※2012年7月1日に、あらすじ以外を削除いたします。
第1部第1話 1(6月3日公開)
第1部第1話 2(6月10日公開)
第1部第1話 3(6月17日公開)
第1部第1話 4(6月24日公開)完結
あらすじ(6月24日公開)
第1部第1話 3
10 [side:しのぶ]
えへへ。
今日は久々に研二君と一緒に下校できた。
前は、毎日一緒だったのに。
あの日から、研二君は、文芸部の部活に出なくなったから。
今日はブラバンの練習が休み。
こんなに早い時間に帰れるなんて、めったにない。
研二君、今度の定期演奏会、聴きに来てくれるかなあ。
私ね、〈展覧会〉のソロをもらったんだよ。
「古い城」のソロを。
セルマーのリードと、クランポンのリードと、どっちを使おうかなあ。
研二君は、どっちの音が好きかなあ。
いろいろ話したいのに、話せない。
話しかけると、研二君、つらそうだから。
だから、こうして黙って一緒に歩くだけ。
それでも、一緒に歩けてうれしいよ。
研二君。
あなたは心に何を抱えているの。
それは、私には話せないことなの。
あなたが少しでも楽になれるなら、私はどんな話でもびっくりしたりしないよ。
「よう。
お二人さん。
お久しぶり」
奥寺益男だ!
不良グループのボス。
どうして、今ごろ。
「へっへっへっ。
お二人のおかげで、今はすっかり暇になっちまってねえ。
退学くらっちまったからよ」
「そ、それは、あなたたちが、みんなを脅してお金を取ったり、女の子にひどいことしたからでしょう!」
頑張れ、私!
こいつらは、弱みをみせたら、どこまでもつけ込んでくる。
毅然としなきゃだめっ。
「おい!
おめえ、年上に対する口の聞き方知らねえのかっ」
奥寺の横にいた二人の不良が脅してくる。
「じっくり教えてやろうや。
静かな所でよう」
「おいおい、ヒロシ、ジュンペイ。
やくざみてえな言い方しちゃだめだ。
俺たちは、不良じゃねえんだから」
「あ、あなたたち。
こんなことしたら、今度こそ少年刑務所行きよ!」
「ひゃーっはっはっはっはっ。
怖え、怖え。
だけどよう。
どうかな。
この前のときは、ケンジ君の言うことを、みんな信じたさ。
だけど、今のケンジ君は、俺たちなんか目じゃねえぐらいのワルだからねえ。
ぼこぼこにしても、自業自得としか思われねえよ」
「わ、私が。
私がちゃんと証言するもの!」
「おお?
そりゃ、まずいな。
じゃあ、どんな目に遭わされたか、とても口にできねえような目に遭ってもらわねえとな」
「け、研二君、逃げて。
この人たち、研二君をリンチするつもりだよっ。
逃げてーーっ」
「とにかくこっちに来い!」
11 [side:カザン]
マスオは、シノブをつかまえようと、左手を伸ばした。
俺はその手を右上腕でつかんだ。
このメスがどうなろうとかまわないが、俺が一緒のときは、まずい。
不必要に注目を集めることになる。
マスオが顔色を変えて右手で俺の顔を横殴りにしてきた。
俺は、その手を左上腕でつかんだ。
そして、すかさず、やつの脇腹に左右の中腕をたたき込んだ。
つもりだったが、ニンゲンの体には中腕がなかった。
俺が間抜けな隙をさらしているあいだに、ジュンペイとかいう男が、何かを振り回すのが視界の端に映った。
衝撃が俺の頭を襲った。
あれは、ブラックジャックという武器だったな。
闇に落ちる意識の中で、そう思った。
12 [side:麗子]
「ほんとに弱かったんですのね」
「オー、オジョー。
コッチがビックリね。
パシッ、パシッと格好良く攻撃をウケトメて、サア反撃と思ったら、あっさりヤラレちゃったね」
「そんなに弱いのに、森崎さんを守って戦おうとしたのは、立派だけれど。
それで、そのあと、どうなりましたの?」
「シバラク、襲撃者三人は、倒れたケンジをケトばしてたね。
するとフレンドのコウスケがやって来て、アネキに電話した、スグ警察が来ルぞと叫んだ」
「ああ。
新井谷警視の弟さんね。
新藤君は、家に帰ったのかしら?」
「ノー、オジョー。
病院で寝てる」
「そう。
情けないこと。
トンビ、あなた明日からしばらく、森崎さんの下校時に付いてくださる?
ただし見るだけ。
あたくしが指示するまで手出しはしないで」
「アイ・シー、オジョー」
13 [side:カザン]
われながら驚いた。
ケンジは、戦った経験が皆無なので、実戦性能を試すよい機会だと思ったが、ここまでひどいとは思わなかった。
特に苦痛への弱さが致命的だ。
痛みにより萎縮してしまい、体の動きが極端に悪くなる。
頭部への一撃で意識を失ってしまったのは、これはしかたがない。
防御力と回避力を上げればよいだけのことだ。
だがすぐに意識は回復したのに、そのあと思うように体が動かなかったのは、大いに問題だ。
ニホンにいるうちは、みずから望んでそういう場に行くのでないかぎり、戦闘することはあまりないだろうと思っていた。
だが、今回のように、いざというときがないとは限らない。
カザン本来の精神の力を発揮すれば戦闘力の底上げはできるが、やはり多少は地力をつけておいたほうがよい。
少しだけ本気で、この体の性能を上げておこう。
むろん、本格的な肉体訓練は、高校を卒業してからでよいが。
細胞活性化を行えば、俺は普通のニンゲンの何倍も生きられるはずだ。
あせることはない。
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