旧民社、社民系中間派抑えた連合
それだけではない。並行して「消費税率引き上げなど一体改革では意見がぴたりと合っている」(財界関係者)連合とも歩調を合わせ、連合が民主党内の旧民社党、旧社会民主党系の議員約70人が野田首相ら政府と党執行部の反対に回らないよう「“抑え”に動いた」(財界関係者)のである。
連合系の議員はほとんどが中間派。ここが野田首相・党執行部支持で固まれば、残る中間派は鹿野道彦・前農水相のグループ(約30人)と、羽田孜元首相のグループ(十数人)になり、数のうえで首相側が有利。「そうなれば(不利が明らかになった)小沢元代表についていく人数は減る」(同)との読みもあった。
自民党側にとっても、このあたりの動きは効いたと見られる。谷垣総裁は、この時、最低保障年金などマニフェスト重要項目の棚上げ論について「いい考えだ」と述べたという。公明党もこの変化は無視できず、6月第2週には同調に転じ、翌週から事態は進展していった。
決められない政治を本当に動かすのは、財・労・官の新トライアングルなのかもしれない。
社会保障と税の一体改革関連法案が成立に向けて大きく前進したことで、政界の焦点は衆院解散・総選挙の時期と選挙後の政権の枠組みに移ってきた。
民主党政権に国民受けが悪い消費増税をやらせた方が得策だが、解散の確約を取れていないのは大問題だ――。自民党内では、社会保障と税の一体改革を巡る修正協議で、野田佳彦首相から解散の言質を取らないまま合意に踏み切った谷垣禎一総裁への不満が渦巻く。
しかし、ある自民党議員の見方は異なる。「谷垣さんや党執行部には高揚感が漂っている。公明党が土壇場で民主、自民との3党合意に舵を切ったことも踏まえると、野田首相と谷垣さん、公明が握ったと考えるのが普通だ」。民主党のある大臣経験者も「党内では解散先送りを求める声が大勢だが、消費増税関連法案が成立するメドが立てば野田さんはタイミングを探り出す」と“解散近し”を予言する。
解散時期を判断するうえでのポイントの1つになるのが、衆院選挙制度改革を巡る与野党協議だ。現行の小選挙区の「1票の格差」が違憲状態のまま総選挙を実施した場合、無効判決が出かねない。このことが事実上、野田首相の解散権を縛る構図が続いている。これを利用して解散の先送りを狙っているのが輿石東・民主党幹事長だ。自民党などが1票の格差是正の優先を求める中、輿石氏は今月18日の与野党協議でも比例定数削減や選挙制度改革とセットで合意する案を提示し、協議は物別れに終わった。
しかし、ここでも野田首相が前面に出て今通常国会中に1票の格差是正などで合意できれば、3〜4カ月とされる新制度の周知期間を考慮しても年内解散への環境は整う。「関連法案さえ通せば、無効判決は出ないはず」との見方に立てば、通常国会会期末や9月の民主党代表選直後の解散もあり得る。これは来年の衆参同日選を避けたい公明も望む展開だ。
もう1つの要素が内閣支持率。修正協議で示した「決める政治」を世論が評価し、支持率が上昇基調となれば、選挙制度改革や予算執行に欠かせない赤字国債発行法案成立の道筋次第で、野田首相が早期に国民に信を問う可能性が出てくる。
一方、野田首相が政権延命へ選挙制度を巡る議論や解散に煮え切らない対応を続ける場合は、自公が内閣不信任決議案や参院での問責決議案提出、赤字国債発行法案の否決といったカードを駆使し、今国会で野田首相を追い込もうとするのは必至。違憲判決の可能性がある中、野田首相が解散に踏み切るかどうかが最大の注目だ。
水面下では、解散後をにらんだ動きもうごめく。衆参両院で多数派が異なる「ねじれ国会」の解消を目指し、橋下徹・大阪市長が率いる「大阪維新の会」の躍進を警戒する与野党関係者の間では、公然と選挙後の大連立や政界再編の必要性が語られ出した。解散時期が近づくにつれ、新党結成への動きが活発化するのも確実。「2大政党化」の流れは岐路を迎える。
(編集委員 安藤 毅)
日経ビジネス 2012年6月25日号12ページ
−消費税動かした「財・労・官」−
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