全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全3ページ

[1] [2] [3]

[ 前のページ | 次のページ ]

ここはチョモランマなのだ

イメージ 1

これは幻覚なのか。どうして、どうして手袋は無いのか、
酸素マスクは、温かい飲み物は、もっと暖かい服は無いのか、
そしてほかに仲間はいないのか、私のザックの中には
予備の手袋、温かい飲み物が入っているが、どれも自分のためのもの、

それも最悪のときのために用意しているのだ、
誰とてそれらを与える勇気は無い、
ここはチョモランマ(エベレスト)なのだ。

死ぬか生きるか闘いの場なのだと自分に言い聞かせるしかない、
後ろ髪を引かれしばし立ち止まって考えたが、
結局何もなすすべが無く、両手を合わせて通過するしかなかった。

月光が煌々と山頂の真上に輝いている。
月光が私を頂上へ導いてくれる、
はるか眼下の山々が月光に照らされた水晶の山のように写し出され、
この光景に吸い込まれそうだ、ここは火星なのか、いや夢なのか、


それとも幻覚なのか、鳥肌が立つほど美しいが、
とても冷たい光景である。何人かへたり込んでいる人を追い越し、
やっと最大の関門である第二ステップに差し掛かった、
もうヘッドランプもいらないくらい明るくなった、ヘッドランプを
胸のポケットに無理やり押し込む。

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

第二ステップで・・・

イメージ 1

全力を出し切って、そして息絶えた。
第二ステップは約35メートルほぼ垂直の岸壁である。
私の前を行く7人程の先頭のひとりが岸壁を3m登った所で
行き詰まり足をバタバタもがいている。

2m程上から連れのシェルパが何とか登らせようと大声を出している、
それ以上全く登れない、一旦降ろせばいいのにと思うが…
まだ上には30m以上の岩壁がはだかっているのだ。

辺りはすっかり明けてどれだけ時間が過ぎただろうか!?
30分か1時間か、立ち止まったままの後続の人たちがぶつぶつ言っている。
待っている私はすっかり体も冷え切り足先がだんだんと
冷たく感覚がなくなってくるのが分かる。

氷にアイゼンの爪先を蹴り込みながら感覚を呼び戻す、
下山の時間が気になる、
ここは8,500mの超高所で起きているアクシデントなのだ。

冗談ではない、皆巻き添えを食うことになりかねない、
何とか手助けしたい気持ちはあるが誰も近づける場所ではない、
そこは被り気味のハングした岩、たった3m上であるが
登って下から支えることは出来ない、

ましてや誰とて手を差し伸べるそんな余力は無い、
ただその様子を他人事のように見守るしかないのだ。
 時間がどんどん過ぎてゆく、

その人はやっと小さな岩棚に引っ張られ這い上がった。
最後の力をふり絞り、全力を出し切って、そして息絶えた。


引っ張りあげたシェルパがわめきちらし、
お経を唱えながらしばらくは
後ろから抱き支え体をゆすっていたが、頭を深くたれて
ついに動かなくなった。
全てを出し切ってしまったのだ。

岸壁に背を持たれ両足を空に突き出した格好で
ついに息絶え死んでしまった。
(後日判ったことではイギリス人の若い女性で
セプンサミッツ公募隊の参加者だった)

アイゼンを付けての岩登りは全くへたくそに見え、
どうしてそんな土素人がチョモランマのここにいるのか不思議でならない、
あれは死ぬのが当然だったのだろう。

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

死んでチョモランマの岩となる

イメージ 1

イメージ 2

ミヨラングサンマにはどうしても生贄が必要なのか
エベレストには別名「ミヨラングサンマ」と言う
鬼神の異名を持っていることはあまり知られていない。

時間がどんどん過ぎてゆく、
雲がいつ涌いてくるか気掛かりだ、
いつまでも感情に泣いてはいられない、
運命なのだ。

「チョモランマの岩となれ」頂上は近い。
後ろ髪を惹かれるが、先行の人に続き今息を引き取ったばかりの
彼女の左肩側の岩場を攀じて一段上へ抜ける。

残酷だが誰もどうしょうも無い、本当に他人事ではない、
自分の命は自分で守るしかないのだ。
「死んでチョモランマの岩となるか、生きて神となるか」。

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

私は幻覚を見ているのか

イメージ 1

私は幻覚を見ているのか
慎重に第二ステップ(戦艦の舳先みたい)の上に這い出ると
すぐ正面に頂上が迫って威圧的だ、
左側の雪庇に気をとられながら恐る恐る200m程進むと、
左の雪庇に仰向けになった死体があるではないか、
また、私は幻覚を見ているのか、

ゴーグルをずらし目をこすってみるとまだきれいな真新しい死体である。
どうして仰向けになっているんだ、
この氷の斜面で格好が不思議でならない、素手の両手を握りしめ、
こぶしを空に向かって「かかってこい」と言いたげな格好で
凍り張り付いている。つい最近の遺体であろう、

頂上目前にして、また1人チョモランマの餌食となっている。
「志半ばにして」誰のせいでもない、自分の責任である。
それがチョモランマであることを自分に言い聞かせる。

握りこぶしの指がウインナーソーセージを
焼き過ぎたときのように黒く焦げてプリッと割れて赤みが覗いている。
頭は谷側両足は山側(雪庇)に伸ばし、白目をむき出しのまま、
まるで瞬間にして凍ってしまったのか、どう考えても理解できない、
両手を合わせそっと通り過ぎる。

どこまでも青い宇宙が天高く続いている、
山また山の、神々の世界か、あの世の世界か、
人工の物は何一つ無い、神秘の世界。
酸素を吸うあえぎ声とアイゼンが氷を噛む音だけが聞こえる。

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

残りあと距離500m標高200mほどか

イメージ 1

残りあと距離500m
左はカンシュン氷河へ雪庇が張り出し覗き見ることはできない、
自分が今登っている右の斜面はロンブク氷河より
突き上げた北壁の真上4,000m岩と氷の斜面である。

絶対にスリップは許されない、
スリップしたらこの北壁を真っ逆さまにダイビングし
どれかのクレバス(氷河の割れ目)にはまりこみ、
500年位たって氷河の末端で発見されるだろう。

次の難所である第三ステップに向かう、
ゴーグルが酸素マスクから漏れる息ですぐに曇り凍りつくため、
恐る恐る一歩づつしか進めない。
まるで擦り切れたワイパーから覗いているようだ、

歩行は鈍りすぐに立ち止まって、
またゴーグルの内側に指を押し入れ曇って
凍りついた氷をかぎ落とすのだ、
わずかに爪さきでキズ付けた間から覗きながら進むのだから本当に怖い。

それもわずかの間だけでまた酸素マスクから漏れた空気がゴーグルを凍らせ、
また同じことを何十回も繰り返さなければならない。

この件につき以前からいろいろの登山関係者に、
何か良い方法は無いものか尋ねてきたが誰氏も同じようなことだと言う、
ゴーグルよりも酸素マスクを改良したほうがいいと言う多くの意見だった。

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

全3ページ

[1] [2] [3]

[ 前のページ | 次のページ ]


.

山下健夫(登山家)
人気度

ヘルプ

Yahoo Image

  今日 全体
訪問者 1 4918
ブログリンク 0 4
コメント 0 27
トラックバック 0 1

ケータイで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

URLをケータイに送信
(Yahoo! JAPAN IDでのログインが必要です)

標準グループ

開設日: 2007/9/7(金)

PR


プライバシーポリシー -  利用規約 -  ガイドライン -  順守事項 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2012 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.