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【国際】

カンボジア焼酎再生

クメール焼酎「スラー武玉」(右)と、果実酒「タマリンド」

写真

 名古屋大学が二〇〇〇年からカンボジアで進めている農業教育支援が実を結び“収穫期”を迎えている。現在進めているのは伝統技法による米焼酎造り。商品は都市部のスーパーに並び、農家の所得向上に結びついた。大学の研究と国際協力活動を同時に進める取り組みだ。 (カンボジア南部タケオ州で、杉谷剛、写真も)

●生活が楽に

 首都プノンペンから車で南へ約一時間半。農業が盛んなタケオ州タトエム村では、四人の子の家族らと農業を営む母親スンリーさん(57)が、米焼酎造りに精を出していた。

 蒸した米にこうじを混ぜ、かめの中で三日半ほど寝かせて発酵させる。釜に移して沸騰させ、水より先に気化するアルコールを冷却装置で液体に戻す(蒸留)。作業場には発酵臭が充満していた。

 スンリーさんの娘婿バットさん(38)は「日本人のおかげで、おいしい酒が多く造れるようになった。経営は黒字になり、出稼ぎに行かずにすむようになった」と笑顔で話した。

 スバイルムデイン村では、二児の母親ルーチャンティーさん(32)が「お酒の生産量が増え、生活が楽になった」と喜んだ。生産性が向上し、利益は以前の一・五倍に。こうじを混ぜる温度を一定にして味を安定させ、かめを清潔にした結果、雑菌の繁殖による酸っぱいにおいが消え、味が格段によくなった。

●伝来の歴史

 日本の焼酎は十五世紀に東南アジアから琉球や九州に伝わったのが起源だ。カンボジアでも酒造りは盛んだったが、一九七〇年代後半の大虐殺で農業指導者が激減。伝統技術が途絶えたままになっていた。

 そこで名大農学国際教育協力研究センター(略称・農国センター)が二〇〇〇年から、プノンペンの王立農業大学の改革支援に乗り出し、カリキュラムや博士課程を整備。さらに農村が抱える問題を調査し、それを大学の教員や学生が現場で解決して学ぶという人材育成策を導入した。伊藤香純・農国センター准教授が言う。

 「教室で考えるより現場で実践した方が学生は伸びる。私たちは人材育成と国際協力、研究の三つを一緒にやろうと考えました」

●泡盛の風味

 〇八年に王立農大と行った農村調査で、酒造の慢性的な赤字が判明した。不安定な発酵や蒸留により、酒に酸臭や焦げ臭が交じり、低価格でしか売れないことが原因だった。

 現地に赴いた農国センターの浜野充研究員(39)は「伝統技法を生かしつつ味をよくすることが大切」と説き、学生らとタケオ州の約百七十戸の酒造農家を調査。手分けして品質改善指導を始めた。

 一〇年度に国際協力機構(JICA)の支援事業に採択され、王立農大に販売会社が設立された。良質な酒を農家から買い取り、「スラー武玉(タケオ)」の名で、スーパーや空港で販売を始めた。スラーはクメール語の酒の意で、沖縄の泡盛に似た味わいだ。

 「名古屋大の長年の協力に感謝する。農家を豊かにする酒造りはずっと続けていく」と王立農大のンゴ・ブンタン学長。浜野さんが将来を見据えて言った。

 「失われた技術と人材を取り戻し、酒造以外でも農村発の産業を育てていきたい」

<名古屋大学農学国際教育協力研究センター> 1999年、開発途上国の農業教育を行う日本の中心的な研究機関として設立。アジアやアフリカを中心に海外の大学や機関と連携し、農業系大学の教育機能の強化や農村開発、人材育成など幅広く活動している。

 

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