つなぐ 希望の木
災難を乗り越えてきた木々を、都内に訪ねた。
【社会】子どものいない南相馬なんて 妊婦・子育て宅独自除染2012年6月22日 13時55分
東京電力福島第一原発事故で飛び散った放射性物質の除染が進まない中、福島県南相馬市では市民有志が「妊婦や小さな子どものいる家だけでも優先したい」と独自に除染活動をしている。安心して子育てができる故郷を取り戻そうと、見えない放射能に手探りで向き合う。 (木下大資) 「地表、〇・六七マイクロシーベルト。少し下がったね」 原町区郊外の畑に囲まれた一戸建て住宅の庭先。医師や会社経営者でつくる「南相馬除染研究所」メンバーの田中節夫さん(70)が、線量計の数値を読み上げた。雨どいや排水溝、屋内など二百カ所を測り、除染の前後の変化を分析する。 この日は一般的に行われている高圧の水で放射性物質を洗い流す方法ではなく、泡状の薬剤を建物に吹き付け、機械で吸引する手法を試した。考案した東京の業者が実験を兼ね、機材や人手を無償提供してくれた。 庭の表土をはぎ、植木の枝も落として除染を続け三日間。生後一カ月の赤ちゃんが寝ていた部屋の空間線量は毎時〇・五マイクロシーベルトから〇・二マイクロシーベルトに下がった。母親の池田美紗季さん(19)は「数値を知るだけでも気が楽になる。地元で子育てができるのはうれしい」とほっとした顔を見せた。 「高圧洗浄と違って放射性物質を垂れ流さないのがいい。問題はコストですね」と田中さん。南相馬除染研究所は業者や専門家の力を借りながら、効果的な除染のモデルを探っている。活動はメンバーの自己資金や寄付が頼り。データは市に提供し、全域の除染が始まる際に役立ててもらうことを目指す。 活動のきっかけは原発事故後、市内で子どもを産む女性が激減したことだった。「子どもがいなくなった地域に将来はない」。原町区で産婦人科医院を開く高橋亨平院長(73)が呼び掛け、昨年七月から妊婦宅や保育園の除染を続けてきた。 高橋院長は「実際のところ年間一〇ミリシーベルトぐらいの低線量被ばくは健康上問題ない」とみる一方で、「妊婦の心理的な不安を軽くしたい。数値を確認し、無意味な風評をなくしていくのが最大の復興だ」と話す。 事務局理事の箱崎亮三さん(52)は「何もせずにいたら、この土地から確実に人がいなくなる。最先端の除染技術をそろえて、原子力災害を乗り越えるまちづくりを進めたい」と力を込める。 ■仮置き場決まらず 市の着手に遅れ 福島県内の除染は、警戒区域や計画的避難区域は国、それ以外は市町村が計画を立てて実施する。費用は国が負担するが、回収した汚染土の仮置き場がなかなか決まらず、着手が遅れている。個人で先に除染した場合の費用は、現状では自己負担になる。 南相馬市は市内の道路や住宅、事業所など四万二千戸を二〇一四年度までに除染する計画。 当初は二月から始めるつもりだったが、市有地に決めた仮置き場の周辺住民の同意が得られず、始まっていない。まず線量が高い山間部で、九月ごろ着手する見通し。 福島市では既に千戸以上の民家を除染したが、うち仮置き場が決まらない四百戸で汚染土をいったん庭に埋めて保管する状態が続いている。 草野利明・防災専門官は「住民は地域外からの土の持ち込みに抵抗がある。地区ごとに仮置き場を確保するしかないが、市街地では難しい」と頭を悩ませる。 汚染土を集めて長期管理する国の中間貯蔵施設は、まだ建設地が決まっていない。 (東京新聞) PR情報
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