June 26, 2012
■ ファーストサーバ社の障害に関して
あまりまとめられないので箇条書きで。
- 「クラウド (IaaS)」と「レンタルサーバ」の区別
- 技術的には「クラウド (における IaaS)」と「レンタルサーバー」は明確に異なるものなので、そこは混同されないことをおすすめしたい
- 今回障害が起こったファーストサーバのサービスはレンタルサーバであって、クラウドサービスではないだろう
- クラウド = Amazon Web Services (AWS)
や Herokuがその代表例だと思ってもらえばいい *1 - 具体的には、日経新聞の当該記事のこと → http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2600L_W2A620C1000000/
- 意図は不明だが「クラウド」のような目新しいものと今回の事件とを結びつけて何かしらの印象を与えようとするのは、個人的には感心しない
- 業者が「クラウド」と謳っていたかどうかは知らない。例え謳っていたとしても、クラウドではないだろう
- サイボウズのASPのようなパッケージもあったようだが、こちらはレンタルサーバよりレイヤが上になるサービス。少し話が変わってくるので議論は別にした方がよいだろう
- レンタルサーバに関して
- レンタルサーバーは、基本的にはあくまで「一台のサーバを貸してもらう」だけ
- 自分でハードウェアを買ってデータセンターや回線を契約して設置/管理する手間を業者が肩代わりしてくれる
- あくまで業者がやってくれるのはそこまで。それ以上のことは、基本借りた側が自分達で管理する
- 共用サーバなどでは都合上、OS周りまではある程度面倒見てくれる場合が多い
- ただしそれは「共用である」が故の都合 ─ 異なる複数の契約者誰かに管理責任を負わせるわけにはいかないから ─ である
- 専用サーバなどでは逆にそこも自己管理 (完全に余談だが、過去に専用サーバを借りていてディスクが故障してデータを紛失したことがある。これはもう、完全に手前の責任です、業者はわざわざ連絡してくれてしかも謝罪されていましたが。)
- それ以上のレイヤ、たとえば自分で導入したアプリケーションなどはデータも含め当然自分で管理する
- 一方のクラウド (ここでは IaaS について限定) とは
- 仮想化技術等を用いてネットワークシステムのインフラに必要な系全体をサービスとして捉えて提供するもの
- 一般的には、クラウドで提供されるサーバーはXX台ではなく仮想的なインスタンス。それが物理的に何台のハードで賄われているかは抽象化される
- そのほか、計算機自身による自律的な管理機構 (負荷分散、冗長化、自動化) などもサービスに含まれる
- 従って、クラウドではレンタルサーバにおける「物理サーバーを貸します」「OSまでは管理します」よりも多くの技術的価値が提供される
- レンタルサーバー業者によっては付加価値としてより上位レイヤのサービスを提供している場合も多いが、クラウドではその多くが自動化されたり、自律的に行われたりする点が技術的に異なっている
- クラウドとデータの自己管理について
- プライベートクラウド (OpenStack のような実装で自分達で立ち上げるクラウド) vs パブリッククラウド (AWS のようなもの) という議論が近頃盛ん
- その議論の中で「自社の重要データをパブリッククラウドには預けられないからプライベートクラウドの需要がある」という文脈がある
- 今回の事例をクラウドと呼んでしまうと、これらの議論の中にこの問題が入って来ることになるが、プライベート vs パブリックで課題になるのはバックアップや信頼性という (当たり前の) レイヤではなくセキュリティの観点が主題。その辺の議論がごちゃごちゃになるのを少し懸念している
- 何にしてもレンタルサーバーという90年代からある枯れた形態のサービスと、クラウドのような技術的にもビジネス価値的にも新しいものとを混同してしまうと、様々な議論の文脈がずれるのでおすすめしない
- ファーストサーバがオペレーションミスで自社のデータを消失してしまったこと
- まあ、なんというか、ご愁傷様としか言いようがない・・・
- 顧客から預かっているデータをミスで消してしまったことは、批判は免れないだろう
- 一方、バックアップが存在しなかったことについて
- この問題は、微妙なところ・・・
- 例えば専用サーバの場合、通常レンタル業者はバックアップまでは面倒見ないのが一般的
- 専用サーバはOSの管理まで含めて自分でやるものなのでそこは業者側は面倒を見ない = バックアップも面倒をみない
- 共用サーバは先に述べた都合上、業者がOSの面倒を見なければいけない一方、バックアップを取るのはコスト → ここでバックアップの問題が宙に浮いてしまう
- ただでさえ、バックアップは真面目にやろうとすると結構なコストがかかる (記録メディア、世代管理、オフラインバックアップの保管場所 etc)
- コスト面でより格上の専用サーバで提供されないバックアップが、格下の共用サーバで提供されるというのは常識的に考えにくい。そこに矛盾が存在している
- 真面目な業者はバックアップも真面目に取っているだろうが、その分のコストは消費者側あるいは企業の収益そのほかどこかが負っているというのは忘れてはいけない
- ・・・というような背景事情もあると思われるので「バックアップとってないのかこの野郎」と一方的に非難するのは少し待ちたい
追記
「クラウド」と言った場合に、上記のエントリでは主に IaaS について触れていて PaaS/SaaS はカバーしていないのではないかという指摘をいただいたので一部に IaaS という単語を入れました。
また、ここでは「レンタルサーバー」と言った場合に主に IaaS と同レイヤでの話に視点を当てて意見を述べています。ファーストサーバ社が、共用サーバをウェブから管理できるシステムを提供していることから(今回の障害の対象でした) ファーストサーバのサービスを SaaS とみなし、よってクラウドであるという見方ができるのでは、という考え方もあると思いますがそこまでいくと「全ての SaaS はクラウドかどうか」という議論になってしまい、今回話題にしたい話とは別文脈になってしまうので、その判断については私は保留します。
追記#2
追記#3
- ファストサーバ社が自社のシステムを「クラウド」と広告していたことに関しては、自分の見知ではそれは誇大広告と思うし上記の文脈では批判したいと思っています。また、日経新聞の記事がレンタルサーバー業態まで含めクラウドと捉えて論旨を進めていることに関しては、賛同できないというのが自分の考えです。
- 共用サーバのバックアップが微妙というのはあくまで「そんなもの用意されているの当然だろう」と思われる風潮に対してのコメントです。ファストサーバー社が「バックアップを取っています」と謳っていたのに実際には取れていなかった、というのは当然問題だし批判され得ることでしょう。
*1:IaaS の文脈でいくと Heroku は PaaS なので一応 del しました。追記参照
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