(本)大久保幸夫「日本の雇用 ほんとうは何が問題なのか」

2012/06/24
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日本の雇用問題について扱った新書を手に取ってみました。読書メモをご共有。


雇用構造の変化を振り返る

・1930年の昭和恐慌によって、製造業を中心に、工場労働者を非正規社員化する動きが生まれた。また、大企業が新卒採用を抑制したことで、「大学は出たけれど(小津安二郎)」就職できないエリートが溢れた。これが「新卒採用」という文化を日本に生み出す結果となった。

1973年のオイルショック不況。労使が協調し、残業削減と採用抑制をおこないながら、生産性を高めて不況を乗り切った。日本的雇用慣行が世界から評価を受けた。政府は雇用保険法を定め、セーフティネットを強化した。

・1986年の円高不況は、生産拠点の海外移転、大企業の中途採用の普及をもたらした。人材の流動化。

・1991年まで続いたバブル景気が崩壊し「人件費の変動費化」が叫ばれた。固定費だった人件費を変動費化し、大きな景気の山谷にも対応できるようにしよう、という主張。この方針にもとづき、非正規社員が増加した。1991年には19.8%だった非正規社員比率は、2008年に34.1%にまで達した。

・バブル崩壊後には成果主義も導入された。年功序列から脱却し、正社員の賃金を抑制するために行われた。個人と企業の家族的な関係性は損なわれ、正規社員ですら雇用に不安を感じるようになってきた。

・非正規化はあくまで「変動費化」が目的だったが、後に企業は「安さ」も求めてしまった。「同一労働同一賃金」も叫ばれたが、実効はあがらなかった。非正規化の陰には、若い世代の人材育成が停滞した、という課題もある。

・外国人株主が増えて来たことと平行し、株主重視経営も行われるようになった。株主は短気業績を重視しがちなので、リストラを後押しする圧力が働いた。

・レールが崩れ、ミドルからシニアにかけての生き方を自分でプランニングしなければならなくなる。会社任せで経験を積んできて、ミドルの年齢になったある日「ところでこの後はどうするの?」と突然会社から聞かれるようになった。


日本の雇用について

・企業の業績悪化に伴う整理解雇は、合理性を満たす4つの条件(①解雇の必然性、②解雇回避努力義務、③解雇基準の公平性、④労働者への説明義務)をクリアしない限り違法とみなされる。そのあため、正規社員の解雇は実質ほとんどできない。

・いつの間にか雇用は三層になっていた。第一階層は正規社員、第二階層は常用・非正規社員、第三階層は臨時・非正規社員。この三層でみると雇用構造は良く理解できる。

・雇用調整の方法は①残業抑制、②配置転換、③一時帰休・休日増加、④解雇・雇い止め、⑤採用抑制の5つ。残業抑制はすぐに限界が来るし、連結会計によって「隠れ蓑」的な配置転換も難しくなった。解雇は法的に規制されている。

・ワークシェアリングに注目が集まるが、疑問が残る。労働者は賃金が下がる、企業は生産性が下がる、政府は税収が下がる、という三方一両損の方法。分かち合いの気持ちがあるのであれば、単純に期間を決めて賃下げを我慢し、その間もしっかり働き、学び、改善活動を続けた方がよいのではないか。

日本人は短時間労働への欲求がそれほどないので、ワークシェアリングはあわない。また、既に労働の成果は時間によらないものになっていることも忘れてはならない

・企業がなぜ新卒採用を重視するのか。第一には、大量の人材を効率的に採用できる唯一の機会だから。第二には、企業のコアとなる人材をつくる方法として優れているから(高度な人材と効率的にコンタクトできる)。第三には、人材に対する投資としての側面(不況時に採用を止めてしまうと、数年後の景気上昇フェーズで生産回復が遅れる可能性がある)。第四には、継続することで採用力が上がるということ。

新卒一括採用は、若年の失業率を低く抑え、かつ企業の人的資本強化に貢献している事実もある。これをやめることは失業率の上昇に間違いなくつながる。

・日本の失業者の77%は失業給付を受給していない(ILO調査、2008年)。非正規労働者が雇用保険に入りにくいことが原因。

・雇用調整助成金の功罪。休業手当の一部を政府が保障する。これが人材を塩漬けにして、有望な新分野への労働移動を阻害する、という批判がある。実際に、雇用調整助成金をもらった事業所が閉鎖する比率も高い。

・日本の年齢階層別転職率を見ると、ミドルになると急激に下がり、45〜54際では2.5%となる。ミドルは転職したくても転職できないという閉塞感の中にいると解釈できる。

80歳まで働くのは、高齢社会・日本が避けて通れない道。40は人生の折り返し地点、あと40年どうやって働くか?

・もっとも重要なのは正社員制度の改革。常用・非正規社員という中間層を、地域限定社員、職域限定社員などの期限を定めない雇用形態で採用する。給料は正社員ほどではないが、無期限なので安定性が高まる。これを法制度上でも整備して「条件付き無期雇用」という雇用契約モデルを作る、という案があり得る。


というわけで、日本の雇用の歴史や制度、各種問題について分かりやすく解説してくれる一冊です。雇用問題について考えるための入門書としてオススメです。