[依存症 女性専用施設]断酒の決意、話しやすく
アルコールなどの依存症に陥る女性が近年目立ち、女性専用ケア施設の必要性が高まっている。
男性と一緒では… 怖い / 恋愛し飲酒再開も
アルコール依存症は、男性の場合、飲酒を始めて20~30年で陥ることが多いが、女性は10年未満でなる例が多い。女性は肝臓が小さく、アルコールの分解能力が低いことなどが原因とみられる。
しかし、女性の飲酒率は20代前半で上昇しており、多量飲酒への警鐘と、女性専用の依存症ケア施設が求められている。今年1月には、神奈川県初の施設「女性サポートセンター・インダー」が横浜市瀬谷区で開所した。
同センター代表の小嶋洋子さん(52)は依存症の経験者だ。父親がアルコール依存症で、酔うと暴れる家庭に育ち、思春期に違法薬物に手を出した。家業を継ぎ、責任が増す中で薬物はやめたが、ストレスを酒で紛らわすようになり、酒量が増えた。32歳でアルコール依存症と診断された。
アルコール依存症は、飲酒習慣をなくす目的で薬物療法などが行われるが、完治はせず断酒を一生続ける必要がある。テレビCMなど飲酒の誘惑は多く、患者同士のミーティングに頻繁に出て、断酒の決意を確認し合うことが欠かせない。
小嶋さんもミーティングに毎日参加して断酒を続け、6年後に横浜市のケア施設スタッフとなった。だが、男性と一緒のミーティングには違和感を感じていた。
「女性は父親や夫、恋人などとの人間関係のねじれで飲酒に走る例が多く、男性の前では体験を素直に話しにくい」。アルコール依存症の男性から、ひどい暴力を受けた経験がある女性も多く、「依存症の男性が怖くてミーティングに出られない人もいる」という。
小嶋さんはスタッフとしてミーティングに関わってからも、男女共同ゆえの問題に度々直面した。「依存症の女性は自己否定感が強く、酒におぼれるような弱い面を持つ男性には、自分のことは後回しで世話を焼きたくなる。一方、依存症の男性は世話好きな女性を求めるため恋愛関係になりやすく、2人で飲酒を再開する例が少なくなかった」
同センターは毎日午前9時から午後5時まで。医療機関から紹介された女性ら約20人が登録し、無料で利用している。毎日行われる1時間半のミーティングは「自分を変える」「気づく」など毎回テーマを決め、意見を述べ合う。困りごとや、飲酒の衝動も包み隠さず話すことが重視される。
今は小嶋さんとスタッフ1人が無給で運営しているが、寄付を募って今年度中に広い建物に移り、横浜市の助成を得て就労支援などを充実させる予定だ。
このような施設は、まだ全国に10か所前後しかない。久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)精神保健福祉士の藤田さかえさんは「断酒をある程度続けると、酒の力でふたをしてきた虐待体験などがよみがえり、うつやパニック状態に陥る女性もいる。きめ細かな対応が必要で、女性専用施設の役割は大きい」と話す。(佐藤光展)
女性の飲酒率 |
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厚生労働省の2008年の調査では、飲酒率は男性の83・1%に対し、女性は60・9%。20~24歳では男性が83・5%で、03年の調査より低下したのに対し、女性は約10ポイント上昇して90・4%となり、男女の逆転現象が起こっている。 |
(2012年6月24日 読売新聞)
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