その4
「俺そろそろ帰るな」
「おう、じゃあな」
それからゲーセンで時間を潰して、圭一が家 路へとついて行った。
今から家に帰ってもする事がないので、暇つ ぶしにクレーンにコインをいれてみる。
すると、猫のヌイグルミが引っ掛かりポトリ と落ちてきた。
「はぁ……こんなのとってどうすんだよ」
猫のヌイグルミを見つめてため息をつく。
つまらない日常、この日々に終わりが来るの だろうか……
そんな事を思っていた時だった、後ろに気配 を感じて振り返る。
振り返って俺は絶句した、後ろには今日の美 少女美花が立ってこちらを無表情で見つめて いた。
「………………」
「………………」
時が止まったかのように見つめあう二人。
「………い、いる?」
「…………いい……の?」
沈黙に耐えられなくなり、美花にヌイグルミ を差し出すと無表情のまま聞いてきた。
「う………うん」
ヌイグルミをあげるとギュッと抱き締めて、 初めて美花がほほ笑んだ。
「………猫さん」
「じゃ……じゃあ俺はこれで!」
その笑顔があまりにも強烈に可愛いかったの で、顔が赤くなってしまった俺は慌ててその 場を後にした。
美花が最後に何か呟いたように聞こえたが、 それどころではなかった。
次の日、圭一の奴と校門で合流して一緒に教 室へと向かう。
「そろそろ彼女欲しくなってきたな……仕方 ない作るか」
「てめえも俺と一緒で作ろうと思っても作れ ない負け組だろ」
ふふんと笑いながら言う圭一にそう言い、教 室に入る。
しかし、教室に入るとザワザワとしていた。
周りを見ると、女子も男子も他の教室の男子 さえもこの教室を覗いている。
皆の視線の先を見て、俺は固まった。
「………………」
美花が昨日あげた猫のヌイグルミと共に読書 していた。
「見て見て!猫さんと一緒に読書してる!」
「可愛い〜!!!」
女子達はその光景を見てキャーキャー言って いる。
男子達に関しては、あまりの可愛さに言葉が 出ず、萌えレベルをスカウターで測ってい る。
「峻護〜………美花ちゃんを抱き締めさせて くれよ」
圭一の馬鹿な発言を無視して、自然に俺は歩 きだしていた。
「昨日の……持ってきてたんだな」
「……………ありが……とう」
顔をあげて、そう言いジッとこちらを見つめ ている美花。
会話が続かない、何かを待っているようだっ たが何も言えない俺は自席についた。
俺が席につくと同時に周りがザワザワとして き、圭一が走って話し掛けてくる。
「お前ざけんなよ!どういうことだよ!俺の 未来のハニーと会話するなんて!」
若干興奮気味に掴みかかってくる圭一。勝手 にハニーにするな………
「別に……大したことじゃないよ」
顔が近いうえに必死な顔をしている為、ひい てしまう。
「大丈夫だった?美花さん!」
「怪我はない?」
女子の連中は読書をしている美花を心配して いる。
俺は一体どんだけ危ない奴って思われてるん だ?
「………優しい……峻護」
驚いている表情の女子達より驚いたのは俺 だった。名前を知ってくれてたのか………
「貴様〜!何をした魔女裁判だ!今から魔女 裁判を始めるぞ!」
さらにぐいぐい掴みかかってくる圭一。
こいつは何を訳の分からない事を言ってい る?
「とにかく授業が始まる、さぼろうぜ」
急いで圭一と教室を出ようとすると美花が出 口の前に立ち、俺を見上げている。
「………ちゃんと……受けないと……駄目」
猫と一緒に無表情で見て口を開く美花。
「は……はい」
もはやそれしか言う事が出来ず俺は頷いた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。