全力を出し切って、そして息絶えた。
第二ステップは約35メートルほぼ垂直の岸壁である。
私の前を行く7人程の先頭のひとりが岸壁を3m登った所で
行き詰まり足をバタバタもがいている。
2m程上から連れのシェルパが何とか登らせようと大声を出している、
それ以上全く登れない、一旦降ろせばいいのにと思うが…
まだ上には30m以上の岩壁がはだかっているのだ。
辺りはすっかり明けてどれだけ時間が過ぎただろうか!?
30分か1時間か、立ち止まったままの後続の人たちがぶつぶつ言っている。
待っている私はすっかり体も冷え切り足先がだんだんと
冷たく感覚がなくなってくるのが分かる。
氷にアイゼンの爪先を蹴り込みながら感覚を呼び戻す、
下山の時間が気になる、
ここは8,500mの超高所で起きているアクシデントなのだ。
冗談ではない、皆巻き添えを食うことになりかねない、
何とか手助けしたい気持ちはあるが誰も近づける場所ではない、
そこは被り気味のハングした岩、たった3m上であるが
登って下から支えることは出来ない、
ましてや誰とて手を差し伸べるそんな余力は無い、
ただその様子を他人事のように見守るしかないのだ。
時間がどんどん過ぎてゆく、
その人はやっと小さな岩棚に引っ張られ這い上がった。
最後の力をふり絞り、全力を出し切って、そして息絶えた。
引っ張りあげたシェルパがわめきちらし、
お経を唱えながらしばらくは
後ろから抱き支え体をゆすっていたが、頭を深くたれて
ついに動かなくなった。
全てを出し切ってしまったのだ。
岸壁に背を持たれ両足を空に突き出した格好で
ついに息絶え死んでしまった。
(後日判ったことではイギリス人の若い女性で
セプンサミッツ公募隊の参加者だった)
アイゼンを付けての岩登りは全くへたくそに見え、
どうしてそんな土素人がチョモランマのここにいるのか不思議でならない、
あれは死ぬのが当然だったのだろう。
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