心の由来:「心」についての身もふたもない話

精神医学・臨床心理学に関連した、あまり実益のない無駄知識を中心とした科学読み物です。

全体表示

[ リスト ]

薬の使用と自殺率増加の問題

  「薬の使用と自殺率増加」というと、一般の人は抗うつ薬の話を思い浮かべるかもしれません。
  しかし、いつだったか『うまくいかない心:うつ病編』で議論したように、抗うつ薬であるSSRIsと自殺との間には、マスコミがヒステリックに騒ぎ立てたほどの関連性はないのです。
  それなのに、なぜか特定のSSRIを名指しで取り上げて、ああもヒステリックに騒ぎ立てたのは、何か「大人の事情」が背後にあったような気がしてなりません。 いやですね、大人って。

  実は、これまでの研究で抗うつ薬であるSSRIsなんて足下にもおよばないような、もっと強烈な自殺との関連性が指摘されてきた薬があるのです。 肝炎の治療薬であるインターフェロン、膠原病やアレルギー疾患で使われる内服型ステロイド剤、そしてベンゾジアゼピン系抗不安薬です。

  それに関連する論文を、私はなぜだか2つほど最近たまたま目にしていました。

  1つは、

Fardet L, et al.  Suicidal behavior and severe neiropsychiatric disorders following glucocorticoid therapy in primary care.  Am J Psychiatry, 2012; 169: 491-497.

  で、内服型のステロイド剤を服用している人は、していない人に比較して、オッズ比にして6.89もの自殺/自殺企図のリスクがあるということ。 数字だけ見るとすごいリスクですが、そもそもステロイド剤を内服しなくちゃいけない人というのは、それなりに大変な疾患を抱えていて、ステロイド剤のその他の副作用を考慮しても、やはり使った方が良いという判断になった人でしょうし、自殺/自殺企図の実際の発生頻度は極めて少ないために、だからどうした、という議論にはならないのです。 ですが、この数字です。 抗うつ薬であるSSRIsなんか目じゃないといった意味がおわかりかと思います。

  もう1つは、

Tiihonen J, et al.  Plypharmacy with antipsychotics, antidepressants, or benzodiazepines and mortality in schizophrenia.  Arch Gen Psychiatry, 2012; 69; 476-483.

  で、統合失調症の人を対象に、メインの抗精神病薬に加えて複数の抗精神病薬が使われている場合、死亡率が変わるかどうかを調べています。
  誰が言い出したか、統合失調症の人に複数の抗精神病薬を使うと早死にするという都市伝説のようなものがあって、それも調べているのですが、結果はネガティブでした。 統合失調症の人で抗精神病薬を使わない場合は、使った場合に比較して死亡率が高くなるのですが、1剤使っている人も、複数剤使っている人も死亡率に差はなかったのです。
  抗精神病薬を複数剤使うことは悪だ、といような最近の風潮ですが、それを支持する科学的根拠はどうなんだろう?ということになりそうです。
  (もっとも複数剤使うと別の副作用で困ることが多いですし、処方書くのが面倒くさいですし、保険点数が下げられて医療機関は収入が減りますし、複数剤使った方が効果が高いことを示唆する科学的根拠も乏しいですので、私は個人的には複数剤処方は好きじゃないのですが・・・)

  で、統合失調症の人に、抗精神病薬に加えて抗うつ薬を併用するとどうか? 結果は、使わない場合に比較して死亡率は下がっていました。 これまでの研究では、抗うつ薬は別に自殺率を上げることはなさそうだけれども、かといって自殺予防効果も疑わしいということになっていましたから、この結果はちょっと意外です。

  最後に、統合失調症の人に、抗精神病薬に加えてベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用するとどうか? なんと死亡率が約2倍にぐっと上がってしまいます。自殺率に限定すると約4倍に上がっています。(自殺以外の、事故による死亡も増えるのですが。)

  ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、統合失調症の治療でも、うつ病の治療でも、神経症やパーソナリティ障害の治療でも、基本的に不安を和らげるために使うことがある薬です。 しかし不安を和らげる作用とともに、感情を自制する力を弱めてしまい、しばしば衝動的な行動を引き起こしやすくなります。 その点ではアルコールと似た効き方の雰囲気があるのです。
  このためか、過去には子どものうつ病に対する治療においても、境界性パーソナリティ障害の治療においても、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用すると自殺や自殺企図が増える傾向がある危険性が指摘され続けていたのです。

  他のところでも言いましたが、この意味でもベンゾジアゼピン系抗不安薬は難しい薬なのです。 日本では精神科医以外の内科とかの先生も、ベンゾジアゼピン系抗不安薬はその別名「マイナートランキライザー」という安易っぽい雰囲気のせいか、安易に使いすぎる気がしています。
  多くの場合、精神的な問題に対するベンゾジアゼピン系抗不安薬は、膠原病やアレルギー疾患に対するステロイド剤と違って、そこまで必須ではないことから、使うにしてももっと慎重に、計画的に使って行かなくてはならないのでしょう。

  なぜマスコミも、素人の人も、抗うつ薬なんかよりも圧倒的に問題であるこっちの方をとりあげないのか、私は不思議でなりません。

 やっぱり、なんか「大人の事情」がからんでいるのでしょうかね。 いやですね、大人って。

閉じる トラックバック(0)

トラックバックされた記事

トラックバックされている記事がありません。

トラックバック先の記事

  • トラックバック先の記事がありません。

芸能人・有名人の新着記事

Yahoo Image
大野未来
その他
06月25日 12:59
Yahoo Image
するぷ
その他FacebookAd...
06月25日 12:47

.

kophee
人気度

ヘルプ

Yahoo Image

ケータイで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

URLをケータイに送信
(Yahoo! JAPAN IDでのログインが必要です)

開設日: 2010/10/29(金)

PR


プライバシーポリシー -  利用規約 -  ガイドライン -  順守事項 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2012 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.