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政権交代からまもなく3年。迷走を重ねてきた「決められない政治」が、ようやく一歩、前に進む。率直に歓迎したい。
社会保障と税の一体改革関連法案が衆院を通過した。
政権交代の時代、政党は「違い」を強調しがちだ。
そんななか、民主、自民、公明の3党が、国の将来に直結する重要政策で歩み寄り、共同責任を負う意義は大きい。
■緊急避難的な選択
衆院採決では民主党の小沢一郎元代表らが集団で反対し、民主党は分裂状態に入った。
野田首相が「政治生命をかける」とまで言った法案に反対した勢力が、このまま同じ党にい続けるのはおかしい。
首相と小沢氏はこの際、きっぱりたもとを分かつしかない。
政党が選挙で競い、勝者が公約を実行する。それが議会制民主主義の要諦(ようてい)なら、3党協力の枠組みはそれとは矛盾する。
しかし、与野党が角突き合わせ、身動きがとれない政治の惨状を打開するためには、やむをえない、緊急避難的な選択だと受け止める。
09年総選挙で、民主党は「消費税は上げない」と言って政権を射止めた。国の借金が1千兆円に迫るなか、それは無責任な「甘い夢」だった。
経済はグローバル化し、少子高齢化も進む。多くの制約のなかで、政治がとりうる選択肢は少ない。
民主党政権の混迷を決定づけたのは、10年の参院選の敗北による「ねじれ国会」である。
自民党もまた、政権を失うまでの2年間、福田、麻生両政権で「ねじれ国会」に苦悩した。
首相が1年おきに代わるなど、この5年、2大政党はともに重い代償を払ってきた。そのことが、結果として今回の枠組みに結びついた。
■なれ合い、政争排せ
この3党の協力態勢がいつまで続くかは見通せない。
衆院議員の任期切れまであと1年あまり。来年夏には参院選がある。選挙が近づけば近づくほど、政党同士が必要以上に違いを強調し、足の引っ張り合いが激しくなるのが永田町の通例だからだ。
実際、小沢氏らの造反で弱まった野田政権の足元を見るかのように、自民党はさっそく早期の解散・総選挙を求める声を強めている。
国民そっちのけの政争で、政治を停滞させる愚を繰り返してはならない。
逆の不安もある。3党が巨大な「数」をたのみに、手前勝手な方向に走り出すことだ。
その芽はすでに現れている。
原子力規制法案をめぐる3党の修正協議で、原発を稼働40年で廃炉にする条文を骨抜きにしかねない規定が盛られた。
3党はまた、原子力の利用は「我が国の安全保障に資する」ために確保するとの文言を原子力基本法に追加した。「原子力政策の憲法」が、十分な議論もないままに変更されたのだ。
自民党は、3年で15兆円の巨費を道路整備などにあてる国土強靱(きょうじん)化法案を提出している。この時代錯誤の提案に、民主党が歯止めをかけられるかどうかが問われる。
3党協力の枠組みは「両刃(もろは)の剣」である。
なれ合うことなく、緊張感をもって協力すべきは協力する。政権交代の時代にふさわしい政治文化を築く第一歩としたい。
■総選挙へ環境整備を
政治がいま、回答を迫られている課題は山ほどある。
たとえば、たなざらしのままの赤字国債発行法案や、最高裁に違憲状態と指弾された衆院の「一票の格差」是正だ。延長国会でこれら喫緊の課題を決着させる。それが最優先だ。
3党は、社会保障政策について「国民会議」で1年間、話し合うことで合意した。政権交代で与野党が入れ替わっても、多様な分野で政治を前に進めていく責任を分かち合う。そんなルールと仕組みも整えたい。
消費増税をめぐる政争の陰で先送りされてきた原子力政策、貿易自由化、震災復興など、日本の未来図にかかわる議論も加速しなければならない。
一体改革は必要だが、民主党政権が消費税は上げないという国民との約束に背いたのは間違いない。「予算の組み替えなどで16.8兆円の新規財源を生み出す」とした、政権公約の根幹が実行不能な幻にすぎなかったことはいまや明らかだ。
筋から言えば、ここは早期の解散・総選挙で信を問い直すべしという声が出るのは自然だ。
とはいえ、衆院の「一票の格差」を正さなければ、解散・総選挙はできまい。それには区割りと周知に数カ月かかる。
各党は、総選挙を行うための環境を早く整える必要がある。
そしてそれまでの間に、各党がしっかりした財源の裏づけのある公約を練り直すべきだ。
「国民会議」の議論は半ばになろうが、各党の主張は公約に反映させればいい。