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  異世界勇者カザンの憂鬱 作者:殴りBIS
※2012年7月1日に、あらすじ以外を削除いたします。
第1部第1話 1(6月3日公開)
第1部第1話 2(6月10日公開)
第1部第1話 3(6月17日公開)
第1部第1話 4(6月24日公開)完結
あらすじ(6月24日公開)
第1部第1話 4


 14 [side:浩介]

 こんな時に、アネキ!!
 いくら携帯に電話しても出やしない。
 ちくしょう。
 ちくしょう。
 俺がもっと強ければ。

 どうしよう。
 ふつーに110番するか?
 間に合うかなあ。
 まともに取り合ってくれるかなあ。

 どうしよう。
 とにかく、研二に電話しなくちゃ。





 15 [side:カザン]

 「分かった。
 何とかする。
 警察には知らせるな」

 そう言って電話を切った。

 あの不良ども三人に襲われたらしい。
 コウスケはしばらく動けないほど痛めつけられた。
 シノブは連れ去られた。

 けっこうだ。
 コウスケやあのメスがどうなろうと、俺の知ったことではない。
 それであの不良どもの気が済むなら、好きなようにすればいい。

 だがそれだけではやつらの気は済まないようだ。
 廃工場で待っていると俺に伝えろ、と言い残したらしい。

 ケイサツ、つまりこの世界の憲兵組織に通報していいかとコウスケは聞いた。
 そうしろ、と言おうとして思いとどまった。
 それをすれば、この出来事は、広く知られることになる。
 ニホンでは成人前の個体を手厚く保護する慣習があるから、固有名は伏せられるだろう。
 だが、周囲のニンゲンどもには筒抜けだ。

 やつらと俺のいさかいに、あのメスが巻き込まれた、とニンゲンどもは受け止めるだろう。
 大きな騒ぎになればなるほど、俺の行動が今後制約を受ける可能性は高まる。
 メスの受けた損害が大きければ大きいほど、騒ぎは大きくなる。

 やむを得ない。
 出掛けて行って、事を収めるとしよう。
 幸い、ケンジの肉体と精神は、最低限の調整は済んでいる。
 あの不良三人を倒すには問題ない。
 ちょうどいいトレーニングだと思うことにしよう。





 16 [side:麗子]

「映像が見えにくいですわね。
 もう少し奇麗に映せませんこと」

「オー、オジョー。
 建物の中にハイりこんでしまえば、キレイな映像が撮れるネ。
 でも、そうシたら、ワタシしゃべれないケド、それでOK?」

「会話が一方通行になりますのね。
 それも不便ですわね。
 よろしいですわ。
 現在の距離を維持してくださいな」

「アイ・シー、オジョー」

「ただし、森崎さんの身に危害が及ぶのは許しませんから、よろしくお願いしますわ」

「アイ・シー、オジョー」

 すぐにトインビーを突入させて、森崎さんを助けたほうがよろしいかしら。
 あの男が来るとは思えませんものね。
 わたくしは一体、何を期待しているのかしら。
 護藤は、食い入るようにモニター画面を見つめていますわね。
 護藤ほどの男が、あの頼りない男に何を感じたのか、今夜ではっきりさせましょう。
 気にとめるほどの男でなければ、もうわたくしの目の前からは消えていただくことにしますわ。




 17 [side:カザン]

 敵はやはり三人だけだった。
 今の俺なら、簡単に倒すことができる。
 ただし、殺したり、大きなけがをさせるのは、うまくない。
 二度と俺に手出しする気をなくす程度に痛めつけてやろう。

 そう思っていた。
 だが、念のため、周囲の気配を探って、四人目に気が付いた。
 この廃工場の外だ。
 割れた窓の向こうに見える建物の屋上に、こちらをうかがっている者がいる。

