込んでいるからだ。

 これだけ多いとピンと来ないかもしれないが、生まれたばかりの赤ちゃんを含めて、国民1人あたり480万円の借金を抱えている計算なのだ。

 日本の財政は先進国で最悪の状態に陥っている。しかも、残高が十数兆円の規模で毎年増え続けている。

 図をご覧いただきたい。借金の元利金の支払いを新たな借金でしのいでいるだけでなく、毎年の経費の一部まで借金で賄っている。さらに日本は、これから世界に例のないピッチで少子高齢化が進み、医療や介護などの社会保障費がうなぎ登りで増えていく。

 このままでは借金が雪だるま式にふくれ、財政が破綻(はたん)するかもしれない。

 借金を増やさないよう厳しく管理しながら、高齢化に必要な社会保障費を賄っていくにはどうしたらいいか。

 そこで提案がある。財政を、大きく二つに分割して管理するのだ。

 青写真はこうだ。まず、医療や年金・介護・生活保護・子育て支援などの社会保障部門を一つにまとめて管理する。いわば、人々の生活を支える「安心勘定」である。次代を築く子どもの教育を、ここに含める手もあるだろう。

 それ以外の分野はもう一方にまとめ、国債の管理も担当する。ここでは増税をさせず、徹底した歳出カットで臨むので「我慢勘定」と呼ぶことにしよう。

 図でいえば、歳出をその右側のように二つに分けるイメージだ。

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 「我慢勘定」に増税を認めないのは、政府を血のにじむような歳出削減に追い込むためだ。この勘定のなかでも、たとえば科学技術の振興や温暖化対策のように、未来のために拡充すべき分野もでてくる。無駄の多い公共事業や防衛費、人件費、天下りなどの既得権に対し強力に切り込まないと、その財源が確保できない仕組みにするのである。

 さらに国債削減の責任も持たせる。まず、図にあるAの赤字をなくす。政府が11年度達成をめざす基礎的財政収支の黒字化だ。これにより、国債費を除いた歳出を税収で賄えるようになる。

 これでもまだ、過去の借金の利払いの分だけは、国債残高が増えていく。できれば図にあるBの赤字まで解消して、残高の上昇を止めたい。だが、赤字は07年度で14・1兆円。歳出の削減だけで達成するのは容易ではない。

 それだけに、経済成長がカギになる。成長にともない自然に税収が増えるからだ。税収増と歳出削減により、少しでもBを減らしていかねばならない。

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 一方の「安心勘定」では、少子高齢化に向けて、少なくとも現行水準なみの社会保障サービスを維持していきたい。

 では、その費用が今後どのくらいかかるようになるのか。厚生労働省の見通しから大まかに試算すると、国と地方を合わせて必要になる財政資金は2025年度で50兆円。06年度より20兆円多い。消費税でいえば6〜7%の税率アップに当たる。大変重い負担だ。

 しかし、これを借金で賄うことは、もはや許されない。日本の財政は先進国で最悪だが、それなのに国債が嫌われもせず、金利が先進国で最低の水準にある。将来の世代が税金で返済してくれる、と市場が信じているからだ。

 この信頼が崩れたら金利がはね上がり財政が破綻する。そうなれば、福祉を支えることも不可能になってしまう。

 「我慢勘定」での歳出カットと経済成長が順調に進めば、「安心勘定」へ財源を回すことも期待できる。

 ただし、それを実現できたとしても、安心勘定を賄っていくには、やはり負担増を覚悟しなければなるまい。

 そこで次週は、消費税を中心に、これからの負担の姿を考えたい。

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