政治【明日へのフォーカス】論説副委員長・高畑昭男 民主党をぶっ壊せるか2012.6.26 03:04

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【明日へのフォーカス】
論説副委員長・高畑昭男 民主党をぶっ壊せるか

2012.6.26 03:04

 野田佳彦首相が「政治生命」を懸けた消費増税関連法案の採決が26日に衆院本会議で行われる。ここにたどり着くには、いくつもの難しい決断を要したに違いない。採決後もさらに多くの厳しい決断が待っていることだろう。そんな首相に米大統領リンカーンの話を贈りたい。

 「人民の人民による人民のための政治」で知られるリンカーンは、アメリカ型民主主義を代表する指導者に数えられる。だが、常に多数決原理に従っていたわけではない。

 ある時、閣議で閣僚7人全員に反対された。だが、リンカーンはすました顔で「反対7、賛成1。よって賛成に決まりました」と決裁を下したという逸話が有名だ。

 これには制度の違いもある。議院内閣制の日本では、何を決めるにも閣議で全員の承認が必要だが、米国の閣僚は大統領が決断を下すための「助言者」にすぎない。だから、たとえ全閣僚が反旗を翻しても、好きなように決めることができる。

 それだけに、責任もまた重い。

 奴隷解放を掲げてリンカーンが指揮した南北戦争(1861~65年)では、両軍合わせて62万人以上の死者を出した。第一次世界大戦(死者12万人)、第二次大戦(同40万人)、ベトナム戦争(同5万8千人)など米国が今日まで戦った戦争の中でも最悪だ。米人口は今や3億人を超えたが、この時代はざっと3千万人余、南北両軍の総兵力が320万人足らずだったことも考えれば、とてつもない犠牲を払ったといえる。

 リンカーンにとって国家が2つに引き裂かれるのを防ぐには避けられない決断だったが、結果として親兄弟や同胞らが殺しあった傷は深く、大きい。政敵に「非情の人」「原理主義者」「頑固者」などとレッテルを貼られ、揚げ句に暗殺された。

 政治生命というよりも、生命そのものを懸けた決断だった。大統領が「孤独な独裁者」と呼ばれるのは、このように、すべての決断を独りで下さなければならないからだ。

 カーター大統領はホワイトハウスのテニスコートの利用順番まで自ら決裁したという。これは確かにやりすぎだった。しかし、国家の命運が懸かるような決断は、閣僚であれ、補佐官、側近であれ、誰のせいにもできない。失敗も成功もすべてを背負って歴史の評価に身を委ねる。

 リンカーンは共和党だが、民主党のオバマ大統領がしばしば「政治の手本」として尊敬するのは、そうした決断と責任を立派に果たしたという評価によるものだろう。

 幸いにして消費増税は、大量の戦死者を生むような問題ではない。それでも、社会保障の一体改革と併せて国家百年の基盤にかかわる重要な決断であるのはいうまでもない。

 党内融和だとか、総選挙を意識した党利党略といった小事に惑わされないことが肝心だ。また、その結果について速やかに衆院を解散し、国民に信を問うことが欠かせない。

 伝記などによると、リンカーンはきまじめな性格からくるストレスに耐えるため、ジョークやだじゃれを連発したという。このあたりは野田氏と似たところがなくもない。

 野田政治は後手に回りがちで、歯がゆくみえることも否めないが、ここは歴史にどう刻まれるかの瀬戸際だ。重責に背を向けず、民主党政権になって生じた日本政治の巨大な閉塞(へいそく)感をぜひ打破してほしい。生命を懸けて自ら党をぶっ壊すぐらいの覚悟がみたい。

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