 敵、とみるべきだろう。
 俺が探知の感度を最大限に上げなければ発見できなかったのだ。
 こいつは手練れだ。
 どこか覚えのある気配なのだが。

 この三人の味方なのか、そうではないのか。
 それは分からない。
 分かっているのは、こいつに手の内を見せるのは危険だ、ということだ。

 やむを得ん。
 作戦変更だ。
 今日は、戦闘力を試すのではなく、耐久力を試すとしよう。
 この肉体に、敵の攻撃を受けた苦痛に耐えることを覚えさせよう。

 シノブは、むごい目に遭うだろうが、ニンゲンのメスが一匹どうなろうと、問題ではない。
 この体もひどい損傷を受けるだろう。
 だが、俺には損傷を修復する能力がある。

 この場は被害者になることとしよう。
 むしろ、心の傷を理由に、干渉を受けにくくできるかもしれない。
 それはそれで悪くない。





 18 [side:麗子]

 来た!
 来ましたのね。
 でも、一方的に殴られているだけ。
 もう立ち上がることもできないようですわね。

 どうしてですの?
 弱いなら弱いで、警察を頼るなり、仲間を連れてくるなり、武器を用意するなりすればいいのですわ。
 なぜ、素手で、一人でやって来ましたの?

 不良どもは、あの男の顔を踏みにじりながら、森崎さんに不潔な手を伸ばしていますわね。
 これ以上待つわけにはいきませんわ。
 でも、映像は見ていたい。

「護藤」

「……はい」

「現地に急行してくださる」

「……はい」

 護藤なら、ここから十分少々で駆けつけられますわ。
 間に合わないようなら、トインビーに介入させましょう。

「オジョー」

「何かしら、トンビ」

「あの娘、髪を引っ張られタリ、バストをもまれたりシテルのに、歯を食いしばって悲鳴を上げないネ」

 わたくしもそれには気付いていましたわ。
 優秀な超指向性集音マイクに、森崎さんの声が入ってこない。
 なぜ、声を上げないのか。
 上げればあの男がよけいに苦しむと思っているからでしょうね。

「ええ、トンビ。
 あんな男にはもったいない女性ですこと。
 今、護藤を向かわせましたわ。
 でも、間に合わないようなら銃器の使用を許可します」

「アイ・シー、オジョー」






 19 [side:カザン]

 歯が少し溶けたマスオが、にたにた笑いながらシノブの胸部をぐにぐにともみしだいている。
 あんな気持ちの悪い物に、よくあれほど大胆に触れるものだ。
 その勇気は認めざるを得ない。

 ブラックジャックを持ったジュンペイが、俺の左手をまたも打ち据えた。
 手首は折れて妙な角度に曲がっている。
 指もひどくつぶされている。
 ニンゲンの治癒力や治療能力からすると、ふつうなら修復不可能な損傷だろう。
 ということは、あとで作り変えをしなくてはならない。
 細胞レベルで肉体を制御して、形状や形質を調整するのだ。
 一度それをした部位は、ニンゲンとしての普通の新陳代謝は不可能になる。
 精密検査を受ければ異常が発覚するので、できれば控えたかったのだが。

 それにしても。
 いささかしつこすぎる。
 いつまで、俺をいたぶり続ける気だ。
 下等なニンゲンのくせに。

 苦痛の制御はうまくいっている。
 きちんと苦痛を感じつつ、過度の恐怖や筋肉の萎縮などは押さえられている。
 だが、俺はだんだんいらだってきていた。

 俺は、誰だ。
 俺は、ゴラープ族のカザンだ。
 誇り高きガイラグルの戦士だ。

 その俺が、できそこないのローガのごときニンゲンどもに、足蹴(あしげ)にされている。
 反撃もせず、丸太のように横たわって。
 何のために。
 身の安全を確保するためだ。
 それはそんなに大事なことだったか。
 ガイラグルの戦士は、何を重んじて生き、死ぬのか。

「げっへっへ。
 おめえにゃあもってえねえいい女だよなあ。
 たっぷりかわいがってやるぜえ。
 ほれ。
 悔しかったら起き上がって反撃してみせろや。
 ほれっ。
 ほれっ」

