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復興のゆくえ 名取市長選を前に 上

2012年06月25日

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 「再建しても、若い人たちが戻ってこない閖上になってしまう。内陸側にも、居住区域を広げてほしい」

 6月8日、名取市役所。東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた閖上地区の住民8人が、佐々木一十郎(い・そ・お)市長(62)に訴えた。

 8人は「閖上地区現地再建区域の一部変更を求める会」のメンバー。60歳代の主婦が中心だ。市が進める閖上の現地再建計画の見直しを求め、陳情に訪れた。代表の大友美恵子さん(66)は言う。「津波を実際に見た人は、戻りたくても怖くて戻れない人が多い。次の世代を思って陳情することにした」

 市の復興計画を話し合った「名取市新たな未来会議」は昨年8月、閖上での現地再建の方針を佐々木市長に示した。海岸や名取川沿いに防潮堤を造り、道路をかさ上げする「多重防御」をした上で、宅地を盛り土すれば津波被害を食い止められる、というものだ。
 佐々木市長も「閖上がこれまで築いた歴史、文化を後世に残したい」と現地再建策に同調。市議会も10月、現地再建策をふくむ復興計画を認めた。

 だが、その計画に閖上住民から反発が起きる。

 現地再建をめぐって市が2〜5月、住民約2400人の意向を調べたところ、回答した1582人のうち、「再建した後の閖上に戻る」と答えたのは4割にとどまった。市が5月から計9回開いた説明会でも反発が続出。終了予定時刻が過ぎても、居残って市職員に詰め寄る住民もいた。

 「私たちの声に耳を傾ける姿勢が足りなかった」。自宅を流され民間住宅を借り上げた「みなし仮設」に住む橋浦武さん(70)は説明会に参加したが、納得がいかない。「仙台市や岩沼市の沿岸は内陸に集団移転するのに、なぜ閖上は現地再建なのか」。住民の中には、現地再建策の見直しをめざして署名活動を始める動きもある。

 現地再建は、道路を広げたり公園や避難場所を確保したりする土地区画整理事業を行う必要がある。市町村が行う場合、県が認可する要件に住民ら地権者の同意割合は定められていない。ただ、関係者から意見を求める機会を設けなくてはならず、太田隆基副市長は「反対意見が多いなか、このままで認可を得るのは難しい」と話す。

 現地再建に固執する限り住民の同意が得られず、再建計画が前に進まない――。そんな袋小路から抜け出そうと、佐々木市長は現地再建を基本としつつも、住居地域を少しだけ内陸側に広げる方針を固めた。

     ◇

 7月1日の名取市長選告示を目前に、3選を目指す佐々木一十郎市長は閖上の現地再建策を「微修正」した。立候補表明した自然保護団体代表の大橋信彦氏(68)も主張は同じで対立点は小さい。それでも選挙の主要テーマは閖上だ。告示を前に、復興のゆくえを探る。(田中美保、平間真太郎が担当します)

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