「も、もうやめてよっ。
 わ、私はどうなってもいいから。
 研二君を、これ以上いじめないで!」

 いじめる、だと。
 ニンゲン風情が、この俺を。

「へえ〜。
 こりゃいいや。
 じゃあ、服を脱いで、そこに寝な。
 おーい、ケンジくーん。
 お前の女、オレが頂くぜ」

 こいつは今、何と言った。
 俺の女だと。
 このメスのローガもどきは、俺の所有物だと思われているのか。
 それをこいつは奪うという。
 つまりこいつは、ガイラグルの戦士から、家畜を盗むと宣言しているのだ。

 そんなことを、許していいのか。
 いや、いかん。
 ガイラグルの戦士から家畜を盗もうとする愚か者には、それにふさわしい報いを与えねばならん。

 俺は、痛めつけられた左手を硬質化させた。
 こいつらの目の前で形状変形をするのはまずい。
 形は変えずに、硬さだけ変える。
 全身の筋力を高め、反射速度を上げた。

 そして、立ち上がった。
 三人のニンゲンどもは、ぽかんとこちらを見ている。
 正面では、マスオがシノブにナイフを突き付けている。
 左には、鉄パイプを持ったヒロシがいる。
 右には、ブラックジャックを持ったジュンペイがいる。
 いずれも至近距離だ

「て、てめえっ。
 まだそんな元気があったのかっ」

 左からヒロシが襲い掛かってきた。
 俺の頭部目がけて振り下ろされた鉄パイプを、硬質化させた左手で受ける。
 がきんっ、と音がして、鉄パイプが少し曲がる。
 次の瞬間、相手の顔面に俺の右拳がめりこんだ。

 右のジュンペイがブラックジャックを構えようとしている。
 遅い。
 硬質化させた左手を腹にたたき込んだ。
 ぐえっと声を上げて海老のように体を曲げた。
 無防備な頭蓋骨に右肘を振り下ろそうとして思いとどまり、右膝で蹴り上げた。
 顎なら砕いても問題なかろう。

 そして正面のマスオに向いた。
 俺は半歩近寄って右手を伸ばし、ナイフを持った手を握り、力を込めた。

「ぎゃああああああああっ」

 マスオは顔をくしゃくしゃにして、情けない悲鳴を上げた。
 さらに力を入れると、骨の折れる音がした。
 そのままナイフを奪い取り、後ろに放り投げた。

 緊張の糸が切れたのか、シノブが気絶して、ふらっと倒れかかる。
 俺は両手でシノブの体を抱えると、右足でマスオの股間を蹴り上げた。
 マスオは苦しみのあまり悶絶してうずくまった。

 隣のビルにいる四人目の敵に動きは見えない。
 俺は四人目の敵に威嚇の目線を送ると、シノブを抱えたまま廃工場を出た。
 早くこのメスを家に送り届けたほうがいいだろう。
 徐々に速度を上げ、俺は夜の道を走った。






 20 [side:麗子]

 わたくしは、今、何を見たのかしら。
 あれは鉄パイプに見えましたわ。
 素手で受けられるもの?
 あの圧倒的な強さは、何?
 そして、あの、あの。
 憎しみと侮蔑に満ちた、燃えるような瞳。
 あんなものは、見たことがない。
 こんなに胸をざわつかせるものは、見たことがない。

「オジョー」

「何かしら、トンビ」

「ターゲットは、タダモノじゃないネ。
 ファインダー越しに睨まれて、シンゾウをつかまれた気がシタネ」

「そうですわね」

 ええ、よく分かりますわ。
 わたくしも同じように感じたのですもの。

「護藤。
 聞こえてますこと?」

「……はい」

「新藤研二が、三人の不良を撃破し、藤崎しのぶを救助して立ち去ったわ。
 現場に着いたら、三人の不良を回収して病院に運んでいただけるかしら。
 治療費はこちら持ちで。
 今回のことを口外しないようにしてくださいな」

「……はい」

 新藤研二。
 あなたは、何者?





(第1部第1話 完結)




この作品は、第1部第1話をもって執筆を終了いたします。
ご愛読くださり、ありがとうございました。


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